物価高騰「ボディーブローのように効いている」9割の医療機関、経費や人件費を診療報酬で補填できず 保団連が調査結果を発表

10万人を超える医師・ 歯科医師で構成される全国保険医団体連合会(保団連)が3月11日、都内で会見。保団連が医療機関を対象に実施していた、物価高騰の影響に関するアンケート調査の中間集計結果を発表した。
調査は2月に実施したもので、4503の医療機関が回答。保団連の森元主税(ちから)副会長は「とにかく診療報酬を上げてほしいという回答が多かった」として、次のように語った。
「人生100年という時代で、健康寿命を延ばしなさいと国も言っています。しかし、医療機関の安定経営なしに、地域医療を守り、住民が安心して医療を受けられる体制を維持することはできません。
短い期間のアンケート調査でしたが、この結果をもとに、診療報酬の期中改定を強く求めたいです」
「値上げがボディーブローのように効いている」
保団連の集計によると、調査に回答した医療機関のうち65.6%が、診療報酬改定前の昨年1月と比較し、収入が下がったと回答。約41%の医療機関では、昨年1月比で10~20%以上の減収となったと答えている。
自身も歯科医院を経営する森元氏は「20%も収入が下がるというのは、はっきりいって閉院を考えるような状態だ」と説明した。
また、診療報酬の改定で、光熱費や材料費などの経費を補填(ほてん)できたかどうかの質問では、91.9%の医療機関が「補填できていない」と回答している。
「病院で使う手袋やマスク、紙コップといった、使い捨ての備品は、確かに一つ一つを見れば大した金額ではありません。それでも年間でみれば大きな金額となり、値上げがボディーブローのように徐々に効いています。
さらに、国が進める『医療DX(※)』にかかる費用は機械の導入費用だけでも高額です。加えて、病院がテナントだった場合、ビルオーナーの承認が必要になることもあり、閉院するときには原状回復の費用も必要になります。高齢の医者の場合、こうした費用をリタイアまでにペイできなくなるのではないでしょうか」(森元氏)
※ オンライン診療、電子カルテの導入などデジタル技術を活用して医療の業務やシステム、データ保存を改革する取り組み。
79.4%が賃上げ実施「無理を押して補填」
人件費に関する質問では、90.2%の医療機関が診療報酬の改定では「補填できていない」とする一方、79.4%が2024年分の賃上げを実施したと回答している。
「最近、人件費の高騰でかなりの企業が倒産したとの報道を目にしましたが、われわれ医療機関もそれは同じです。
物価高騰がいつまで続くかわからず、赤字になる医療機関もあるなか、それでも人件費を上げなければ、ほかの業種に人員が流れてしまいます。
医者自身の給料を削ったり、リタイア後のための貯蓄を取り崩して、無理を押して補填しているところも、かなりあるようです」(森元氏)
この日会見に出席した保団連の工藤光輝氏も、森元氏の発言に同調し、次のように補足した。
「給料を上げなければ、当然人は集まりません。
ですが、給料を上げたとしても、たとえば大手ショッピングモールがその地域にできたりすると、そちらの方が良い条件で働けるため、医療機関が人を募集しても集まらないという話をよく聞きます。
医療業界では、診療報酬が原資であり、診療報酬で人件費の手当てがされない限り、この状態が続いてしまいます。国にはぜひ、診療報酬の引き上げが必要だと理解してほしいです」
首相らに要望書を提出
保団連ではこの日、今回の中間集計結果をもとに、石破茂首相、加藤勝信財務相、福岡孝麿厚労相宛てに要望書を提出。
「公定価格である診療報酬が低く据えおかれている中での経費増により、医療機関は医療スタッフ、事務スタッフの賃金を引き上げたくても、引き上げられない状況にある」として、以下の2点を求めた。
「物価高騰や人件費の引上げに対応するため、期中改定を実施し、基本診療料を中心に診療報酬を大幅に引き上げること」
「すべての医療機関に対する緊急財政措置を行い、十分な補助を、簡易な手続きで受けられるようにすること」
調査結果の最終集計結果については、月内を目途に公表予定だという。
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