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「会社の代わりに“社宅”の家賃立て替えも…」脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」元社員らが未払い賃金等求め会見 社長「一日でも早くお支払いできる環境を」

「会社の代わりに“社宅”の家賃立て替えも…」脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」元社員らが未払い賃金等求め会見 社長「一日でも早くお支払いできる環境を」
給料未払いによる窮状を訴える元社員(5月23日 都内/榎園哲哉)

美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を全国におよそ170店舗展開するMPH(旧ミュゼプラチナム、本社・東京都港区)の元社員と、支援する労働組合「コミュニティユニオン東京」は5月23日、未払いとなっている給与の支払いを求め、都内で会見を開いた。

給与が支払われず、さらに解雇・退職勧奨された元社員はおよそ2500人にも上る。業界大手の同社で一体何が起きたのか。(ライター・榎園哲哉)

およそ2500人もの社員・従業員に退職勧奨

会見には、首都圏の店舗と本社で勤務していたいずれも女性の元社員9人と、「コミュニティユニオン東京」の松井優希副委員長ら3人が出席した。

冒頭、ユニオンの白滝誠書記長が説明した一連の事案の経緯によると、経営悪化によりミュゼプラチナムは昨年9月、経営陣を刷新しMPHへ移行。全ての事業を同社が継承した。

しかし、経営は好転せず、同11月からは給与の遅配・欠配が生じ始め、店舗の全店休業にも至った。さらに、今年3月31日付をもって解雇・退職勧奨することを通告。対象の社員・従業員はおよそ2500人にも上っている。

給与の未払いが4か月に及ぶ元社員もおり、未払い給与の総額は約15億円にも上る。松井副委員長は「働いてきた分の賃金(給与)を一日も早く得られるように、組合として全力を挙げたい」と言葉を強めた。

“社宅”家賃立て替えや、住民税の未納も?

会見に臨んだ元社員からは、給料未払い、さらには一方的な解雇・退職勧奨に伴う生活のひっ迫状況が語られた。

元社員Aさんは、社宅の保証人になっていたことから、会社が支払うべき家賃およそ数十万円を立て替えている状況だという。

また、本来給与から差し引かれているはずの住民税について、「給与明細からは引かれていたはずだが、役所に行くと一部未納と回答された」と、今後の住民税の追加納付への不安も語った。

元社員Bさんは、3か月分の給与が未払いで貯金などを切り崩しながら生活している。再就職活動での面接で、退職理由について聞かれた際に、「給与未払いです」と答え苦笑された経験もあるという。

元社員Cさんは、「3月末に会社側から『給与を払えません』『失業保険をもらったほうが皆さんのためです』と言われ解雇された」と話す。

しかし、本社の業務がほぼ機能しておらず、ハローワークに提出する離職票の受け取りが遅れ、失業保険は最近まで仮受給の状態が続いていた。

MPH社長「売り上げ金差し押さえられる信じ難い事態が発生」

2000人を超える社員・従業員への給与が払えず、さらには解雇・退職勧奨するに至った背景に何があったのか。

MPHの髙橋英樹社長は、同社の「YouTube」公式チャンネルで、経営が急速に悪化した状況を説明している。

2024年11月、旧経営陣による年金未納の発覚に伴い、社会保険庁に売り上げ金を差し押さえられ、「店舗の売り上げが会社の口座に入金されないという信じがたい事態が発生した」(髙橋社長)。11月から今年2月までの営業損益は、毎月数億円にも上っている。

「資金繰りに決定的な打撃を与えた」(同)として、旧経営陣の関与と“内紛”とも呼べる確執が経営悪化に拍車を掛けたことも示唆した。

危機的状況だが、髙橋社長は「ミュゼプラチナムを再度築き上げることをお約束いたします。必ず以前以上のサービスを提供できるよう努力してまいります」と再建の意向を示している。

新事業として、フランチャイズ型店舗の「どこでもミュゼ」も始めている。

救済求め、元社員ら第三者破産申し立て

会社事情により給与を支払われていない元社員は、救済されるのか。

事業主が破産手続き開始の決定を受けたなど、法令が定める「倒産事由」に該当している場合に、従業員への未払い賃金があるときは、従業員は政府から「立替払い」を受けられることになっている(賃金確保法7条「未払賃金立替払制度」)。実施主体は労働者健康安全機構、原則として未払い分の8割が立て替えられる。

ところが現状、前述した通り、髙橋社長が会社存続の意志を明らかにしており、倒産事由を満たしていない。

これに対し、元社員らは5月16日、東京地裁へ第三者破産を申し立て受理された。今後、同地裁による審理が行われ、「法律上の倒産」について判断される見通しだ。

また、「未払賃金立替払制度」には、中小企業に限り、法律上の倒産(破産手続き開始など)に至っていない場合でも、特例的に救済の対象とする「事実上の倒産」がある。MPHは資本金1000万円であり中小企業に該当する(サービス業の場合、資本金5000万円以下であれば中小企業の要件をみたす)。

そこで、ユニオンの白滝書記長は、MPHも実質的に事業が困難な状態にあるとして、厚生労働省に対し、この「事実上の破産」に該当するとの認定を求めていく方針だと説明した。

髙橋社長「一日でも早くお支払いできる環境を整えたい」

自力での給与支払いについて、髙橋社長は公式チャンネルで「一日でも早くお支払いできる環境を整えるべく全力をつくしてまいります。支払い再開につきましては、5月末を予定しており、本年12月末までには全額完済が終了する予定です」と強調。元社員・従業員に対し、支給(一括・分割)スケジュールを送っているという。

しかし、現在MPHは資産を持っていない。グローバルブリッジファンド合同会社(GBF)がMPHに資金を融資し、商標権などの権利関係もすべて保有している。

このような状態で、元社員・従業員らにどう未払い賃金を支払っていくつもりなのか。

筆者の問い合わせに対し、MPHは「GBFからの仮払いで処理する予定です。その原資は、どこでもミュゼ280店舗と新生ミュゼ50店舗による①加盟金含めてオープンに係る売り上げ、②ミュゼコスメ販売による売り上げ、③今後の来店施術売り上げ、こちらの売り上げの一部と商標利用料としてGBFに入る予定の毎月約3億円を給与に充てる予定です」と回答している。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

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