「親権者」なのに“子の学校行事”に参加できない…別居親らの訴え“請求棄却”に憤り 「連れ去り勝ち」の課題も浮き彫りに

2022年8月、配偶者と別居・離婚して子と一緒に暮らしていない「別居親」らが、子の通う公立学校で行われる授業参観や運動会などの行事、保護者会やPTAなどの活動への参加、また学校情報の開示を拒否されたとして、埼玉県内の3市(戸田市・鴻巣市・さいたま市)を提訴した。
2024年12月の一審判決では請求が棄却されたが、原告らは戸田市に対する請求につき控訴を行っている。
「学校園国賠訴訟」と呼ばれる本訴訟について、原告ら本人や代理人弁護士に取材した。
「親権者」であるのに子の学校行事への参加を拒否された
以下は、学校園国賠訴訟のホームページで概要が公開されている、戸田市と鴻巣市の事例だ。
原告男性のA氏は、親権者として子の学校行事に関する情報の共有や行事への参加、子との面会交流などを求めて、戸田市の市立小学校の校長らに対し面談や電話で繰り返し申し入れを行った。
しかし、学校側は「監護権者である妻の意向」を理由にこれらを拒否。その際、明確な法律的根拠は説明されなかったという。
また、A氏は学校教育法16条で保護者が「親権者」と定義されていることを指摘したが、その後も学校側の回答は得られず、親権者でありながら子の情報や学校行事への参加を制限される状況が続いている。
鴻巣市の事例では、原告女性のB氏が、親権者であるにもかかわらず、子ら(2名)の学齢簿や健康診断書票の開示を市教育委員会から拒否された。
教育委員会は「夫婦間の葛藤が子の就学に悪影響を及ぼす可能性」や「生活環境を害するおそれ」を理由に、不開示を判断したという。
B氏は、子らの通う学校すら行政から教えてもらえていないため、子らの学校行事や学校活動への参加から排除されている。息子の小学校卒業式・中学校入学式や娘の小学校入学式にも出席できなかった。
「法の下の平等」や「人格的利益」を訴える
本訴訟で原告らが訴えているのは、学校側の対応は「憲法14条1項」や「憲法24条2項」に違反し、原告の「人格的利益」も侵害する、という主張。
具体的には、原告らは子の親権者であるにもかかわらず、学校行事への参加や学校情報の入手に関して(元)配偶者と比べて差別的な扱いを受けていることは「法の下の平等」を定めた憲法14条1項、および「個人の尊厳と両性の本質的平等」を定めた24条2項に違反する、と述べている。
また、学校側の対応は、親と子の養育関係に関する原告らの人格的利益を侵害しており、違法であるとも訴えている。
原告代理人の作花知志弁護士は、2023年の大阪地裁判決(令和5年7月31日)や2024年の東京高裁判決(令和6年2月22日)では「親による子の養育は、親にとっても子にとっても憲法13条で保障されている『人格権』である」と判示されていることを指摘する。
「それにもかかわらず、同居親のみを優先して別居親による学校行事への参加を許さないことは、憲法13条や憲法14条1項、憲法24条2項に違反することだと思います。
特に、別居の経緯が『同居親による子の連れ去り』によるものである場合は、違憲と評価すべき要請はより高い、と考えます」(作花弁護士)
親による学校行事の参加は子の健全な成長に関わる
「子の健全な成長」という観点からも、別居親が学校行事に参加することは大切であるという。
「面会交流とは『子が両親と同じように触れ合うことで、健全な成長ができる』ということを理念とした制度です。
最近の心理学調査によると、両親が別居して成長した子は、別居親と直接の面会ができていればいるほど、自己肯定感や他者とのコミュニケーション能力が高くなることが分かっています。
また、子が両親と直接触れ合うことで、子の脳には『オキシトシン』と呼ばれる愛情ホルモンが分泌されることも判明しています。
そして、別居親が学校行事に参加することにも、子の脳にオキシトシンの分泌を促す効果があるのです」(作花弁護士)
なお、上記の主張は、心理学者の野口康彦教授らによる科研費研究「離婚後の面会交流のあり方と子どもの心理的健康に関する質問紙とPAC分析による研究」などに基づいている。

戸田市への請求を控訴
冒頭で述べたように、昨年12月13日、さいたま地裁は原告側の請求を棄却する一審判決を出した。同月、戸田市に対する請求についてのみ、原告側が控訴。
作花弁護士によると、一審判決は「別居親の学校行事参加は両親の間の紛争を学校に持ち込むことを意味し、子の福祉にもならない」と判示したという。
「しかし、それは抽象的な理由に過ぎません。両親が学校行事に参加したことで具体的な不利益が生じた時に解決すれば足りることです。別居親を全面的に排除する根拠にならないことは、明らかです」(作花弁護士)
原告のA氏も判決について「妻による主張のみに基づいて『(A氏の)学校行事への参加や情報の共有、子との学校での面会を拒否する、正当な理由がある』と判断されたことは、きわめて残念で、不条理です」とコメント。
また、A氏は訴訟において別居親は同居親よりも不利な傾向があることを指摘しつつも、控訴に向けた意気込みを語った。
「行政を被告とする裁判で、原告が勝訴することは、まれです。そのため、高裁でも、勝訴することはきわめて難しいと思っています。それでも、判決内容には納得できないので、控訴して戦います」(A氏)
鴻巣市への請求は控訴しなかったが…
B氏の元夫は、子を連れ去って離婚した後、実家の鴻巣市に住民票を移していた。しかし、実際には横浜市に住んでおり、離婚後に鴻巣市に住んでいたことは一度もなかったという。この事実は地裁訴訟の結審後に発覚し、子らは横浜市の学校に通っていることが明らかになったため、鴻巣市への請求を控訴しない判断となった。
しかし、鴻巣市は元夫が実際には市に住んでいない事実を把握しておきながら住民票を置くことを許容した疑いがあるとB氏は指摘し、市への不信感を示している。
地裁判決について、B氏は「関連する国賠訴訟(子の連れ去りや親権に関する国賠訴訟)での判決と異なり、法律論についてほとんど踏み込んでいない、予想をしていたのとまったく違った内容だった」とコメント。また、判決では「別居親の権利」や「子が両親から養育を受ける権利」について触れられていないと指摘し、「裁判所は問題から逃げた、と思いました」と語る。
訴訟において、原告側は、子らが「母親であるB氏と一緒に過ごしたい」と示す動画・音声・手紙などの証拠を提出した。
「しかし、裁判所はそれらの証拠を無視して、元夫の主張を一方的に認めました」(B氏)
「連れ去り勝ち」の現状は改善されるのか
A氏も指摘したように、本件に限らず、子の親権などをめぐる争いに関して、裁判所は同居親に有利な判断をする傾向にある。
他方の親が配偶者の同意を得ず、一方的に子を連れ去った事例でも、行政や裁判所は背景にある事情を考慮せず同居親を優遇する場合が多いため、「連れ去り勝ち」の現状が発生しているとの指摘がなされることもある。
海外から、日本人親による子の連れ去りが問題視されるようになって久しい。また、子の連れ去りといえば母親による行為が注目されがちだが、B氏が語ったように、夫が連れ去りを行う場合もある。
海外からの批判や、別居親ら当事者の運動を受けて、2026年からは離婚した父母の双方が子の親権を持つ「離婚後共同親権制度」が導入される。
だが、A氏やB氏は親権を持っているにもかかわらず、子との交流ができていない。学校園国賠訴訟の原告らによる「行政や裁判所は、子と別居親の権利を十分に尊重しているのか」との問いは、共同親権の導入後にも依然として残り続ける可能性がある。
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