節分豆は「誤嚥しやすい食材」伝統行事に“まさか”のリスク、死亡例も…子どもの事故防ぐには

笠井 ゆかり

笠井 ゆかり

節分豆は「誤嚥しやすい食材」伝統行事に“まさか”のリスク、死亡例も…子どもの事故防ぐには
「豆を使わない豆まき」も増えているというが…(ノンタン / PIXTA)

保育園や幼稚園、学校などで、「鬼は外、福は内」と言いながら豆まきをしたことがある人も多いのではないだろうか?

古くから節分の日は、鬼や邪気を追い払うために豆をまいたり、健康を願って恵方巻きを食べたりする風習が伝えられている。

しかし、近年の保育園や幼稚園では、“豆を使わない豆まき”をするケースが増えているそうだ。これには、食べ物を喉に詰まらせる「誤嚥(ごえん)」による、乳幼児の死亡事故が減らないという事情がある。風習が変わりゆく背景を取材し、誤嚥事故を防ぐべく調査に乗り出したこども家庭庁に話を聞いた。

丸めた新聞紙で“豆まき”

娘が幼稚園に通っていたころ、節分の日に「豆の代わりに丸めた折り紙をまいた」と聞いて、驚いたことがあった。周囲の保護者に話を聞くと、中には本物の豆をまくケース もあったが、娘が通っていた園と同様に、新聞紙や折り紙を丸めたものをまいたという話もあった。

最初は、「食べ物を投げてはいけない」といった教育上の配慮なのかと思ったが、今回の取材で、かつて保育士をしていた友人に話を聞いてみると、「働いていた園では豆をまいていたが、誤嚥事故が起こらないよう、かなり気を張り詰めて見張っていた」という。

さらには、「豆まきが終わった後は、園児が落ちた豆を食べないようすぐに掃除し、豆が床に残っていないか慎重にチェックしなければならず、大変だった」(元保育士)と振り返った。

節分豆の誤嚥で子どもが死亡した事例も

伝統的に続けられてきた節分の豆まきだが、実は子どもにとっては事故のリスクがある行事だ。

2020年2月には島根県松江市の認可保育施設で、当時4歳の園児が豆まきの最中に豆を気道に詰まらせて亡くなる事故が起きた。この施設では、3歳未満は丸めた新聞紙などをまいて節分行事を行なっていたが、3歳以上の園児については行事の最中に豆をまいたり、食べたりしていたという。

こうした事故を受けて、昨年(2024年)消費者庁は「5歳以下に豆を食べさせないで」と注意喚起を行った。5歳未満の子どもは、かみ砕く力や飲み込む力が十分ではなく、気道も狭い。まだまだ誤嚥の危険性があるため、硬くてかみ砕く必要のある豆やナッツ類は食べさせないよう呼びかけた。

安全守るための「ガイドライン」はあるが…

もちろん、誤嚥のリスクがあるのは節分の豆だけではない。2023年までの5年間で、食べ物の誤嚥で亡くなった14歳以下の子どもは55名にものぼり、うち4歳以下が約8割を占めている。なお発生場所は、保育施設より家庭が主となっているため、保護者も十分に注意してほしい。

2016年には、国が保育施設等向けの事故防止のためのガイドラインを作成。重大事故が起こりやすい場面(睡眠中、プール活動・水遊び、食事中)における注意事項をそれぞれまとめた。食事中の注意事項については、年齢別に食べ方の特徴や配慮すべき事項、そして誤嚥しやすい食べ物として、プチトマトやうずらの卵、ナッツ・豆類などが記されている。

しかし、昨年度行われたこども家庭庁の調査によると、ガイドラインを「読んだことがある」と回答した保育施設等の職員は、58%にとどまった。

2017年、千葉県四街道市の市立保育所で起こったホットドッグの誤嚥事故についても、事故で重い障害を負った園児の両親の弁護士は「国のガイドラインを無視したことで事故が起きた」としており、ガイドラインの周知や順守に何らかの課題があることが伺える。

「誤嚥事故を防ぎたい」調査に乗り出したこども家庭庁

「保育所や認定こども園で、子どもが亡くなるような重大事故は絶対になくしていかなければいけない」

こども家庭庁成育局安全対策課の担当者はこう話す。同庁では、子どもの誤嚥事故が毎年のように発生していることを受けて、現在、事故防止策を検討するための調査を行っている。

「かつては睡眠中にお子さんが亡くなる事故が多発していたが、調査や啓発活動を行った結果、事故件数は減少傾向にある。その一方、誤嚥事故が毎年のように発生している現状を受け、誤嚥についても調査・啓発することで、事故を減らしたいと考えている」(同担当者)

前出の、同庁が昨年度行った調査によると、2016年に国が作成したガイドラインについて、保育士から「イメージが湧きにくい」などの声が上がった。その声を受け、今回の調査では、保育施設の施設長を含む検討委員会での議論や、自治体や保育施設に対してのヒアリングにより、わかりやすい啓発資料の作成に取り組んでいる。

担当者は、「現在進めているヒアリングや検討委員会の議論をもとに、食材調理の工夫については、イラストなどで視覚的にわかりやすく記載する予定だ。また、介助・提供のポイントについては、実際に起こった事故の事例を踏まえた内容を検討している」と話した。

「保育現場で活用しやすい、わかりやすくまとまった資料を作成し、周知することが大切。啓発資料における、『イメージが湧きにくい』『手軽に見返すことができない』といった課題を解消すれば、1件でも悲惨な事故を防ぐことにつながるのでは」(同担当者)

調査結果をもとに作成する新たな啓発資料は、本年度中に発信する予定だ。

「どんな食材でも誤嚥事故が起こる」

最後に、家庭で節分を楽しむ際には、豆まきは個包装された豆を使うなど工夫するとよい。また、5歳未満の子どもには豆を食べさせないとともに、5歳以上の子どもも、豆を食べる際には一口にたくさん詰め込まず、集中して食べるよう教えてあげることが事故防止につながる。

日本小児科学会「食品による窒息 子どもを守るために」によると、「万一の場合は、すぐに救急車を呼ぶとともに、1歳未満の乳児の場合、背部叩打法や胸部突き上げ法、1歳以上の場合腹部突き上げ法などの応急処置を行う」としている。

取材の終盤、前出の担当者は「普段、問題なく食べている食材を含め、どんな食材でも誤嚥事故が起こることを知っていただくことが大切だ」と話した。特に小さな子どもにとっては、確かにどんな食材でも誤嚥につながる可能性はある。子どもを守るために大切なのは、保育現場だけでなく家庭においても、正しい知識を身に付け、子どもの食と向き合うことではないだろうか。

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