増加の一途「SNS型投資詐欺被害」撲滅に金融庁と警察庁がタッグ… 金融機関へ「6つの要請」その“効果”とは
警察庁と金融庁は8月23日、連名で急増する「SNS型投資・ロマンス詐欺」について、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策を、関係する各金融団体へ要請した。
被害額は「1日3億6000万円以上」…被害が増えている背景
警察庁によると、2024年1月~5月のSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は約548億2000万円で前年より442億2000万円増加。1日当たりに換算すると3億6000万円以上になる。
これら類型の詐欺では、法人口座が悪用されるケースが多い。口座は売買や譲渡によって取引され、犯罪グループの送金などに使われる。個別の口座の特定はできても、不正な動きの全体像を探るには限界があり、金融機関間の相互連携が求められる。
加えて、SNS型投資詐欺ではインターネットバンキング等による非対面による取引が行われ、詐欺犯と被害者が口座に金銭を振り込むまで一度も相手とコンタクトしないケースがほとんどだ。その結果、詐欺と気づいたときには手遅れとなることなどが問題視されている。
こうした状況を踏まえ、警察庁と金融庁は以下のような要請を行った。
1 口座開設時における不正利用防止及び実態把握の強化
2 利用者側のアクセス環境や取引の金額・頻度等の妥当性に着目した多層的な検知
3 不正の用途や犯行の手口に着目した検知シナリオ・敷居値の充実・精緻化
4 検知及びその後の顧客への確認、出金停止・凍結・解約等の措置の迅速化
5 不正等の端緒・実態の把握に資する金融機関間での情報共有
6 警察への情報提供・連携の強化
「金融犯罪への対策は急務」と両庁
口座開設時に身元を明確にし、審査を厳格にするなどして、そもそも怪しい口座をつくらせない。併せて、取引の動きからなどから、多層的に口座の健全性をチェック。詐欺被害特有の入出金・送金パターンにも着目、解析するなどで不正な動きの検知精度を高める。
そのうえで、検知後の口座謝絶・凍結などのリスク遮断措置の迅速化、金融機関間での情報共有と対応能力の向上。さらに、都道府県警察への迅速な情報提供および都道府県警察に対する適切な対応を求め、法人口座を端緒に発生する詐欺被害を最小化する狙いだ。
両庁は要請にあたり、「SNS型投資・ロマンス詐欺の急増、法人口座を悪用した事案の発生等を受け、預貯金口座を通じて行われる金融犯罪への対策は急務。インターネットバンキング等の非対面取引が広く普及していることを踏まえ、対策は規模・立地によらず必要であり、全ての預金取扱金融機関に対し、要請する。システム上の対応が必要など、直ちに対策を講じることが困難な場合、計画的に対応することが重要」とポイントを説明した。
消費者詐欺に精通する弁護士の評価
弁護士として特に詐欺被害救済に積極的に取り組み、情報発信も行っている「大地総合法律事務所」(https://daichi-lawoffice.com/lawyers/)の佐久間大地氏は、経験も踏まえ、「重要なのは予防ではなく、事後対応」と指摘している。
具体的には警察の質と量の強化、法改正による罰則強化をあげている。今回の警察庁と金融庁の要請は、どちらも十分とはいえないが、それでも口座チェックをより厳格化し、金融機関と警察の連携強化の方針が示され、着実に前進したという。
「取り組み自体は評価できるかと思います。そもそも不正に利用される口座がなくなれば、被害が減ることにもつながりますから。しかしながら、対策を進めたとしても不正利用がゼロになることは残念ながら考えにくいです。そのため、同時並行で事後対応の強化が必要になるでしょう」と佐久間弁護士は、一定の評価を示しつつ、課題もあげた。
佐久間弁護士が続ける。
「今回の施策の中には出金停止等の迅速化が盛り込まれています。この点は、事後対応的な部分でも評価ができると思います。銀行振り込みの場合は被害回復手段が乏しく、最終的には被害回復分配申請を行うことが多いです。こうなると口座にいくら残高が残っているかがカギになりますので、不正な入出金が減れば、その分被害回復できる金額は大きくなります」
SNS型投資詐欺等では、口座に振り込まれたお金が、凍結前に引き出されているケースも多く、その結果、被害回復が困難になっている。今回の金融庁と警察庁の要請には、被害者の振り込み発生前後の早いタイミングで入出金を検知し、迅速な凍結・解約等も盛り込まれており、口座の不正使用抑制につながり得る。
撲滅には罰則強化と詐欺の不合理性の周知徹底
もちろん、これら施策はあくまで事後的な対応にすぎず、根本的には詐欺自体を撲滅することが最も有効なことはいうまでもない。
「不正の入出金を減らすこうした措置を徹底、浸透させつつ、あとは罰則を強化し、詐欺をはたらくことが合理的ではないという環境をつくる。それによって、詐欺自体の数を減らすことが重要だと考えます」と佐久間弁護士は、施策に強制力をもたせることと併せ、詐欺がいかに重罪かをメディア等がより啓もうしていく必要性を訴えた。
ネットの利便性を悪用して、姿を現すことなく、ターゲットから多額の金銭を搾り取る詐欺グループ。被害者自身が相手を本物と信じ込んでいるケースも多く、今回のような周辺の対策の強化も、増加する一方の投資詐欺被害を減らす一手として不可欠かもしれない。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
1年前の「iPhone」販売店前のトラブルを立件 背後に見え隠れする警察当局「トクリュウ」壊滅へのシナリオ
2024年09月24日 10:34
-
「バナー広告」「LINE」「振込払い」「60代男性」がキーワード… SNS型特殊詐欺「1人平均被害額約1400万円」データが示す被害の実態
2024年08月02日 13:48
-
Amazon「偽メール」 “釣られかけた”40代男性…直前に救われた「注意喚起メール」と「メール運営側の技術」とは
2024年08月01日 10:43
おすすめ記事