交番へ相談も「特殊詐欺」被害発生…犯罪見破れなかった“警察官”に「損害賠償責任」を追及できるか【弁護士解説】

昨年11月に京都で、今年1月に徳島で、警官が特殊詐欺を見破れず、被害が発生した事件が相次いだ。いずれも、詐欺と疑われる電話を受けて怪しんだ市民が交番に相談したが、対応した警察官が詐欺と見抜けず、被害につながった。京都の事件でも徳島の事件でも、被害者は30万円をだまし取られている。
このようなケースで、被害者は、警察官が被害を防止できなかったことについて損害賠償責任を問えるのか。
警察官個人の責任は問えないが…
まず、相談を受け対応した警察官の個人責任を問うことはできるか。行政法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は、これを否定する。
荒川弁護士:「前提として、警察官は公務員です。判例によれば、公務員に対し個人責任を追及することは認められていません(最高裁昭和30年(1955年)4月19日判決参照)。
その代わりに、『国家賠償法』という法律に基づき、公務員が過失によって違法に他人へ 損害を加えた場合には、その公務員が属する国・地方公共団体に損害賠償請求をする余地があります(国会賠償法1条1項)。
本件では、警察官が所属する京都府、あるいは徳島県に対し、損害賠償責任を追及できるかが問題となります」

京都府・徳島県の損害賠償責任を問えるか
仮に、被害者が京都府または徳島県に対し国家賠償法1条1項に基づき損害賠償請求訴訟を提起した場合、その請求が認められるか。
国家賠償法1条1項の要件は以下の通りである。
①公権力性
②職務関連性
③公務員の過失・違法性
④損害
⑤過失ある行為と損害との因果関係
このうち、問題となるのは主に「③公務員の過失・違法性」と「⑤過失ある行為と損害との因果関係」だと荒川弁護士は指摘する。
荒川弁護士:「まず、本件では警察官の職務行為が問題となっているので、①公権力性、②職務関連性は問題なく認められます。
『④損害』については、被害額30万円と、他に慰謝料が考えられます。慰謝料の額は10万円程度でしょう。なお、本来は犯人に損害賠償請求をするのが筋ですが、特殊詐欺の場合は犯人の特定も被害額の回収もいずれも困難であることを考慮すると、国家賠償請求の対象となり得ます。
したがって、結局、問題となるのは『③公務員の過失・違法性』と『⑤過失ある行為と損害との因果関係』ということになります」
警察官の職務行為の過失・違法性
本件の場合はどうか。まず、警察官の『③過失・違法性』については、認められる余地があるという。
荒川弁護士:「判例は『職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と』行為した場合に、過失・違法性が認められるという基準を示しています(最高裁平成5年(1993年)3月11日判決参照)。
警察官は職務上、犯罪被害を防止するよう可能な限り努力する義務を負っています。『結果を防止したか』ではなく『可能な限り努力したか』が問題です。
京都の事件でも、徳島の事件でも、いずれも警察官は、特殊詐欺を疑った被害者から相談を受けて、実際に電話の相手方と話もしています。
また、犯人はいずれも『通信会社』を名乗っており、『クラウドの使用料金の未納』『サイトの未納料金』などを名目に振り込みを請求していたとのことですが、これらは『架空料金請求詐欺』という典型的な特殊詐欺の手口です。警察庁のHPでも主要な手口の一つとして注意を呼び掛けており、警察官であれば十分に理解しておくべきことだったといえます。
したがって、少なくとも、相手方と通話しただけで直ちに判断するのを避け、相手方の電話番号や身元、通信会社が実在するか否か等を確認してから相談者(被害者)に回答・指導することは可能だったはずです。
なお、いずれも事後に警察側が『指導を徹底する』とコメントしていることから、指導が十分に徹底されていなかったことも推認されます」
「因果関係」も認められるが…
次に、『⑤過失ある行為と損害との因果関係』も、認められる余地があると指摘する。
荒川弁護士:「京都、徳島のいずれのケースでも、被害者は特殊詐欺を疑っていました。
したがって、警察官が『怪しいのでやめておきましょう』とまで言わなくても、『現時点では判別できないので、相手方の素性等を確認してから判断しましょう』などと回答していただけでも、被害者は振込をしなかったはずです。
警察官が積極的に問題なしとしてOKを出したからこそ、それが被害者の判断に決定的な影響を与え、被害を招いたと考えられます。
したがって、警察官の過失ある行為が、被害者の損害の発生に重大な因果的寄与をしたということで、因果関係が認められる余地があります」
とはいえ、国家賠償請求を行うことは多大な労力を要するうえ、被害額によっては「費用倒れ」になってしまう。
自衛手段は「相手方の素性確認を徹底すること」
特殊詐欺の手口は巧妙さを増しており、自衛手段がますます重要になってきている。よく「その場で自己判断せず、信頼できる機関に相談を」と言われるが、その機関の一つである警察でさえ全幅の信頼をおくことが困難になっている現実がある。どうすればいいのか。
荒川弁護士:「たとえば、『今日中に振り込んでください、さもないと…』という類の脅し文句については100%『架空料金請求詐欺』と割り切って構わないでしょう。
実務上、料金の不払いがあるからといって、電話の催促だけでいきなり裁判を起こされるなどの不利益が生じることはあり得ません。必ず、事前に支払督促が送られてくるなどの文書を用いた『警告』があります。
また、他の特殊詐欺の手口でも、銀行の『窓口』ではなく『ATM』から振り込むよう言われた場合や、口座の暗証番号を聞かれた場合は100%『詐欺』と判断して問題ありません。
そして、相手方の素性を確認することを徹底してください。名前と所属する組織を聞き出し、まずは電話を切って、インターネット等で情報収集するべきです。 架空であればその時点で詐欺と判断できますし、組織が実在する場合にはそこに電話等で連絡して、本当にそのような請求を行ったかどうか確認することも有効です」
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