焼き肉食べ放題「女性半額」が“差別”だと炎上…不満ある男性が「法的に争う方法」はある?
大手焼き肉チェーンが期間限定で焼き肉食べ放題の「女性半額キャンペーン」を行い、SNSを中心に一部の男性などから「男性差別だ」などと批判され、物議を醸している。
他方で、わが国では古くから、飲食や娯楽の分野を中心として「レディースデイ」や「女性限定サービス」「男女別料金」などが盛んに行われてきている。また、マーケティングの一環として許容する意見も根強い。キャンペーンに強い不満をもつ男性がどうしても許容できないという場合、はたして、法的に争う方法はあるのか。
「法的に争う方法」はあるにはあるが…
「女性半額」の件について、一部には「潰してやる」などの過激な投稿も見受けられる。しかし、キャンペーンを物理的に「潰す」行動となると、実力行使は威力業務妨害罪(刑法234条)、脅迫は脅迫罪(同222条)、誹謗中傷は名誉毀損罪(同230条)になってしまう。
あくまで合法的に争う方法となると、民事訴訟を提起することしか考えられない。
しかし、それは果たして可能か。荒川香遥(こうよう)弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いてみた。
荒川弁護士:「わが国で訴訟を提起するには、原則として、自分自身の権利義務に関する紛争についてでなければなりません。
今回のキャンペーンの料金は、男性が3938円のところ、女性が半額の1969円というものです。
もし、どうしても訴訟を提起するというなら、キャンペーン期間中に食べ放題を利用して3938円を支払ったうえで、その差額の1969円を焼き肉チェーンに対し、『不当利得返還請求』(民法703条・704条)をすることが考えられるでしょう。
ただし、気に入らないなら利用しなければよいだけなのに、わざわざ食べに行って、訴訟を提起するという不合理さがあります。
また、そもそも、2000円未満のお金を請求するのに訴訟を提起するのか、という問題があります」
理屈として不合理であり、かつ明らかに費用倒れになってしまう。とはいえ、法的手段がまったくないわけではない、ということのようだ。
憲法の「平等原則」違反を問うことは不可能
次に問題となるのが、焼き肉店ないし焼き肉チェーン側に対して不当利得返還請求を行う法律上の根拠だ。
荒川弁護士:「焼き肉食べ放題を利用する場合、焼き肉店が飲食物を提供し、それと引き換えに客が料金を支払うという契約が存在します。
その契約中の料金の定めのうち、男性料金3938円と女性料金の1969円との差額の1969円分が、無効だと主張することが考えられるでしょう」
「女性と比べて不当な差別を受けている」ということを理由とする場合、まず真っ先に思いつくのが、憲法の「平等原則」(憲法14条)だが…。
荒川弁護士:「憲法は、ごく一部の例外を除き、あくまでも『国家』対『私人』を規律するものであり、『私人』対『私人』には適用されません。私人間では『私的自治の原則』『取引自由の原則』がはたらくためです。
その一環として、焼き肉チェーンがどのようなキャンペーンを行うのかは、原則として自由です」
「私人間の男女差別」についての「判例」はどうなっているか
本件については別として、「私人間」の関係ではどのような不合理な差別も許容されてしまうのか。
荒川弁護士:「実は、『私人間の契約における男女間の差』については、リーディングケースとなる最高裁判例があります。『日産自動車事件判決』(最高裁昭和56年(1981年)3月24日)です。
これは1960年代の事件です。当時、日産自動車では就業規則で定年が男性は60歳、女性は55歳と定められており、女性従業員がこの就業規則を無効だと主張して訴えました。
最高裁はこの就業規則の男女別定年制の定めを、公序良俗違反(民法90条)であり無効としました」
判決文には以下のように書かれている。
「就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法14条1項、民法1条の2(※)参照)」
※現在は民法2条
荒川弁護士:「最高裁は、憲法14条1項の『平等原則』と、民法旧1条の2(現2条)の『個人の尊厳と両性の本質的平等』を挙げ、『不合理な差別』は許されないとしています。
民法90条の解釈において、憲法14条の趣旨を織り込んで判断しているということです。また、『両性の本質的平等』を重要な解釈指針として示しています。
女性のほうが男性より、働ける期間が5年も短いというのは大きい差だし、得られる収入も5年分少ないという著しい格差が生じます。老後の生活資金にも大きな影響を及ぼします。
これほどの甚だしい格差が、もっぱら性別のみを理由として設けられたという点が重視されたと考えられます」
「女性半額キャンペーン」は“公序良俗違反”になりうるか
では、法的な訴えを提起することの合理性はさておき、本件の女性半額キャンペーンは、判例で無効とされた「男女の定年差別」のような「不合理な差別」として公序良俗違反にあたりうるか。
荒川弁護士:「寿司・焼き肉等の食べ放題について『男女別料金』を設けている飲食店が数多くあり、これまで男性が異議を唱えたという話を聞いたことはありません。社会的に許容されてきていると考えてよいでしょう。
ましてや、今回のキャンペーンは合計8日間という一時的なものにとどまり、軽微なものです。
また、一般に女性のほうが男性よりも食べる量が少ないといわれています。『女性料金』のほかにも『シルバー料金』『子ども料金』が置かれているケースもあり、それらと同じ趣旨で設けられたものと考えられます。
現に、焼き肉チェーンの説明では、過去の食べ放題での注文数が、女性の方が男性より4皿少なかったとのことであり、客観的データに基づいてもいます。
料金の差も、女性料金が男性料金の半額とはいえ、1回あたり2000円未満にすぎません。また、女性客・カップル客・ファミリー客をターゲットとしたマーケティング戦略の一環であることがみてとれます。社会常識を逸脱しない限度で営業戦略をとることは、企業の営業の自由の正当な行使です。
これらのことを考えると、女性半額キャンペーンは不合理な差別とはいえず、公序良俗違反にあたらず有効・適法だといえます」
いうまでもなく、世の中にはまだ、不合理な差別と思われるものに出くわす場面がある。中には、過去に差別と認識されずに許容され放置され続け、時代が進むにつれ初めて差別として意識されるようになったものもある。
しかし他方で、その背景や考慮も考えず安易に「差別」のレッテルを貼ることは、正当な表現行為や営業行為に萎縮効果をもたらすものであり、厳に慎まなければならない。なぜ憲法・法律が不合理な差別を禁じているのか、歴史的にどのような差別によってどのような悲惨な事態が起きたのか、考えることは大変重要なことといえる。
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