“裏金”の発覚後も温存…年315億円超「既存政党の特権」が国民に与える“弊害”とは 政党の離合集散は「政党交付金」目当て?

総務省は1月17日、2025年の政党交付金を9つの政党が申請したことを発表した。毎年、1月1日時点での所属国会議員数、過去の国政選挙の得票率に基づき交付され、試算によれば今年の交付額の総額は、2024年と同程度の約315億3600万円となる見通し。
政党交付金は1994年の「政治改革」の際に設けられた制度だが、導入に際しても、また、導入後も、様々な観点から問題点・弊害が指摘されてきている。また、実際に「政党交付金目当て」ととられかねない政党の離合集散が繰り返されているのは周知の通りである。しかし、自民党の裏金問題を受けて行われた2024年の公職選挙法改正では、政党交付金の制度には一切手を付けられることがなかった。いうまでもなく政党交付金の財源は私たち国民が納める「税金」である。
政党交付金の問題点とはどのようなものか。「政治資金オンブズマン」代表として長年、「政治とカネ」の問題に取り組んできた神戸学院大学法学部の上脇博之教授(憲法学)が、憲法・民主主義の観点から、政党交付金が政党、国民に対しもたらす「弊害・リスク」について解説する(第3回/全5回)。
※この記事は上脇博之氏の著書『検証 政治とカネ』(岩波書店)から一部抜粋し、再構成しています。
あの“金権政治家”でさえ批判した政党助成金
1994年の「政治改革」は、企業献金という腐敗の温床を断つことができなかったばかりか、国会議員に新たな財源を与える大盤振る舞いをしてしまいました。それが「政治改革四法」のうちの一つ、政党助成法による政党交付金の導入です。
この制度は、国民1人当たり250円として、それに総人口をかけた金額を毎年、政党交付金として税金から拠出し、各政党に分配するというものです。
ロジックとしては、政治改革によって企業献金が制限されることになるので、それによって政党の資金が枯渇しないように、税金で面倒を見ようということです。
これによって企業と政治家との癒着がなくなるということで、導入当時は「国民1人当たりコーヒー1杯分で、きれいな政治が実現する」と喧伝されていました。
ところが、企業献金は事実上容認されたままになりました。結果として、かつての財源も温存しながら、政治家たちの新たな収入源をつくってしまったことになります。
当時、自民党の実力者であって脱税事件で逮捕された金丸信元副総裁ですら、政党交付金について「そんなものを導入したら『泥棒に追い銭』になる」と言って反対していました。彼は自民党の金権体質がよくわかっていたのでしょう。
自民党がバブル時代よりも“増収”した理由
2024年の政党交付金の総額は、9つの政党に対して総額315億円あまり。各政党の金額は、「議席数割」と「国政選挙での得票数割」で決まります。最大の自民党は160億5300万円、野党第一党の立憲民主党は68億3500万円、日本維新の会は33億9400万円……と、かなり大きな金額が毎年4回に分けて政党に支払われています。

なお、日本共産党は政党助成制度に反対し、政党交付金の受け取りも拒否しています。
政党交付金の存在が政党にとっていかに大きなものかと言うと、たとえば自民党が得ている収入の額はなんと、日本がバブルの好景気に沸いていた1980年代後半と比べても多くなっています。1986~1989年の自民党の政治資金収入(「前年からの繰越金」及び借入金を除く)の平均は、206.1億円。一方、2018年から
2021年の平均は248.1億円ですから、バブル時代よりも現在のほうが収入は増えています。
政党交付金のおかげで、世間が不景気になっても自民党だけは「バブル状態」が続いているとも言えます。これでは、一般の国民の苦しみが理解できるとは思えません。
政党交付金が「既存政党の特権」と化している理由
私は、政党交付金制度は違憲だと考えています。
たとえば、政党交付金を受け取れる政党というのは政党助成法で定義されていて、国会議員が5人以上所属しているか、国会議員が1人以上所属していて全国の選挙で2%以上の得票率を得ているか、でなければなりません。
これらのいずれかを満たさない政党や無所属の国会議員は政党交付金をもらえないわけですから、少数者が不当に排除されていることになります。明らかに、憲法14条の定める「平等原則」に反しています。
そもそも、なぜ5人以上ならばお金がもらえて、4人では駄目なのか。そこに合理的な線引きがあるとは思えません。無所属の議員も選挙で選ばれた国民の代表に違いないのですから、差別的な扱いをしてはいけないはずです。
結局、政党交付金は既存の政党が自分たちだけに都合が良いようにルールを定めた「特権」になってしまっているわけです。
