
“推し活”に理解を得られず… 夫や妻が「大切にしている物」 “勝手に捨てる”のは犯罪や離婚事由になる?

5月初頭、「お嫁さんにお願いされて、大好きだったももクロのBDやグッズを全て売った結果、生きる気力が完全になくなってしまった」から始まる長文の投稿がX(旧Twitter)で話題になった。
お嫁さんにお願いされて、大好きだったももクロのBDやグッズを全て売った結果、生きる気力が完全になくなってしまった。…
— ねっぴー (@nepinepimate3) May 5, 2024
投稿主の男性はアイドルグループ「ももいろクローバーZ」が自分の心の支えになっていることを説明したが、妻には伝わらず。「新婚生活を無事に過ごすためには、ももクロのグッズを捨ててお嫁さんの気持ちを宥めるしかないと諦め、今日は全てブックオフに売ってきた」という。
今回は男性が自主的にグッズを売却したという例だが、これまでもインターネット上には「大切にしていた物を妻に勝手に捨てられた」という男性の嘆きが投稿されてきて、たびたび話題になってきた。
大切な物を捨てられたことがきっかけで離婚を検討する人もいるだろう。場合によっては、相手の行為を犯罪に問いたいと思うことすらあるかもしれない。
だが、「配偶者が大切にしている物を勝手に捨てる」ことは、犯罪や離婚事由になるのだろうか。離婚案件の経験が豊富な遠藤知穂弁護士に聞いた。
夫婦間でも「器物損壊罪」は成立する
そもそも、他人の物を勝手に捨てる行為は、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性がある。
また、窃盗罪や横領罪などの一部の犯罪は「親族相盗例」により親族間で起こった場合には処罰がされないが、器物損壊罪は親族相盗例に含まれないため、家族間でも成立する。
一方で、器物損壊罪は被害者からの告訴がなければ起訴されない「親告罪」でもある。いくら自分が大切にしていた物だとはいえ、実際に配偶者を訴える人はいるのだろうか。
「大事にしていた物を捨てられたことが原因で離婚の決心をした場合には、これから離婚する相手のことを告訴する人がいてもおかしくないでしょう」(遠藤弁護士)
「大切な物を勝手に捨てられた」は離婚事由になるか?
離婚をしたくても相手が拒否し、合意が成立しない場合には、最終的には離婚訴訟を起こすことになる。
ただし、裁判で離婚が認められるためには、「不貞行為」や「悪意の遺棄」などの「法定離婚事由」が必要とされる(民法770条1項)。
配偶者の大切な物を勝手に捨てる行為や、止めるように言われても何度も繰り返し捨てることは、法定離婚事由のなかでも「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があるという。
「ただし、ただ“大切な物を勝手に捨てられた”というだけで該当するわけではありません。
勝手に捨てられた物は所有者にとってどのような価値を持っていたのか、その価値を配偶者も知っていたのかどうか、勝手に捨てられたのは一度だけなのか、たびたび発生しているのか、など。
さまざまな要素を考慮したうえで、“その他婚姻を継続し難い重大な事由”に該当するのか否かが判断されることになるでしょう」(遠藤弁護士)
「物を捨てられた」が原因で離婚に至る夫婦は少ない
もし配偶者に物を勝手に捨てられた場合、まずはどのような対応を取ればいいのだろうか。相手と離婚することまで検討していないのなら、警察に相談することは過剰な対応になるだろう。
一方で、離婚を視野に入れている場合には、まずは「事前の承諾なく捨てられた」という事実を確認したうえで、配偶者と話し合いを行うべきだ。「今後は勝手に物を捨てない」という内容の書面を作成しておけば、次に相手が物を勝手に捨てた場合には、離婚するための証拠となる。
「何度も物を捨てられていて我慢ならない場合や、損害が非常に大きくなっている場合には、警察に相談することを検討することも考えられるでしょう。
その場合にもまずは弁護士に相談して、最終的にどうするかという目標を定めたうえで、メリットやデメリットを考慮しながら具体的な対応を慎重に検討したほうがよいでしょう」(遠藤弁護士)
もっとも、遠藤弁護士が実際に扱ってきた案件のなかで、配偶者に大切な物を勝手に捨てられたことが直接の原因で離婚を検討した人はほとんどいないという。
「話題になっていた投稿も、私が見る限り、“勝手に捨てられた”のではなくて“捨てるように圧をかけられて、自分の判断で捨てたら後悔した”という内容だと思います」(遠藤弁護士)
夫婦や男女の対立を煽る話題は、SNSではバズりやすい。Xでは「妻に物を勝手に捨てられた」や「妻の圧力に負けてしぶしぶ捨てた」という投稿が目立っているとしても、実際にはごく少数の家庭でしか起こっていない事態なのかもしれない。
取材協力弁護士
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