
外国籍ひとり親「児童扶養手当」38%自治体が“不支給”回答 「裁量逸脱」の可能性を弁護士が指摘

東京高等裁判所管内の13の弁護士会によって構成される関東弁護士会連合会(関弁連)が6月3日午後、オンラインで会見。
理事長の種田誠弁護士は「外国籍のひとり親家庭が『児童扶養手当』を申請する際の請求手続きに、不公平、不平等が存在していることがわかった」として、意見書をまとめ、こども家庭庁などに送付したと明らかにした。
意見書は関弁連が東京高等裁判所管内の都県(1都10県)、および同都道府県内の496自治体を対象に実施したアンケート調査に基づき、検討・分析を加えたもの。
調査自体は2023年10月12日付で各自治体に依頼文の送付を行い、2024年1月31日までに374の自治体が応じたという。
「ひとり親家庭の重要な収入」だが…
児童扶養手当とは、ひとり親家庭などの「生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もつて児童の福祉の増進を図ること」を目的としたもの(児童扶養手当法1条)。
一定の所得制限が設けられているものの、全額支給の場合は、1人目の子どもに対し4万6690円、2人目以降は1人1万1030円が支給される(2025年4月以降の場合)。
厚生労働省が5年おきに発表している「全国ひとり親世帯等調査報告」(2021年度)によると、母子世帯の平均年間収入は272万円、就労による収入は236万円となっている。
また、2023年3月時点で、全国で81万7967人が受給しており、受給率は母子世帯の69.3%に上っているという。
こうした状況から、関弁連は意見書で「低所得世帯の多いひとり親家庭にとって、児童扶養手当は極めて重要な収入である」と指摘する。
しかし、外国籍のひとり親家庭の場合、手当の申請時に自治体によっては、入手が難しい本国(出身国)発行の証明書類(独身証明書など)が求められ、申請そのものが受理されない事例が多発しているという。
「住んでいる市町村によって手当の支給に差」
神奈川県弁護士会で外国人の権利に関する部会の副部長を務める小豆澤史絵(あずきざわ・ふみえ)弁護士は、自身の担当した事例を語った。
「とあるフィリピン国籍女性の代理人を務めていた際、裁判所での離婚手続き後に児童扶養手当の申請をするよう、女性にアドバイスをしました。
しかし、その女性から『自治体に申請したところ、受理されなかった』との話を聞き、自治体側に説明を求めました」
このとき、自治体側は「離婚手続きが終了したと証明するフィリピン本国(母国)の書類等がない限り、児童扶養手当は支給していない」と回答したという。
小豆澤弁護士は「私が担当した経験のある他の市町村ではそのような事例はなく、おかしいのではないかと思った」という。
「当該の自治体には『隣の市町村では、裁判所の調停調書があれば受け付けている』などと説明したのですが、なかなか納得してもらえませんでした。
最終的には神奈川県の担当者などと交渉した結果、そちらの自治体が方針を転換し、ようやく申請を受理してもらえました。
住んでいる市町村によって手当の支給に差があるのは非常に問題があります。
ですから、まずは神奈川県弁護士会でアンケート調査を実施し、その結果、やはり自治体ごとに申請受付時の対応に差があると判明したため、今回関弁連でもアンケート調査を実施しました」(小豆澤弁護士)
約38%の自治体「申請受け付けない」「支給しない」と回答
関弁連の調査の結果、374の自治体のうち143自治体(約38%)が、外国籍のひとり親家庭が手当を申請した場合、「本国発行の書類がそろわなければ申請自体を受け付けない」もしくは「申請を受け付けても本国発行の書類がそろわない場合には支給をしない」対応をとっていることが明らかになった。
これら自治体側の対応について、関弁連の中村亮弁護士は以下のように訴える。
「児童扶養手当は1961年の制度開始当初、母子家庭だけが支給の対象となっていましたが、その後は対象の拡大が続きました。
実際、2010年には父子家庭が対象となり、さらに現在では、離婚が成立しておらず法的な婚姻が継続しているケースでも、片方の親からの扶養が全く期待できない児童の場合は、支給の対象となっています。
つまり、これまでの背景から考えれば、児童扶養手当の支給にあたっては柔軟な運用が求められるのではないか、というのがわれわれの結論です」(中村弁護士)
「裁量を逸脱したとして、損害賠償責任を負う可能性も」
また、先述したアンケート調査では、189の自治体が、外国籍住民に対し本国発行の書類提出を義務付ける運用の根拠として「厚生労働省からの通達」を挙げていた。
しかし、2012年の6月21日に発出された、児童扶養手当の申請手続きに関する厚労省の通知では、外国人に係る事務処理について「原則として日本人に対する取扱いと同様に行うものとする」と明記。申請に必要な書類についても次のように示している。
「認定請求書、現況届等の添付書類として、戸籍の謄本又は抄本を提出させることとされている場合には、これらに代えて、必要に応じ、本人の申立書、民生委員・児童委員の証明書等、受給資格等に係る事実を明らかにすることができる書類を添付させるものであること」
中村弁護士はこうした厚労省の通知などをふまえ、一部自治体の対応について「不当であり、本国の書類がないことは、申請や支給を拒否する理由にはならない」と強調。
「先述した通り、そもそも児童扶養手当の支給対象は、法的な離婚が成立した家庭に必ずしも限りません。
ですので、本国の離婚証明書等を提出しない限り、手当を支給しないという運用は不合理と言わざるを得ません。また、当然どの自治体に住んでいようと、子どもの生活・福祉は充実されるべきです。
児童扶養手当は単なる行政サービスではなく、法律で定められた制度です。自治体の誤った指示により本来受給できる手当が支給されないとなれば、裁量を逸脱したとして、自治体が損害賠償責任を負う可能性もあります」(中村弁護士)
「声を上げず、泣き寝入りする人も」
会見の終盤、小豆澤弁護士は「このような理不尽があっても、外国籍のひとり親の場合、声を上げるのが難しい側面がある」と述べた。
「在留資格が短期であるなど、不安定な立場に置かれていることから、声を上げることで不利益を被るのではと考え、泣き寝入りする人もいます。
ですので、こうした対応を自治体にとられた方の実数を把握したり、裁判を起こして現状を是正したりするのは困難な状況です。
だからこそ、今回の意見書をもとに、行政の側に対応を改めてもらう必要があると考えています」(小豆澤弁護士)
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