著作権・商標権は「人間の怒りや独占欲をブーストさせる」側面も…ネット時代の“エセ権利”トラブル対処法

弁護士JP編集部

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著作権・商標権は「人間の怒りや独占欲をブーストさせる」側面も…ネット時代の“エセ権利”トラブル対処法
いきなり配信動画を削除されることもあり得るという(mits / PIXTA)

著作権・商標権トラブルは「自分には関係ない」と思われがちだが、実は誰もが加害者にも被害者になり得る。

時代がネット中心にシフト後は、長らく、コピー、アップロードの手軽さから生じる海賊版など、権利侵害に関するものが主流だった。ところが、最近は良くも悪くも誰もがプレーヤーになれることにより、思いもよらないトラブルも発生している。

さらに生成AIの浸透もあり、「より複雑な知財系トラブルが発生する可能性がある」と懸念するのは、知財に詳しい友利昴氏だ。

「たとえば生成AIは一部で過剰にヘイトを集めており、“エセ著作権”のひとつの潮流になりうるでしょう。機械学習への忌避感から、具体的な不利益が何もない段階で『パクられるかもしれない妄想』にからめとられているむきがあり、これまでの『パクられた妄想』より一歩退歩しているといえるかもしれません」

無数にあるネット情報の中からAIがデータとしてデザインや情報を勝手に収集し、さもAIがゼロからつくったようにアウトプットされる。こうした形で、ネット上に情報を置く人々が「AIにパクられるかもしれない」と不安を感じる――これが「パクられるかもしれない妄想」だ。

アウトプットに具体的な類似性があればまだしも、それがないうちからAIというだけで不正視したり、拒絶反応を示したりするのは冷静さを欠いていると言わざるを得ない。もっとも、友利氏は「CG技術やMP3技術などへの一時的な忌避感同様に、こうした拒絶反応も数年で淘汰され、妥当な共存関係ができるのではないか」と展望。長くは続かないとみている。

動画プラットホームで不条理トラブル発生増大も…

より深刻といえそうなのがもう一つの潮流だ。

「それはプラットホームへの虚偽の権利侵害通報です。自称権利者が、YouTubeやAmazonなどにアップされている動画や商品を権利侵害と偽って削除させたり、収益を自分に誘導したりするトラブルです。こうした行為は信用毀損(きそん)や業務妨害になり得ます」と友利氏。すでに顕在化しており、今後、増大する可能性もあるという。

実際あった事例では「編み物著作権事件」がある。このケースでは、編み物を教える動画を運営するYouTuber・A氏が、他の編み物動画を「パクリだ」と著作権侵害としてYouTubeに通報。それを受け、YouTubeは動画を削除し、消されたYouTuber・B氏が損害を被ったとして訴訟トラブルに発展。結局A氏は、虚偽の通報でB氏に損害を与えたとして、損害賠償を命じられた。

「巨大動画プラットホームは通報を受ければ、実体的な法的検討はせず、動画を削除します。削除された側から異議申し立てがあれば、審査を経て復活してもらえますが、削除されれば収入にも直結しますし、そうでなくとも正当な表現の機会を奪われること自体が不利益です。そもそも、編み物の一般的な編み方の解説をしただけで『パクられた』と訴えること自体、ナンセンスです。そんな通報が当たり前のように通ってしまえば、なんでもありになってしまいます」

また、フランスの新興音楽著作権管理会社が、YouTubeにアップされている著作権の切れた曲や海賊版音源を大量に自社の著作物として申告して収入を得ている疑惑があり、最近米国でユニバーサルミュージック等から訴えられた事例もある。

意図的に自身が著作権者だと偽るのであれば、より悪質だ。動画の権利を「奪われた側」が、泣き寝入りする、被害に気付いていないといったケースもあると思われ、実態の解明が待たれる。

ネット時代の知財トラブルといえば前述の通り、海賊版など権利侵害の問題が多かった。今でもその問題は解決されたとは言い難いが、それと同時に、誰でも手軽にプラットホームへの通報ができたり、公に他人を非難できるがゆえの“エセ権利”トラブルも時代とともに、深刻化、複雑化している。

もはやなんでもありの混沌(こんとん)状態といっていい。誰もが加害者にも被害者にもなる可能性をはらみ、思わぬトラブルがいつ発生してもおかしくない状況にある。

思わぬトラブルに巻き込まれないために

友利氏はこうした中で、めんどうなトラブルを起こさない・巻き込まれないための心構えを次のように助言した。

「人間ですから、感情の乱れや欲望は無くすことができません。著作権や商標権は、人間の怒りや独占欲をブーストさせる側面もあります。でも知的財産権法は、権利者の利益だけのためにあるのではなく、利用者の自由も保障しており、その両方のバランスを取ることで社会秩序を守っているのです。権利を盾に誰かを訴えるなら、そのことを認識したうえで、自分が権利主張を押し通すことで、ほかの誰かの自由を過度に制限していないか、という自問を忘れないでほしいですね。

逆に訴えられた場合は、クレームを受けても慌てず、“ エセ権利”かもしれないという疑いを持つ姿勢が大切です。突然、著作権や商標権を主張されると、慌ててしまうこともあると思いますが、専門家に相談すれば『こんなの言いがかりですよ』とすぐに判断できることも多いです。やましいことがないなら、安易に謝罪などせずに堂々と反論した方がいい場合もあります。無視して相手にしない方がいいケースも少なくないですよ」

知財関連の講演活動なども行う友利氏は2月18日(火)、都内で対談イベント「時代を超えた企業の顔 ――明治vs平成 ロゴ対決」(https://dokushojin.net/event/846/)を開催する。

【友利昴(ともりすばる)プロフィール】
作家。企業で知財実務に携わる傍ら、著述・講演活動を行う。
ソニーグループ、メルカリなどの多くの企業・業界団体等において知財人材の取材や、講演・講師を手掛けており、企業の知財活動に詳しい。
近著『江戸・明治のロゴ図鑑』(作品社)、『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)の他、多くの著書がある。1級知的財産管理技能士。

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