“社会保険料の強引な徴収”相次ぐ? 背景に「担当者が法律を知らない」可能性も…全商連が厚労省・国会議員に状況改善を要請
東京商工リサーチは11月、2024年1月~10月に「税金滞納(社会保険料含む)」が一因で倒産した企業の件数が155件(前年同期比121.4%増)に上ったと発表。2015年以降で最多だった2018年の年間105件をすでに上回っているという。
こうした状況のなか、自営業者や小規模事業者らが加盟する全国商工団体連合会(全商連)は「年金事務所から社会保険料の強引な徴収が行われている」として、11月25日に都内で会見。27日にも都内で集会を開き、厚生労働省への要請を行った。
「差し押さえされれば、給与を支払えなくなる可能性」
全商連ではHP上や電話で、社会保険料徴収に関する相談を受けており、今年に入ってから11月中旬までの間で160件以上の相談が寄せられているという。
全商連の中山眞常任理事は25日の会見で「北海道から沖縄まで地域を問わず、業種も多岐にわたる」と述べ、次のように続けた。
「厚労省の公表している資料によると、昨年度に社会保険料を滞納していた事業所は14万2119で、そのうち約3割にあたる、4万2072の事業所で差し押さえが執行されました。
ひとたび差し押さえにあってしまえば、資金繰りに行き詰まり、従業員に給与を支払えなくなる可能性があります。そのような状態になれば当然、企業は倒産せざるを得ません。
『ちゃんと納めればいいだけではないか』という声もあるかと思いますが、社会保険料は応能負担(企業の能力に応じた負担)になっておらず、たとえ企業が赤字であっても納める必要のあるものです。
さらに、コロナ禍では社会保険料の支払いが猶予されていましたが、その分の徴収が始まり、現在発生している社会保険料に上乗せする形で支払うことが求められています」
本来は猶予あるはずも…「担当者が法律を知らない可能性」
社会保険料の徴収は、国税徴収法や国税通則法にのっとって実施されている。
これらの法律では「納付の猶予」(国税通則法46条)や「換価の猶予」(国税徴収法151条)が定められており、事業の継続や生活の維持が困難になる場合や、災害などの事情で納付が困難な場合などには、一定の猶予が与えられる。
政府もこれらの猶予や、分割での納付を活用することで、社会保険料の納付が困難となった事業者にも柔軟に対応する方針を示しており、武見敬三厚労相(当時)は今年4月の参議院厚生労働委員会で次のように答弁した。
「社会保険料の徴収努力は私どももしなければならない一方で、中小企業の経営を著しく圧迫して、そして倒産させるようなことは避けなければいけません。
ルールに基づいて猶予したり対応の緩和をしたりする必要があり、その趣旨をきちんと現場(年金事務所)に徹底していただき、中小企業の経営基盤を守るというのが今われわれとしてできる立場ではないかと思います」
しかし、中山常任理事によると、こうした法律と政府の方針がありながらも、「実際にはルールが守られておらず、猶予などの措置が適用されていないケースがある」と指摘。その理由について以下のように述べた。
「年金事務所の担当者がこうした政府の方針や、法律を知らない可能性があります。
また、徴収をどう進めていくか、という方針はある程度決められているはずですので、それが、政府の方針や法律とずれてしまっているまま、運用されているのではないでしょうか」(中山常任理事)
厚労省「適正な運営行うよう周知」
こうした状況を受け、全商連は27日、国税徴収法に基づいた徴収の徹底や、小規模事業者の資金繰りに配慮した対応などを求める要請書を厚労省へ提出。
要請を受けた厚労省の担当者は「法律に基づき、公正かつ適正な運営を行うよう年金機構に対し周知している」としたうえで、周知の具体的な内容について、以下のように回答した。
「まず1点目は、事業者の経営状況や将来の投資について伺いながら、状況に応じた対応をすること、2点目は、財産状況から見て合理的かつ妥当な金額を、納付金額として設定することです。
さらに、3点目には、計画通りに納付できなかった場合でも、やむを得ない理由があったかを確認するということがあげられます」
「現場が法律から外れた対応」年金事務所への対応要求
上記の回答後に行われた質疑応答で、中山常任理事は「現場では、年金事務所の担当者によって、全く法律とは関係ない、法律から外れた対応が行われている」として、次のように続けた。
「たとえば関連法令と照らし合わせて考えると、社会保険料の滞納額について、最短でも1年は分割で納付できるはずです。
ですが、年金事務所の担当者から『分割は3回まで』と言われたり、『2回で収めるよう』迫られたりした、という相談が寄せられています。
さらに、年金事務所の言い値で分割納付を行うよう誓約書を書かされたケースもあるようです。
『誓約書を出さなければ差し押さえる』と言われれば、事業者側はサインせざるを得ませんが、その誓約書には『履行できなかった場合には差し押さえられても異議を申し立てません』と書かれていたと聞いています。
年金事務所の担当者は事業者に対して、あたかも法的な根拠があるかのように、こうした説明や行為に及んでおり、そこが一番の問題点です。
そして、相談事例を見ていくと、特定の年金事務所の、特定の担当者によってこのような強引な徴収が繰り返し行われているようです。ですから、厚労省から年金機構の本部に周知するだけでなく、問題の対応が行われている年金事務所に直接、改善するよう伝えていく必要があるのではないでしょうか」(中山常任理事)
この意見を受け、厚労省の担当者も「言い値で納付金額を設定するといった行為には全く根拠がない。年金機構側には、引き続き適正な運営を求めていく」と回答した。
集会終了後、集まった約40名の参加者は衆参それぞれの議員会館へ移動。厚生労働委員会所属の議員らへ、社会保険制度改善を訴える要請行動が実施された。
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