河合優実主演、映画『あんのこと』法務省が“タイアップ”に至った理由 売春、薬物、貧困…“絶望の淵”描く
ドラマ『不適切にもほどがある!』で注目された河合優実主演の映画『あんのこと』が6月7日より全国公開されている。本作は、2020年に起きた事件に基づき、1人の女性が売春・薬物依存・貧困など過酷な状況から抜け出すために懸命に努力する姿を捉えた作品だ。
本作については、法務省が「女性の人権ホットライン」周知のためにタイアップを実施している。
実は法務省は、映画作品とのタイアップを人権擁護活動の啓発の一環として行っており、近年では女性解放運動に尽力した明治大正時代の教育者・矢嶋楫子(やじまかじこ)の一生を描いた映画『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』(2022年)ともタイアップしている。
タイアップを行う作品の基準等を法務省は公表していないが、なぜ『あんのこと』とのタイアップに至ったのか。担当局である法務省人権擁護局に聞いた。
法務省担当「圧倒された」
冒頭で述べた通り、映画『あんのこと』は、2020年、コロナ禍で“現実に起きた事件”をモチーフにしている。
主人公の香川杏(河合優実)は母親に売春を強要されており、学校にも通えない日々。ある日、売春客の薬物使用について取り調べを受け、多々羅(佐藤二朗)という刑事と出会ったことをきっかけに更生への道を歩みだす。介護の仕事を得るも、コロナ禍によるソーシャルディスタンスのために事務所は人数制限がかけられ、杏は自宅待機となり、やっと手にした仕事、そして人とのつながりを失ってしまう…。
「映画を見た際、少女の壮絶な人生をつづった新聞記事を基に描いたということもあり、映像が突きつける現実に圧倒され、『誰か』のことじゃないと感じさせられました」と人権擁護局の担当者は語る。
本作は、主人公・杏のように過酷な状況に追いやられている女性が「実際に私たちの身近にいたかもしれない」と思わせる迫真性に満ちた作品で、まさに自分事のように感じさせる力を持っている。
法務省の人権擁護機関では、年度ごとに重点的に啓発するテーマを定めて啓発活動を行っており、令和6年度のテーマは「『誰か』のこと じゃない。」だ。
「さまざまな問題を抱え、孤立した主人公が描かれている『あんのこと』を通して、悩みを抱えた女性からの相談に応じている『女性の人権ホットライン』をはじめとする人権相談窓口を知ってほしいという思いから、タイアップを決めました」(法務省担当者)
「相談の秘密は守ります」
人権相談窓口は、相談内容に応じた助言を行うほか、人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は調査を行い、必要に応じて適切な措置を講じるという。
窓口では法務局職員のほか、法務大臣が委嘱した民間ボランティアの人権擁護委員が相談に応じている。
その中でも、今回タイアップで周知されている「女性の人権ホットライン」は、配偶者やパートナーからの暴力(DV)、職場等でのセクハラ、ストーカーなどの人権問題に関して、映画で描かれたような孤立して頼る先がない女性を助けるための窓口だ。
たとえば夫からDVを受けている妻の相談に対し、一時的に保護する措置を取り、妻や子どもへの支援体制を構築した解決事例などがあるという。
昨年、1年間で「女性の人権ホットライン」に寄せられた相談件数は1万5142件にのぼる。『あんのこと』が実話に基づく映画であることからも分かるように、現実に苦しんでいる女性が社会に大勢いることを物語る数字だ。
なお相談は、電話だけでなくメール、LINE、さらには直接の面談や手紙でも可能。本人だけでなく、親族などからも受け付けているという。
映画では、杏が苦境をだれにも相談できない状況に追い込まれたことが悲劇へとつながった。法務省の担当者は「相談の秘密は守ります。ひとりで悩まず、まずは相談してほしい」と呼びかける。
女性の人権ホットラインへの電話番号は「0570-070-810」。LINEでは「法務局LINEじんけん相談」(検索ID「@linejinkensoudan」)を友だち追加しトークで相談できる。その他詳細は公式サイト(https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken108.html)を確認。
■映画情報
『あんのこと』
6月7日(金)新宿武蔵野館、丸の内 TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開
配給:キノフィルムズ
©2023『あんのこと』製作委員会
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
関連ニュース
-
なぜアメリカ人は「陰謀論」を信じやすいのか? 「実話に基づく」とする映画にもある“危うさ”の背景
2024年11月17日 09:19