東京・上野「1億4000万円相当の金塊」狙った強盗致傷事件 報酬50万円の実行役“特定少年”が犯行を「断れなかった」事情とは…
昨年8月、東京・上野の路上で女性を襲い持っていた金塊を奪おうとしたとして強盗致傷の罪で起訴された特定少年、I被告(19)の裁判が、9月30日に東京地裁(矢野直邦裁判長)で行われた。
本事件では10~40代の男7人が逮捕されている。実行役だったIは公訴事実をおおむね認め、量刑を争点に審理が進められている。
暴力団組員からの“頼み”断れない関係性か…
事件は白昼の上野で起きた。昨年8月4日午前11時頃、金塊約15kg(時価1億4329万円相当)をリュックサックに入れ転売先に運んでいた金買い取り業の50代女性が男2人に襲撃された。
男らは、自転車を止めていた女性のリュックサックを引っ張り、あおむけに倒した後で暴行を加えた。しかし女性が抵抗したことから強盗を諦め、その場から逃走。このうちの1人だったIはその後、10月11日に逮捕された。
なお、もう一人の実行役である山本俊策(22)の裁判はすでに終了し、懲役5年の実刑判決が下っている。(参照:東京・上野「1億円金塊」強盗未遂“実行役”の初公判 スタンガンで“指示役”に脅され拒否できず)
前述した通り、本事件をめぐっては7人が逮捕されているが、この7人は神奈川県を拠点とする2つのグループのメンバーだった。
裁判で2つのグループは便宜上「相模原グループ」と「横須賀グループ」と呼ばれ、Iはこのうち相模原グループのメンバーだった。本事件に関して「相模原グループ」を取りまとめていたのは、すでに逮捕されている指定暴力団稲川会傘下組員・T容疑者(40)だ。
裁判ではIが所属する暴走族に「ケツ持ち役(用心棒として問題処理を引き受ける役)」として出入りしていたTと出会った後、住居、仕事、金銭の支援を受け、Tからの頼みを断りにくい状態に置かれていたことが明らかになった。また、IはTから日常的に「内蔵パンチ(みぞおちへの殴打)」などの暴力も受けていたという。
報酬50万円「ラリアットして奪え」
Iら相模原グループは、事件の数日前にTから「4000万円の金をリュックサックで運んでいる人がいる。チャイニーズドラゴン関係の密輸されてきた金だから、被害者も被害届を出せない。ラリアットして奪え」と指示を受け、その際にIは「お前やれ」と実行役に起用されたという。報酬は50万円と言われたが、この時点ではまだ強盗を実行する具体的な日時などは知らされていなかった。
被告人質問で弁護人から当時の思いを聞かれたIは、「正直やりたくないなと思いました」と振り返った。
Iは事件の前日(8月3日)に、Tからファミリーレストランの駐車場に呼び出され、車で都内方面に向かった。日常的に昼夜問わずTから呼び出されていたIは、神奈川に戻り“集合時間”や“場所”の話をされ、これが強盗現場の下見であることに気づいたという。もう一人の実行役だった山本とは、この下見時に初めて会った。
翌朝、コンビニエンスストアの駐車場で合流した2つのグループは車2台に分かれ、上野へ向かった。事件当日、「組事務所の当番だった」というTは同行していなかった。
車内で待機していた共犯者との電話をワイヤレスイヤホンでつなぎ、Tから持たされた催涙スプレーをポケットに入れて、ターゲットの女性を待っていたI。女性が到着し、山本が女性のリュックサックを引っ張った際、Iは正面に回り催涙スプレーをかけようとしたが失敗。倒れた女性を足で蹴った。
検察側は女性が「右手ひたい(右前額部)を拳で殴られた」と訴えたことから、起訴状にその旨記載していたが、Iと弁護人はその点だけ否認。「足で蹴る、が正しいです」と述べた。
「自分、何やっていいかわからず、(山本)俊策からTさんに報告が行くかも、何かしなければと思って足で蹴りました。初めてのことで、何かしようということだけしか考えていませんでした」(I)
「頼れる大人はTさんだけだった」
母親の再婚相手(養父)との仲がうまくいかなかったというIは、当時コロナ禍だった高校1年時、「人混みに行かない」という家のルールを破ったことが養父に発覚し、スマートフォンに「ぶっ飛ばすから帰ってこい」という連絡が届き家出した。
祖母の家に居候し、解体業や塗装業で働く一方で、バイク好きが高じて相模原の暴走族に所属。その後、「相模原の友だちといるのが楽しくなり」(I)、祖母の家を出る。寮付きの職場で働いていたが、ある日「Tの連絡に出なかった」という理由でTの仲間らから暴行を受けたという。待ち伏せされた恐怖などから働けなくなり、仕事をクビになった。
その後、再びTから連絡があり、Tの兄貴分という人物から仕事や住まいを世話してもらうことになった。しかし、紹介された職場では、家賃などが理由をつけて給与から天引きされ、手取りは5万円程度だった。
さらに、「自分が別のチームと揉めてビビって引いてしまった」(I)ことをきっかけに、Tから「金かヤキ(暴力)かどっちか選べ」と迫られた。ヤキを選ぶと「ヤクザのヤキをわかってるのか」とすごまれ、結局20万円を要求された。
その支払いが期日に間に合わないとTは、期日を伸ばす代わりに要求額に10万円追加した。そうして事件前、7月頃からは毎日のように「借金(要求額のこと)返せ」「今日中に10万よこせ」と言われるようになったという。
それでも「頼れる大人はTさんだけだった」(I)。検察官から強盗の報酬として提示された50万円を何に使うつもりだったのかと問われたIは、「全額Tさんに渡すつもりだった。Tさんもそれを望んでいると思った」と答えた。
「特定少年」も20歳以上と同様の取り扱い
自らを「断れない性格」と評したIは、色白で細い体にニキビ肌。15~16歳と言われても不思議ではないほど幼くみえたが、実際は事件当時18歳の成人だ。「特定少年」ではあるが、起訴されたことで原則20歳以上と同様に取り扱われる。
巻き込まれるようにして実行役となり、罪のない女性を襲ったIをどう裁くのか。裁判員らは被告人の言葉に真剣に耳を傾け、裁判官らと同様に被告人質問も行っていた。判決は今月4日に言い渡される予定だ。
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