日常生活の疑問から社会問題まで、法律をわかりやすく、もっと身近に。

中国BYD、26年後半に「軽EV」日本市場投入へ…海外自動車メーカー苦戦の‟独自規格・商習慣”にどこまで食い込める?

中国BYD、26年後半に「軽EV」日本市場投入へ…海外自動車メーカー苦戦の‟独自規格・商習慣”にどこまで食い込める?
日本でのタッチポイントが充実しつつあるBYD( Lewis Tse Pui Lung / PIXTA)
日常生活

「トランプ関税」で世界経済が揺れるなか、中国自動車メーカーのBYDが2026年後半にも軽自動車のEV(以下、軽EV)を日本市場に投入するとのニュースが駆け巡った。

日本自動車産業の「非関税障壁」となっていた軽自動車市場。この分厚い壁は突き破られるのか…。(自動車コラムニスト・山本晋也)

国内産業を保護する「非関税障壁」に外圧

日本に対して相互関税をかけた理由の一つとして「非関税障壁が大きい」と米国のトランプ大統領が主張したことは、日本市場を揺さぶった。

ここでいう「非関税障壁」とは、独自の制度や商習慣が海外企業の参入障壁となり、国内産業を保護している実態があることを指摘する言葉である。

荒っぽく表現するなら、「非関税障壁を解消して、アメリカ産のクルマが日本で売れるようにしろ!」とトランプ大統領は主張。そして、トランプ大統領は貿易の流れを調整し、アメリカが日本からの輸入品に課す関税を高く設定することで、日本ににじり寄っているわけだ。

日本独自のカテゴリー「軽自動車」

たしかに、日本の自動車市場においては以前から「軽自動車」という独自のカテゴリーがあり、それが外国企業・海外自動車メーカーにとって非関税障壁になっているという指摘は根強い。

なにしろ、現在の日本は新車販売の4割近くが軽自動車。生産ラインに軽自動車を用意していない海外メーカーにとっては、その事実だけで日本市場は数字上、実質的に6掛けの規模になっているといえるからだ。

この壁をなんとか突破すべく、トランプ大統領は相互関税というある種の「チカラ技」で攻め立てているが、どうやらそれだけが、非関税障壁の解決手段ではないようだ。

非関税障壁をダイレクトに突破する中国自動車メーカー

奇しくもトランプ大統領の相互関税が話題となっているタイミングで、まったく別の方向から大きなニュースが飛び込んできた。

「中国の自動車メーカーBYDが日本向けに軽EVを開発中で、2026年後半に市場投入する」というのだ。

本稿執筆時点では、2026年にローンチされる軽EVは乗用タイプであることが公表されているのみ。どのような性能を持ち、どのくらいの価格帯で販売されるかは未定だ。いずれにせよ、久しぶりに海外メーカーが軽自動車というカテゴリーに参入してくることになった。

過去にはベンツも参入したが

実は、海外メーカーが軽自動車カテゴリーのモデルを販売することは初めてではない。

有名なところでは、2000年代初頭にメルセデスベンツが「スマート」ブランド向けに開発した2シーターコミューターを日本の軽自動車規格に合致するように手直しをして正規販売したことがあった。

その名も「スマートK」と名付けられた日本専用モデルは、600ccターボエンジンの右ハンドル車、価格も日本の軽自動車とさほど変わらないレベルに抑えた意欲作だった。

ただ、大ヒットしたかといえば答えはノー。前述したように2シーター(二人乗り)だったことが理由だろう。軽自動車の多くは、一人乗りで使われているシチュエーションが多いとはいえ、やはり後部座席のないクルマに抵抗があるユーザーは多かった。

ズバリ、BYD軽EVの勝算は?

BYDの軽EVに話を戻すと、驚くのは軽自動車用に車体の基本となるプラットフォーム(車台)を開発するという点だ。日本独自の規格に、そこまでの開発費をかける計画という事実は、そのコストを十分にペイできるだけの販売台数を想定していることを意味する。

はたして、BYDの軽EVに勝算はあるのだろうか。

ひとつ言えるのは、日本ではEVというジャンルにおいて軽EVが圧倒的に売れているという事実がある。

2024年度、日本のEV市場でもっとも売れたのは軽EVの日産サクラの2万832台で、なんと2022年度から3年連続のトップとなっている。

2022年度から3年連続で軽EVトップに君臨する日産のサクラ

EVで航続距離を稼ぐには多くのバッテリーを積む必要がある。それは車両コストの増大につながる。もともと近距離利用を想定しているユーザーが多い軽自動車であれば、バッテリー搭載量をほどほどとして、価格を抑えたモデルが成立する。

上記が、日本のEV市場でサクラが圧倒的に支持されている背景にある。

現時点でBYDが日本市場に投入を予定している軽EVのスタイルは未発表であり、サクラのようなハイトワゴンになるのか、それともホンダN-BOXのようなスライドドアを持つスーパーハイトワゴンになるのか不明だが、後者は軽自動車の売れ筋であり、このスタイルで安価な軽EVが登場すれば、大きなインパクトになることは確実だろう。

前述したように、BYDが軽EVのためにプラットフォームを開発するのであれば、おそらく年間数万台規模の販売をもくろんでいることは間違いない。

バッテリー製造をルーツに持つ自動車メーカーBYDが、コストパフォーマンスに優れたモデルを多数展開しているのは知られたところだ。軽EVにおける競争力も期待できるだろう。

ヒットする要素は兼ね備えている

マーケティング的視点でいうと、日本の軽自動車ユーザーには、登録車ほどブランドロイヤリティが高くないという特徴がある。

具体的には、特定ブランドにこだわらず、費用対効果の高いクルマを選ぶ傾向が強い。

そうしたユーザー特性を考えると、軽自動車ユーザーの多くが求めるスライドドアスタイルの軽EVを、サクラ同等の価格帯で発売することができれば、ヒットする可能性は大きいといえる。

しかもBYDは日本中に販売網を整備しているところで、全国津々浦々の軽自動車ユーザーへのタッチポイントは充実しつつある。

価格とバッテリー性能(航続距離)次第だが、日本の自動車市場における参入障壁を、BYDの軽EVが突破する日は案外近いかもしれない。

なお、現在の軽自動車の規格は、道路運送車両法において、排気量660cc以下、長さ3.4メートル以下、幅1.48メートル以下、高さ2メートル以下の三輪および四輪自動車となっている。軽自動車の規格が制定されたのは1949年だが、以降、規格の改正や拡大を繰り返し、現在に至っている。

■ 山本 晋也
1969年生まれ。編集者を経て、2000年頃よりフリーランスとして活動開始。過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コラムニストとして執筆活動を継続中。二輪と四輪のいずれも愛車とする視点から次世代モビリティを考察するのもライフワークのひとつ。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

この記事をシェアする