
46歳男が皇居トイレに“落書き”現行犯逮捕 「量刑が重い犯罪とまではいえない」のに“実名報道”されたワケ

雲ひとつない青天の下、約6万人の国民が訪れた皇居(東京都千代田区)での1月2日の新年一般参賀。和やかかつ厳粛な会場で、男性がトイレに落書きし、現行犯逮捕されるという事件が起きた。
落書き自体は街中でもよく見られるが、今回は現行犯逮捕、実名報道という厳しい対処が取られた。その背景、理由には何があったのだろうか。
参賀者通報により皇宮警察が現行犯逮捕
能登半島地震の影響で2年ぶりとなった一般参賀。皇居・宮殿前の広場を多くの国民が埋め尽くした。天皇皇后両陛下は、午前と午後の合わせて5回、皇族方とともにベランダに立ち、訪れた人たちに笑顔で手を振って応えられた。
ところが、その裏で一騒動が起きていた。報道によると、神奈川県座間市在住の46歳の男性が、宮殿に近い蓮池参集所のトイレなどに落書きし、参賀者の通報を受けた皇宮警察により、器物損壊容疑で現行犯逮捕されたという。
どういう動機・意図だったのか、何を書いたのか。事実関係について皇宮警察に改めて取材したところ、「捜査上のことについては、一切お答えできません」との回答があった。
建造物等損壊罪など、“さまざまな罪”に問われる可能性
“落書き”は、道路側壁や鉄道の高架下など、街中でもよく見られるため、安易に「自分も書いてみよう」「自分だけ捕まることはない」と考えてしまう人もいるかもしれない。
しかし、刑事事件を多く手がける本庄卓磨弁護士によると、その状況などによって、下記の罪に問われる可能性があるという。
- 建造物等損壊罪(刑法260条)
- 器物損壊罪(同261条)
- 軽犯罪法違反(軽犯罪法1条33号)
- 礼拝所不敬罪(刑法188条1項)
- 文化財保護法違反(文化財保護法195条、196条)
- 名誉毀損罪(刑法230条)
- 侮辱罪(同231条)
- 偽計業務妨害罪(同233条)
- 各都道府県や市区町村の条例違反
この中で、たとえば「建造物等損壊罪」に該当するケースについて、本庄弁護士は次のように説明する。
「公園内の公衆便所の外壁にラッカースプレーでペンキを吹き付け、『反戦』などと大書した行為が、建造物等損壊罪における『損壊』に当たるとされた判例があります。
同判例では『本件落書き行為は、本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたものであって、その効用を減損させた』として『損壊』に当たると判断されました。
したがって、建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせた場合には、建造物等損壊罪が成立する可能性が高いといえます」
特殊性・社会的関心事が「厳しい対処」に影響も
一般参賀会場で落書きした男性は「器物損壊」の容疑で現行犯逮捕され、実名が報道された。さらに、連行中の姿を撮影した映像もテレビで放送されている。
本庄弁護士は、器物損壊罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料」であり、量刑が重い犯罪とまではいえないとした上で、「現行犯逮捕はやむを得ないとしても、実名報道し、姿を撮影・放送する必要があったのかは疑問に感じる」と話す。
「おそらく、本件は皇居・一般参賀という特殊な状況で発生し、社会的関心も高いと思われることや、報道によれば被疑者男性には余罪(他の場所への落書きや、大麻所持)の疑いもあったようですので、それらの点が現行犯逮捕・実名報道の判断にも影響したのかもしれません」(本庄弁護士)
表現の自由は尊重されるべきだが…「表現の内容・方法」には注意を
迷惑行為である落書き。街の美観維持のため、その消去に取り組んでいる自治体もある。
東京・渋谷区は「落書き対策プロジェクト」を立ち上げ、2021年4月から消去を開始。同区広報コミュニケーション課担当者らによると、委託事業者を中心に区内の繁華街等で作業にあたり、24年3月末までの3年間に区内のおよそ1000か所、延べ約1万2000平方メートルで消去を行った(事業は継続中)。
一方、渋谷区を擁する東京都では、落書きが“展示”された例もある。
東京都は、2019年1月に新交通ゆりかもめ「日の出駅」(港区)近くの防潮扉で発見された正体不明のイギリス人アーティスト「バンクシー」が描いたとみられるネズミの絵を同年11月から、日の出ふ頭2号船客待合所で展示。絵は現在も同所で見ることができる。
バンクシー、あるいは著名作家等による“落書き”は罪に問われないのだろうか。本庄弁護士はこう解説する。
「前述した判例を前提とすれば、アートとして社会的に評価されるものであれば、『建物の外観ないし美観を著しく汚損した』とはいえないため、建造物等損壊罪は成立しない可能性が高いです。また、他の犯罪が成立する可能性も低くなると思います」(本庄弁護士)
ただし、こうしたケースはあくまで例外だ。
「表現の自由は尊重されなければなりませんが、同時に他者の権利も尊重しなければならないことは言うまでもなく、表現の内容・方法には注意を払うべきです」(本庄弁護士)
取材協力弁護士
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