甲子園、選手50人以上が「熱中症」訴え…最悪の事態が起きたら? “出場経験あり”弁護士に聞く「責任の所在」
汗と涙――。その言葉通りの白熱したプレーが甲子園球場(兵庫県西宮市)で繰り広げられている「第106回全国高等学校野球選手権大会」(8月7日から17日間、以下甲子園大会)。大会では、酷暑対策として昨年からのクーリングタイムに加え、今年は一部日程に2部制も導入した。
そうした対策は功を奏しているのか、また、万が一選手に熱中症による健康被害が出た場合、誰が責任を負うことになるのか。そして、暑い夏から開催時期を変える検討はされていないのか…。関係者らに取材した。
今年から導入された「2部制」とは?
8月7日の開会式。暑さに耐えられなかったのか式終了後、体調不良を訴え車いすで運ばれる選手も出た。デイリ―スポーツonlineの報道によると、同選手は式2日前から微熱があったというが、同日、甲子園球場に近い神戸市の最高気温は、体温に近い34.8度を記録していた。
酷暑の下でプレーする選手たちへの負担を減らすため、大会を主催する日本高等学校野球連盟(高野連)、朝日新聞社はさまざまな対策を講じている。
まず、昨年大会に続き、クーリングタイム(各試合の5回終了時に10分間の休憩時間を設ける。ただし16時以降に始まる試合は原則として実施しない)を導入。
同タイム中は、①ベンチ裏のエアコンが効いたスペースでネッククーラーなどを着けて体を冷却する②シャーベット状に凍らせたドリンクを飲むことを徹底するなど、参加校に細かく伝えている。
さらに今大会では、初日から3日間、2部制(1日に全3試合実施)も導入した。気温が上昇する正午~15時位の時間帯を避け、午前の部(8時、10時、10時35分のいずれかに開始)と、夕方の部(16時、17時、18時30分のいずれかに開始)に分けた。
また、準決勝第1試合を8時から、同第2試合を10時35分から、決勝を10時からと開始時刻をそれぞれ繰り上げた(※)。
※前回105回大会の開始時刻に比べ準決勝は各1時間、決勝は4時間繰り上げ。
結果の回避措置怠れば責任問われる可能性も
こうした対策をとっているが、酷暑の下での激しいプレー。大会本部によると、大会10日目の8月16日までに、出場選手52人からめまいやだるさ、気持ち悪さなど、軽度の熱中症と疑われる症状が報告されているという。
熱中症は重度になれば、意識障害が生じ、生死にもかかわる危険な病気だ。これまで甲子園大会での死亡事故などは起きていないようだが、最悪の場合に、関係者が責任を問われる可能性はあるのだろうか。
石川・遊学館高校在学中の2002年夏に自らも甲子園大会に出場した高根和也弁護士はこう説明する。
「基本的な考え方としては、熱中症により死傷者が出ることを具体的に予見し、それを回避することができる立場にある者が結果を回避する措置をとらなかったときに、刑事・民事上の責任が生じる可能性がある、ということになります」
さらに具体的な責任の所在については、「論理的な可能性としては、大会主催者(高野連など)、選手の所属団体(自治体、学校法人など)、それらの団体の代表者(知事、市区町村長、理事長・校長など)、責任教員(顧問教員)などに責任が生じる可能性があるだろうと思います」と語る。
「具体的な状況」が大きな争点に
責任の所在や重さをめぐって裁判になった場合、どういうことが争点になるのか。高根弁護士は、「具体的な状況次第」だと強調する。
たとえば、全出場校の登録選手全員がグラウンドに整列し、基本的にその場を離れることができない開会式。
「(そうした状況で)関係者が次々に出てきてあいさつをし、プロスポーツなどのように著名な歌手が出てきてコンサートさながらに楽曲を次々に披露するなどして、何時間もセレモニーが継続するようなことがあれば、熱中症により死傷者が出ることを具体的に予見し得る状態に至る場合もあると思います。
仮にそうしたことがあった場合、そのような方法で開会式を実施すべきではないとして、大会主催者である高野連に責任が生じることがあるかもしれません」(高根弁護士)
また、「ここまで極端な事例はなかなかない」としつつ、「監督が試合中に水分をとることを禁止して選手たちに試合をさせれば、監督に責任が生じるだろうと思います」と続ける。
その上で、前述した結果を回避する措置を執ったか否かに加え、「当日の天候、試合(開会式)時間の長短、その選手の体調と疾患の有無、当人からの申し出の有無、異変(普段の様子との違い)の有無、水分補給ができる環境の有無、などが争点になると思われます」(高根弁護士)
高根弁護士は、自らが出場した2002年大会を「冷夏でしたので暑さについて意識した記憶はありません」と振り返る一方、クーリングタイムや2部制の導入などの取り組みについて、「当然、前向きにとらえるべきものと思います」と語る。
また、大会運営のうち、開会式について「現状は、全出場校の登録選手全員がグラウンドに整列する方法で行われていますが、希望制(希望した学校・選手のみ参加)とすることも一案かもしれません」とも提案する。
大会時期“変更”の可能性は?
前身の「全国中等学校優勝野球大会」として、1915(大正4)年に始まった甲子園大会。戦時下で中断したが終戦翌年の1946(昭和21)年には早くも復活し以来、夏の“国民的”大会として愛されてきた。
しかし、近年の酷暑。そもそも大会時期を“涼しい時期”にずらすようなことはできないのか。
高野連とともに大会を主催する朝日新聞社(広報部)は、筆者の問い合わせに「来年以降の大会運営や暑さ対策については、日本高等学校野球連盟とともに、選手にとってよりよいものになるよう検討を続けていきます」と回答した。
暑さに負けない“熱戦”が繰り広げられている甲子園大会。23日には決勝戦が予定される。球児たちの“熱い”夏も残りわずかだ。大きな事故やケガなく、日ごろの練習の成果を発揮してほしい。
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