山上徹也被告“起訴”から2年経過も裁判が始まらない理由 「公判前整理手続き」で何が行われている?
2022年7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、山上徹也被告(44)が殺人罪等で起訴されてから丸2年が経過した。
今月4日には6回目となる「公判前整理手続」が行われたと報道されたが、インターネット上には「裁判(公判)はまだか」「進みが遅い」といった声が多く上がっている。
山上被告の裁判は本当に「遅い」のか。遅いとすれば、なぜか。刑事弁護に注力する髙野傑弁護士(早稲田リーガルコモンズ法律事務所)に、「公判前整理手続」では何が行われているのか、裁判の進行を遅らせる“要因”について話を聞いた。
「公判前整理手続」では何をしている?
髙野弁護士は、山上被告の裁判のスピード感について「個別事件の具体的事情はわからないが」と前置きした上で、次のように語る。
「山上被告の裁判は『裁判員裁判』の対象事件で、『公判前整理手続』に付されています。
そのような裁判の場合、起訴から公判まで平均しても14か月かかるという統計があります。公判前整理手続が2年以上かかる事件は多くはありませんが、山上被告の事件の重大性、特殊性を考えると現時点では特別に遅いとも言い切れないと思います」
公判前整理手続とは、公判が始まる前に事件の争点や証拠などを法曹三者(裁判官、検察官、弁護人)で確認する準備のことで、裁判員裁判の対象事件のほか、主に被告人側が請求し裁判所が必要と認めた事件で行われる。
「どこが裁判の争点かを事前に明らかにすることで、公判をスムーズに進めることを目的としています。検察側・弁護側双方が争点を立証するためにどういう証拠を使うのか、証人として誰を呼ぶのかなどを話し合い、裁判に必要な日数や、その日程まで決めていきます」(髙野弁護士)
なぜ「公判前整理手続」には時間がかかるのか
あくまで公判前に行う「準備」であるにもかかわらず、実際は何に時間がかかっているのだろうか。
髙野弁護士は、現在の法律では「時間がかかるのはいかんともしがたい」として内情を説明する。
「あまり知られていませんが、起訴前の段階では、弁護人であっても捜査機関が持っている証拠は一切見ることができません。つまり公判前整理手続の段階になって初めて閲覧が可能になります。
しかも、この時点で弁護人が見られるのは、検察官が裁判で使う予定の証拠だけ。つまり、被告人・弁護人にとっては不利なものです。弁護人としては、検察官が使わない、もしくは見せたくないと考えている証拠こそ見たい。そこで証拠開示請求をして、被告人にとって有利な証拠がないかを確認します。
ところが、この証拠開示にまず時間がかかるのです。私が現在担当している事件でも、検察官が証拠開示を始めてからすでに半年たっているものがあります。そして開示された証拠のすべてに目を通し、弁護人としての主張を固めるためにはさらに相応の時間を要します。これが、公判前整理手続が長期化してしまう要因のひとつとなっています」
検察が最初からすべての証拠を開示すれば済む話だが、「現状の法律では、検察官が義務的に開示しなければならないのは自分たちが裁判で使う証拠だけ。それ以外については、弁護人が一定の要件(証拠開示の対象となる条件)を満たしているから開示してくれと求め、それを受けた検察官がその可否を判断するという流れになります」(髙野弁護士)。
公判開始が遅れることは「望ましくない」が……弁護人の葛藤
被告人が勾留され、保釈が認められない場合、弁護人にとって公判の開始が遅くなることは、被告人の身体拘束期間が長引くという意味で望ましくない。
髙野弁護士は「証拠開示を徹底的に受けることを優先するのか、迅速に進めることを優先するのか、比べざるを得なくなる場面はどうしてもあります」と弁護人としての葛藤を明かす。
「しかし、たとえ犯人であることが間違いないとしても、行為態様で刑を軽くする事情がある事件はあります。弁護人としては、『犯罪をしたのは間違いないから、被告人に不利な証拠だけで裁判をしていい』とは間違っても言えません。もちろん身体拘束期間が延びることは本意ではありませんが、きちんと被告人に説明して、時間をかけてやらざるを得ないというのが正直なところです」
意図的に裁判を遅らせるメリット「ない」
山上被告の事件は元首相の死去という重大な結果をもたらしたほか、「旧統一教会」をめぐる一連の問題も表出した。それゆえかインターネット上では、検察側あるいは弁護側など「誰か」が「恣意(しい)的に裁判を遅らせているのではないか」と推測する陰謀論的なコメントを目にすることもある。
しかし、前述した通り、弁護人からすれば早く裁判を進めたくても、必要な証拠を確認できるまでは進められないという現実があるという。また、髙野弁護士は「検察側にとっても意図的に公判前整理手続を長引かせるメリットはないと思う」と話す。
「たとえば検察側が追起訴したいと考えているなど、事件の捜査がまだ残っている場合に証拠開示が遅くなることはあります。しかし、もう捜査が終わって起訴されている状態で『裁判の期日だけ長引かせたい』ということはあまり考えられません」(髙野弁護士)
報道等によれば、山上被告の公判前整理手続では、主に被告人が事件時に所持していた手製の銃について、法律が定める「拳銃等」にあたるかなどの争点が話し合われているという。初公判の日程は決まっておらず、早くても夏以降になる見通しだ。
取材協力弁護士
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