探し物は「アイスクリームのフタの‟持ち主”」!? 探偵に「見つけにくいもの」を捜索依頼する人たちの差し迫った事情とは

警視庁遺失物センターが4日、2024年の拾得物の状況についてデータを公開した。それによると、拾得物の総数は過去最多となる約440万件(前年比7.8%)。そのうち、現金は約44億9000万円だった。
落とし物をすると心がざわつき、たいていの場合、平静ではいられなくなる。大切な人との思い出が詰まっているならなおさらだ。いても立ってもいられず、捜索のプロ・探偵に依頼する持ち主も少なくない。
さっぽろ探偵事務所代表の和泉慎一氏がこれまでのキャリアで印象に残っている‟探し物”として明かした2つのアイテム。それらは、意外なモノであり、探す理由も独特で――。(和泉 慎一:さっぽろ探偵事務所代表)
※個人情報とプライバシー配慮のため、登場人物や性別、場所は変えています。
3年悩んだ末に“探し物”を依頼した人の事情
「あの…お墓を探していただけないでしょうか」

事務所にかかってきた電話の向こう側の声に、私は一瞬耳を疑った。
そのころ私は探偵として駆け出しで、「お墓」と「探す」がすぐには結び付かず、しばらくの間、頭の中が混乱した。
「見つけにくいものですか♪」という井上陽水の名曲「夢の中へ」の歌詞にあるように、探偵に持ち込まれる探し物のほとんどは見つけにくいもの。これは良くも悪くも、職業柄仕方がないと思っている。
依頼者は30代前半の女性。見た目は派手でなく、話し方も丁寧な印象だった。
「実は、お墓を探してほしいというのは、私が故人と世間的に許されない関係だったからです。もう10年以上交際があり、連絡がないと思っていたら大きな事故にあい、亡くなったことを知りました。葬儀も知りませんでしたし、せめてお墓参りを…と3年間悩んで、こちらに電話したのです」
不貞の良し悪しはされた側が決めること。私にそれを責める理由は一切ない。感情を押し殺しながら丁寧に話す依頼者に、「それならば」と依頼を受けることにした。「さぁ、大変だぞ」と心の中で思いながら…。
わずかな情報をつなぎ合わせ、見つけ出す
依頼者に聞いた情報からまず、新聞記事を探した。私たちの仕事は正確性を重視するので、一番大切なのは新聞のソース。さかのぼって調べていくと依頼者の言う通り、該当する記事にたどり着けた。
<正面衝突、40代男性死亡>
事故の内容は凄惨(せいさん)で、ここには書きづらいものだった。
次にあらかじめ聞いていた自宅住所のマンションを訪問。「まだ住んでいるかもしれない」と期待したが、すでに引っ越していた。近隣で目的や理由をぼかした上で聞き込みをすると子どもはおらず、いつの間にか引っ越ししていたとのことだった。
依頼者にそれを伝えると「実家の場所を言っていた記憶が少し残っています。確か札幌市白石区にある南郷通7丁目付近の分譲マンションだった記憶が…」と追加情報をもらえた。
漠然とした話ではあるものの、見つけられなくもない範囲だ。幸い、姓に一部特徴もあったので、住宅地図を片手に付近を歩き回った。
捜索開始から2日後、予想外にすぐ場所を突き止められた。というのは、エリア的に区分所有、いわゆる分譲マンションの件数が多いため、大変なはずだったが、依頼者が生前にもらったベランダからの写真を持っていたため、そこから割り出しを行い、当たりをつけた。
余談だが、写真一枚から場所を割り出すのは探偵が一番得意とするところ。ある程度技術が必要だが、それは企業秘密ということで…。
入念な準備のうえで「裏取り」
訪問する際、いきなり「探偵です」とは言えない。心苦しくも「実は〇〇さんと生前お付き合いがあり仏前に手を合わせたく」と理由を偽り、訪問することにした。
親御さんがいるなら年齢は70代、午前は病院や用事を済ませる傾向が強く、お昼ご飯は自宅で食べることが多い。いくつかの要素を考慮し、在宅の可能性が高そうな13時に訪問することにした。
インターホンを鳴らすと初老の女性らしき声で応対があり、快く出迎えてくれた。話をすると「あまりにも突然のことで、最初は現実を受け止められずつらかったです。いまも仏前で毎日会話しています。でもだいぶ慣れてきました」と近況を明かしてくれた。
ただ、故人の思い出話になると本題を切り出しにくい。実際には知らない相手であり、気まずさもある。それでも耳を傾けていると、「それと…嫁も事故からあっという間に荷物を片付けて、一周忌にも来ませんでした。薄情なものです」と不満の声が漏れてきた。
そのタイミングを見計らい、思い切って切り出した。「実は、私は探偵でして。とある依頼者からお墓に行きたいので探してほしいと頼まれまして」
母親は「え? 誰ですか、直接来られないのですか?」と当然のように質問を返してきた。もう後に引けない。依頼者から伝えて構わない旨も聞いているので全部話すことにした。
「そういう事があったのですね…どうしよう…本来は会えないはずですし、でもそこまで息子のことを思ってくれていたのですか…連絡先をいただけますか?」と聞かれ、依頼者に電話をして承諾を得た上で、お母様に電話番号を伝え、深々とお礼と非礼をわび、その場を去った。
1か月後、依頼者から「お母さんから電話をいただき、家に招かれてお話をしました。本当にありがとうございます」と報告の電話をもらった。探し物は無事、見つかった。
依頼内容はアイスのフタの“持ち主”を探して
もうひとつは、「家の前にモノが捨ててある」という訴え。だれがなんの目的でやっているのか‟持ち主”を突き止めてほしいとの依頼だった。
依頼者から送られてきた写真を見ると、モノはアイスクリームのフタや吸い殻の「ゴミ」だ。さすがにこれは「風で飛んで来たのではないか」と思ったが、結局、依頼者の熱意に押され、調査することになった。
驚いたことに証拠が出た。
風によるものではなく、家の前を通る時にわざわざ助手席の窓をあけ、ゴミを投げ捨てる瞬間が撮影されたのだ。
ならばと何度も張り込みと隠しカメラを仕込み、最後は投げている犯人を追いかけて身元を特定。弁護士から慰謝料請求の流れになった。
なんのための行動だったのか
犯人はなぜそんなことをしたのか。理由は「家の前に路上駐車しているのが気に食わなかったから」とのことだった。
相手には調査料も一部請求した。大きく慰謝料を取れた事案ではないが、依頼者には「腑に落ちて良かったです」と喜んでもらえた。
ここで紹介した2つは、金額というより、依頼者の心をざわつかせる事案であり、プロに依頼してでも探し出したかったのだろう。難題ほど、探偵冥利に尽きるというものだ。

一方で、警視庁の調査によると、現金の落とし物44億9000万円のうち、約32億3000万円が持ち主に返還されているという。このデータをみるにつけ、まだまだ日本は平和だなとつくづく思う。
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