百歩譲って政党助成制度を存続させるとしても、少数政党や無所属の国会議員を排除しない仕組みになるよう法改正すべきです。
与党支持、野党支持にかかわらず「自己決定権」が侵害される
さらに言えば、政党交付金は憲法13条が保障する自己決定権にも反しています。これは与党を支持するか、野党を支持するかにかかわらず、すべての人にかかわる問題です。
私たちが選挙で投じる一票は、自分たちが政治家にしたい候補者のために投じているわけです。しかし、たとえば、「本来は与党の候補者を応援しているけれど、今回はちょっとお灸をすえるためにあえて野党の候補者に投票しよう」という場合もあるでしょう。
ところが、「野党にお金まではあげたくない」と思っていても、自分が投じた一票の分は政党交付金の配分基準では野党にカウントされてしまいます。自分の投票が自身の政治的な立場に反して政党交付金に利用されてしまうことを拒否できません。これでは投票者の自己決定権が侵害されているわけです。
ここでも同じく百歩譲って政党助成制度を維持するという場合、選挙とは別に、政党交付金の配分先を決める投票を実施するのならば、今よりはまだよいでしょう。ただし、そもそも政党助成制度が必要ないと思っている人は投票自体を拒否したいはずですから、有権者の過半数が棄権したら政党助成制度を廃止する、というルールにしてもらいたい。
つまり、政党の資金を本当に税金で支えるべきなのかどうか、国民の手に決定権を返してほしいのです。
政党が「国営化」され“自律権”が侵害されるおそれも
憲法21条が保障する「結社の自由」も侵害されています。結社の自由は憲法で保障された権利ですが、自由である以上はお金集めも原則として自分たちでしなければなりません。そこに不当なお金が入り込んでしまうことによって、その結社の本質が変わってしまいます。
今回の場合で言うと、政党に税金が投入されることで半分国営のような団体になってしまうわけですから、これは自律権の侵害と言えます。
このような意見に対しては、「自律権に基づき政党交付金の受け取りを拒否すればよいだけのことで、自ら進んで政党交付金を受け取ろうと決めたのだから自律権の侵害ではない」と思う国民もいるかもしれません。
しかし、これに関しては、政党交付金は一種の「麻薬」だと考えるとわかりやすいと思います。当人たちがよいと思っていても、それは政党をむしばんで、本来のあり方を歪めてしまっているわけです。
実際、ドイツでは政党助成制度について、1960年代に違憲判決が出ています。日本国憲法が制定される時にも、政党交付金のような制度を導入したらどうか、政党条項をつくったらどうかという議論があったのですが、そうした制度自体がよくない、ということで退ける国会答弁がなされています。
政党助成金目当てが露骨? 年末ぎりぎりに「5人で新党結成」
もう一つ、政党助成制度の問題点は、政党交付金があるために野党が必要以上に多党化してしまうことです。かつて、元首相の細川護熙(もりひろ)氏を中心に、当時の新進党から分かれた人たちで「フロム・ファイブ」という小政党が結成されたことがありました。
1997年12月26日に結成され、所属議員は5人。ここからは推測ですが、「フロム・スリー」や「フロム・フォー」ではこの政党はできなかったのではないかと思います。議員が5人以上集まることで、政党交付金をもらえる条件を満たすからです。
年末ぎりぎりに結成されているところも意味があって、政党ごとの政党交付金の金額は1月1日時点で算出されますから、年内に「駆け込み」で結成する必要があったとも想像できてしまいます。
新しいところでは、2023年12月21日、元国民民主党の前原誠司衆議院議員が記者会見し、自身を代表とした新党「教育無償化を実現する会」の設立を発表しました。所属国会議員は同じく国民民主党を離れた4人と前原氏の計5人。やはり、2024年分の政党助成金をもらう条件を満たしています。
このように、年末になると新党が結成されるのは、年の瀬の風物詩と化している感があります。
こうした例を見てもわかる通り、議員が5人集まれば政党助成金をもらえるわけですから、国民の間に「こういう党が必要だ」という声がなくても、政党内部の内輪もめなどのちょっとしたきっかけで新党がつくられることで、必要以上に多党化してしまいます。
本当に必要だという民意があって野党が多党化するのならよいのですが、民意とは関係なしに政党ができてしまうこと自体が健全ではありません。
これに「小選挙区制」が加わることで、野党同士が共倒れになり、結果として与党を利することになる。「一強多弱」が続く政治状況を生む原因にもなっています。
- この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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