死刑囚の色鉛筆使用禁止は違憲。獄中から国を提訴

弁護士JP編集部

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死刑囚の色鉛筆使用禁止は違憲。獄中から国を提訴 原告・奥本章寛死刑囚の作品

「また色鉛筆を使って絵が描きたい」

こう話し、国を提訴したのは、福岡拘置所に収監中の死刑囚です。

原告は、奥本章寛死刑囚(33)。2010年に発生した「宮崎家族3人殺害事件」で、同居していた義母(当時50歳)、妻(同24歳)、長男(同生後5カ月)を殺害した罪に問われ、2014年に死刑が確定しました。

この事件の背景には義母による壮絶なDVがあったと言われています。事件報道ではこうした経緯も注目され、重大事件の犯人ながら支援団体が立ち上げられるなど、多くの同情の声が寄せられました。

奥本死刑囚は現在、静かに償いの日々を送っています。その一環として続けてきたのが、色鉛筆を使った作画です。

奥本死刑囚の作品「故郷の記憶」

支援者を通じてカレンダーやうちわも制作し、それらを販売して得た収益を地道に遺族へ送り続け、遺族もそれを受け入れていました。

奥本死刑囚のイラストを使用し製作されたうちわ

ところが2020年10月、法務省が訓令を改正し「保安上の理由」から拘置所内で色鉛筆を使用することができなくなってしまったのです。

奥本死刑囚は、代理人の黒原智宏弁護士を通じ「自分にとって色鉛筆で絵を描くことは、反省を深め、償いを実現するために必要不可欠な行為でした」とコメント。訓令の取消を求めて、獄中から国を提訴しています。これに対し国は「訓令とは行政組織内部の命令であり、訴訟の対象にはならない」とし、訴えを却下するよう求めています。

奥本死刑囚の作品「富士」

なお訓令により色鉛筆の使用は禁止されたものの、鉛筆やカラーシャープペンシルの使用は認められているとのこと。これらに安全性の違いについて、法務省矯正局(*1)の担当者は「訴訟での主張にも関わるため回答は差し控えたい」と答えました。

※1:拘置所や刑務所などを管理する部門

「死刑囚が国を提訴」という異例の事態に、SNSでは「死刑囚が贅沢を言うな」など批判的な声が見られる一方、「憲法で保障された『表現の自由』を揺るがしかねない」と、事態を慎重にとらえる意見も多く見受けられました。

様々な意見があることについて、代理人の黒原弁護士は弁護士JPの取材に対し、
「死刑囚が自らの趣味や娯楽の実現のために裁判手続を利用するというのであれば、そのことには、私も、心理的抵抗を感じたことでしょう。しかし、今回は、死刑囚が、これまで、細々ではありますが確実なかたちで遺族への償いをしてきた、今後もその方法を維持して、生ある限り償いを継続したいと考えている。自分の生きる価値はそこにしかないとも考えている。そのような償いを継続するためには、色鉛筆で絵を描き続けるしかなく、その地位を回復するためには今回の裁判の方法しかないため、やむなく提訴に踏み切ったものです」
と語りました。

代理人・黒原智宏弁護士らによる記者会見(10月7日東京・霞が関、弁護士JP編集部)

また、奥本死刑囚自身も提訴について大きく悩んでいたといい、
「福岡拘置所内の職員の方々には普段からほんとうにお世話になっています。そういう自分が、裁判を起こすのには、内容が異なるとはいえ、抵抗があります」
と述べ、
「ささいなことかもしれませんが、福岡地方裁判所では裁判をしてほしくない。仮に許されるのであれば、東京地裁で、そういうことはできるのでしょうか?」
との発言があったことから、収監されている福岡ではなく、東京地裁に提訴されたのだといいます。

“色鉛筆訴訟”が次に法廷で争われるのは12月14日(火)。死刑囚が憲法上の「表現の自由」を問う裁判は、今後どのような展開を見せるのでしょうか。

12月14日(火)に裁判が行われる東京地裁

取材協力弁護士

黒原 智宏 弁護士

黒原 智宏 弁護士

所属: 弁護士法人グローバル綜合法律事務所

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