「納得できないので従わない」トラブルメーカーの社員に「転勤命令」も、2か月間“ボイコット”…裁判所が下した判断は
転勤命令が出たにもかかわらず・・・2か月も無視しつづけた社員の顛末を解説する。(東京地裁 R3.2.17)
裁判所は、どのような基準で転勤命令が合法または違法と判断するのか。以下、事件の詳細だ。
事件の概要
会社は、貨物自動車運送事業、倉庫事業などを行っている。Xさんは正社員であり、A営業所で輸送業務を行う乗務員として働いていた(入社約7年目)。
転勤命令を出されるまでには、以下のトラブルがあった。
■ Eさんとのトラブル
A営業所で起きた事件だ。Xさんが自身のホースカバーの在りかについて、同じ営業所で働く別会社(以下「D社」)の社員Eさんに聞いたところ、Eさんは謝罪することなく「私が使っている」旨答えた。これに腹を立てたXさんは、その社員を大声で非難。言い合いとなり、さらに「会社に言って出入り禁止にしてやる」旨の発言をした。
これを受け、Xさんは会社から“けん責処分”を受け、始末書を提出した。
■ Hさんとのトラブル
ある日、Xさんは、トラックの停止場所をめぐってHさんと口論となった。Hさんがその場を離れたとき、Xさんは、なんと! 作業用の鉄の棒を持ってHさんの後を追った。血の気が過ぎる。別の社員に止められたので、暴行事件などに発展することはなかったものの、この件で、会社はXさんに“厳重注意”を行った。
■ 配車担当者に不満をぶつける
Xさんは、配車についての不満を担当者に何度も述べていた。これについては、配車担当者に代わり上司がXさんに「公平に配車している」と伝えた。
■ Eさんの体調が悪化
はじめに紹介した“ホースカバートラブル”が発端となって、ストレスを抱えたEさんの体調が悪化した。D社はXさんの会社に対して「Eさんが高ストレス状態となって業務遂行が困難になっている、Xさんの声を聞くだけで手が震えるというカナリまずい状況である、仮にEさんが休職するなどで欠員が発生したとしても、Xさんがいる限り要員の補充はできない」などと伝えた(※)。
※ 裁判では認定されなかったが、D社およびXさんの会社は「ホーストラブルの後、XさんはEさんに対して嫌がらせを継続していた」と主張していた。
■ 転勤命令
会社は、Xさんに対して勤務地を変更する配転命令(転勤命令)を出した(A営業所→B営業所)。しかし、Xさんは命令に従わない姿勢を示し、上司2名に対して「アンタをつぶす」と発言した。
■ 無断欠勤
B営業所での初勤務の日、Xさんは欠勤した。会社はXさんに電話をかけたが、Xさんは「納得できないので業務命令に従わない」と答えた。それから約2か月もの間、Xさんは会社からの電話に出ず、ショートメールにも反応せず欠勤を続けた。また、会社はXさんに対して、4回も書面を郵送したが返答はなかった。
■ 懲戒解雇
その後、会社はXさんを懲戒解雇。配転命令や懲戒解雇に納得できないXさんは、提訴した。
裁判所の判断
裁判所は「配転命令も懲戒解雇も有効」と判断した(今回は配転命令にしぼって詳述する)。
どのような配転命令が無効になるか? については、過去に最高裁が基準を打ち出している。
「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである」(最高裁 S61.7.14)
上記を要約すると、次のようになる。
■ 業務上、必要性がなければ配転命令は無効。
■ 必要性があったとしても、以下の3つの場合は配転命令は無効。
・不当な動機・目的で転勤命令が発令されたとき。
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき。
・上記2つに匹敵するような特段の事情がある場合。
この基準に照らし、今回の裁判所は以下の理由を示して「配転命令はOK」と判断した。
■ Xさんの勤務先を変更する必要性あり
D社からXさんの会社に対して「Xさんがいる限り要員の補充はできない」などの苦情が出ていた。D社が担当しているトラックの台数が減らされると会社の輸送業務に大きな影響が出る。業務縮小を避けるためにも、Xさんの勤務先を変更する必要性があった。
■ Xさんの転勤先候補であるB営業所には欠員が出ており、欠員を補充する必要性もあった。
■ Xさんに著しい不利益なし
Xさんは「B営業所では身体的負荷が大きく、腰痛を抱えている私には不利益が甚大である」と主張するが、A営業所でも腰に一定の負荷がかかる仕事がある。
■ 会社が不当な動機・目的を持っていたとは認められない
他の裁判例
【〇】配転命令がOKとなった事件
「嫌がらせだ!」50代管理職が異動先の“単純作業”に納得できず提訴も… 裁判所が「慰謝料400万円」認めなかったワケ
Xさんは、専門知識が必要な仕事から単純作業の部署への異動命令に納得できず提訴した。裁判で会社は「育成ローテーションの一環である」と反論。裁判所は「会社の勝ち! 配転命令は嫌がらせじゃない」と判断した。(東京地裁 R5.1.13)
【×】配転命令がNGとなった事件
■ ゴリゴリの肉体労働へ vol.1
50代の技術職が退職勧奨を断ったところ、15kgのドラム缶を下ろす作業などをする部署への配転命令が出された。裁判所は「嫌がらせだね。この配転命令はNG」と判断。(大阪地裁 H12.8.28)
■ ゴリゴリの肉体労働へ vol.2
内勤から【肉体労働バッキバキの倉庫業務】へ、新しい無駄なポストを作ってまで異動させた事件だ。裁判所は「新たに倉庫部門が必要とかウソくさいんだよね〜。権利の濫用なので無効ね」と判断した。(名古屋高裁 R3.1.20)
裁判所が配転命令について、どのような基準でOK・NGと判断するのか、参考になれば幸いだ。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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