“空き家”が詐欺・薬物犯罪の温床に…持ち主が「法的責任」を問われるケースとは?【弁護士解説】

警察庁は特殊詐欺の被害金や、密輸された不正薬物の送付先に空き家(空き部屋)が利用されているとして、XやHPなどで注意を呼びかけている。
これらの注意喚起を受けSNS上では「地域で気をつけるようにしたほうがいい」といった声が上がっていたほか、「再配達行ったらどう見ても空き部屋ってのがあったな…」など自身の経験を投稿する人も見られた。
「既存の対策やコロナ禍など要因に」
特殊詐欺や不正薬物の事件で、実際に空き家が悪用されるケースは、どれほど発生しているのだろうか。
警察庁は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「統計をとっていないため、具体的な件数については答えられない」と回答。
ただ、特殊詐欺の被害金のうち、2024年までの過去5年間では、毎年6%から14%程度が、「現金送付型」の手口によるものだといい、被害金を空き家・空き部屋に送付する手口も、この中に含まれているという。
また、空き家・空き部屋が特殊詐欺や不正薬物などの犯罪で悪用されるようになった背景について、警察庁の担当者は「具体的な要因・背景は一概にはいえない」としつつ、次のようにコメントした。
「特殊詐欺に関しては、金融機関の窓口などでの声かけや、口座凍結等の被害防止対策を回避する目的がうかがわれます。
また、不正薬物に関しては、コロナ禍で人の動きが制限されたことで、人による密輸が減少し、郵便や貨物による密輸に形態が集中したことが要因の一つではないでしょうか」
空き家での犯罪、持ち主の法的責任は…?
空き家問題に詳しい荒川香遥(あらかわ こうよう)弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)によれば、空き家が犯罪に悪用されること自体は、特殊詐欺や不正薬物に関わらず、昔からよくあることだという。
たとえば空き家や空き部屋が犯罪に悪用された場合、持ち主や管理会社らに何かしらの法的責任が生じるのだろうか。
荒川弁護士は「仮に空き家や空き部屋が犯罪に悪用されていたとしても、その持ち主が負う法的責任は特にありません」としつつ、その理由について、次のように解説する。
「空き家の所有者は、あくまでその建物が倒壊してしまった場合など、構造物から生じる損害が発生した場合に責任を負うのみです(民法717条1項参照)。
したがって、犯人が犯罪に利用することを知って、空き家や空き部屋を貸しているといった事情がない限り、無断で不動産を利用されたとしても、犯罪行為について責任を負うということはありません」
“内覧用のキーボックス”から鍵入手、空き部屋で200万円受け取った事件も…
最近の事例では、空室の内覧用に設置されていたキーボックスから犯人が鍵を入手し、闇バイト強盗や特殊詐欺などの犯罪で得た金品を受け取るケースがあるという。
昨年11月には、キーボックスから鍵を不正に入手し、アパートの空き部屋で現金200万円を受け取ったとして20代の男が逮捕されたと報じられた。
こうした場合も、物件を管理している不動産業者らになんらかの責任が生じる可能性はあるのだろうか。
「先述した空き家の持ち主と同様に、その不動産の管理者が責任を負うことは基本的にありません。
キーボックス自体、広く賃貸物件などで利用されており、あくまで犯罪者がそれを違法に、無断で利用しているからです。
もちろん、いずれも、道義的な意味では“責任がある”のかもしれませんが、損害賠償責任などの法的な責任まで負うかといえば、難しいのではないでしょうか」(荒川弁護士)
万が一の場合は「“泣き寝入り”となるおそれ」
ただし、法的責任を負う可能性がないからといって空き家をそのまま放置しておくことも、持ち主や管理者らにとってはリスクとなり得る。
「仮に、空き家や空き部屋が悪用され、それによって部屋が荒らされるなどなんらかの被害が生じたとします。
その損害についての賠償責任を犯人に問うことは法的には可能ですが、犯人を特定できない場合も考えられますので、現実的には“泣き寝入り”となるおそれがあります」(荒川弁護士)
では、空き家や空き部屋の悪用を防ぐため、何に注意すれば良いのだろうか。
警察庁はポストや合鍵の管理を徹底するとともに、以下のような不審な点がある際には、警察(#9110)や税関(0120-461-961)に連絡するよう呼びかけている。
・空き家の様子を窺う不審者がいる
・何者かに侵入された形跡がある
・空き家(空き部屋)のはずなのに頻繁に荷物が届けられている
・見慣れない表札が貼られているなど、違和感のある表示がある
持ち主に責任が生じることはないとはいえ、「放置している空き家がある」「アパートなどの管理をしている」といった場合には、これらの点を頭に入れておくと良いだろう。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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