「残業免除」「看護休暇」拡大…“育児介護休業法”改正で働く親の権利どう変わる?

弁護士JP編集部

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「残業免除」「看護休暇」拡大…“育児介護休業法”改正で働く親の権利どう変わる?
子どもの看護等休暇は、労働者1人につき5日(子どもが2人以上の場合10日)取得できる(つむぎ / PIXTA)

今年4月1日から、「改正育児介護休業法」が施行される。

“企業で働く親”に直接的な影響のある法律で、今回の改正は「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充」などを目的として行われた。

具体的に何がどのように変わるのか。改正法への対応を迫られている企業だけでなく、労働者が気に留めておくべきことはあるか。自身も子育てをしながら働く安藤愛子弁護士に話を聞いた。

「育児介護休業法」改正で何が変わる?

まず、特に“働く親”に影響のある改正のポイントについて、安藤弁護士は次のように説明する。

「今回の法改正では、

①看護等休暇取得の対象となる子どもの年齢が「小学校3年生」まで引き上げられたこと
②看護等休暇の対象となる事由に、「学級閉鎖」や「入学式」などが追加されたこと
③「入社から半年未満」の労働者も看護等休暇が取得可能となったこと
④所定外労働の制限(残業免除)が「小学校就学前」まで引き上げられたこと

が主なポイントとなります」

けがや病気にかかった子どもの世話を行う労働者に対し、年次有給休暇とは別に与えられる「看護等休暇」だが、これまでは子どもの年齢が「小学校就学の始期に達するまで」に限られていた。

また、取得事由も従来は「病気・けが」か「予防接種・健康診断」だけ。さらに、労働者が企業に請求することで残業が免除になる所定外労働の制限も「3歳未満の子どもを養育する労働者」に限定されていた。

こうした看護等休暇が取得できる“対象”が拡大されたことは、働く親に寄り添う形で今回の改正が行われた証左と言えるだろう。安藤弁護士も「当事者の視点で、今回の改正は高く評価しています」と話す。

「特に、学級閉鎖中は学童がお休みの場合もありますし、また、感染症流行中は、外出を控え子どもをゆっくり自宅で休ませたいですから、看護等休暇の対象となったことは意味があると思います」(安藤弁護士)

企業には就業規則の変更が義務化

法改正に伴い、企業には就業規則の変更および従業員への周知などが義務化される。

しかし、「会社から何のお知らせもない」という理由で看護等休暇を取ってもいいのか不安に感じている人もいるかもしれない。

安藤弁護士は、「法改正があれば、就業規則も該当箇所を変更しなければなりません。本来、年に一度は就業規則を見直すことが望ましいですが、中小企業においてはそこまで手が回っていないという実態があります」と日本の企業の9割を占める中小企業の現状について話す。

「しかし、就業規則は法令に反してはいけません。たとえ変更されていなくても、労働者は今回の法改正に基づき看護等休暇を会社に請求することができます」(安藤弁護士)

請求を無視されたり、拒否されたりしても「企業に罰則自体はない」(安藤弁護士)が、“間接的な罰”はあるという。

「育児介護休業法に違反があった場合、厚生労働大臣は事業主に対して、報告を求め、助言、指導、勧告ができるとされています。そして、会社が勧告を受けてもなお従わなかった場合には、その内容について公表されることになります。つまり、直接的な罰則はありませんが、公表されることによって会社の社会的な評価を落とすことになるでしょう」(安藤弁護士)

法改正よりも必要なこと

前述の通り、今回の改正を評価している安藤弁護士だが、法改正よりも必要なことがあるとして次のように語った。

「自分が休むと同僚に迷惑がかかると思い込んでしまう、仕事自体が属人的で代替がいないなど、休暇取得に気が引ける環境であれば、いくら法改正を進めても意味のないことだと思います。特に、最低人数で業務を回している中小企業では、その傾向が顕著です。

ですから、法改正を進め制度を作ることより大事なのは、実際に制度を利用しやすい職場環境を作ること。経営者のさらなる意識改革も必要ですが、子どものいる人、いない人にかかわらず、全員が気持ちよく休暇を取るには、普段から職場で助け合ったり風通しをよくしたりするひとりひとりの努力も必要不可欠だと思います」(安藤弁護士)

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