厳しい規制も「いくらでもやり方ある」と豪語!? “悪質”業者が狙う「動物愛護管理法」の抜け道とは

弁護士JP編集部

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厳しい規制も「いくらでもやり方ある」と豪語!? “悪質”業者が狙う「動物愛護管理法」の抜け道とは
犬・猫が快適に過ごせる環境の「数値規制」も法改正のひとつだが…(※写真はイメージです Flatpit/PIXTA)

コロナ禍をきっかけに犬・猫などのペットを飼いはじめた人も少なくないだろう。

実際、緊急事態宣言が発令された2020年からペット・ペット用品関連の販売額は大きく伸びている(経済産業省統計)。ペットショップ以外にも全国のブリーダーからWEB経由で購入できるサイトなど、手軽な購入方法も後押しした。

人との直接対面が極端に減り、癒やしをもたらす新しい「家族」。ブームの広がりを受けてその「家族」を届ける販売業者側の数も増加してきたが、ここ数年、その飼育環境の劣悪さなども問題視され、ペットに関する法律も「動物愛護」の観点から改正が行われてきた。

コロナ禍でもペット・ペット用品の販売額は堅調(出典:「商業動態統計」経済産業省)

販売業者への影響が大きい「数値規制」

6月1日に施行された「改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律)」。2019年からはじまった動物愛護管理法の改正は段階的に施行され、今回はその第3弾ともいうべきもの。ペット販売業者には、その取り扱う犬猫にマイクロチップを装着することが義務付けられる(販売業者以外の所有者は努力義務)というのが注目されているポイントだ。

マイクロチップにより犬や猫の名前・性別・品種・毛の色・業者名などが国のデータベースに登録(販売業者以外の所有者も、氏名・住所・電話番号などを30日以内に登録)される。これまで課題となってきた、迷子や飼育放棄などで自治体に引き取られる犬と猫への対応が、登録によりスムーズに進む(飼い主に戻されるなど)ことが期待されている。

直径2mm、長さ12mm程度の円筒形のマイクロチップが装着される(出典:「動物愛護管理法の概要」環境省)

また、これまで経過措置を取られていた(飼育のための)ケージのサイズ、繁殖の年齢制限、ブリーダーや従業員1人あたりの飼育頭数などに関して、数値規制に合わせた対応を販売業者側が行う必要も規定されている。

  • 寝床や休息場所となるケージのサイズ
    例:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍とする。
  • 従業員1人あたりの飼育数
    例:販売犬30頭(繁殖犬25頭)販売猫40頭(繁殖猫35頭)※2022年6月
  • 繁殖の年齢制限
    犬:雌の生涯出産回数は6回まで、メスの交配は6歳まで(満7歳未満)。ただし、7歳に達した時点で生涯出産回数6回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下とする。
    猫:雌の交配時の年齢は6歳以下。ただし、7歳に達した時点で生涯出産回数が10回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下とする。

※詳細は「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」(環境省)

今回の改正で、実はこの「数値規制」がはじまることが販売業者にとって一番大きいと語るのは、猫のブリーダーでもあるペットジャーナリストの阪根美果さん。

「法律によって、劣悪な飼育環境が是正されると考えられていますが…」。数値規制だけですべてが解決へ向かうという楽観視はできないと続ける。

「人里離れた山奥に別の繁殖場を作り…」

「頭数制限でいえば、たとえば1人で100頭ぐらいを飼育しているような施設は、(6月1日から)繁殖犬については1人25頭としなければならない。そうなれば、単純計算で従業員は自分を入れて新たに3人雇わなければいけなくなります。さらにケージも変え、スペースも広げるなど、施設をすべて改装する必要があります」(阪根さん)

法律の規制を守るため、業者の負担するコストがかさむ状態となるという。環境を維持しながら営業を続けるのは、おのずと「相当な資金力」がある業者だ。つまり劣悪な環境で営業する業者は資金力がなければ淘汰(とうた)され、規制に対応できる業者が生き残るという、健全な競争原理が働くのではと考えられそうだが、そう単純にはいかない懸念も大きい。

「たとえば資格を持っていない一般家庭の人が繁殖をし、その子犬や子猫たちをブリーダーが引き取り、販売している悪質なケースなどを以前から聞いています。また、人里離れた山奥に別の繁殖場を作り、そこで繁殖した子犬や子猫を頭数制限の25頭の親が産んだことにして販売すればいいと話すブリーダーがいるとも聞いています。

それらの場合、いくら改正で厳しい規制をしても、抜け道となってしまいます。いくらでも(頭数制限・繁殖の年齢制限を破る)やり方があると豪語するブリーダーもいるほどです。生き残りのために、法の抜け道に目をつけ、悪知恵の働く人が出てくる可能性があります」(阪根さん)

果たしてそこに「愛情」はあるのか

動物の尊厳を守るための法律が、必ずしも機能しているとは言い難いケースも少なくない。なぜこのような状況が生まれてしまうのだろうか。阪根さんは、数値規制だけではないもので、法律を補強する必要性を訴える。

「数値規制だけで犬や猫に対する「愛情の度合い」ははかれません。たとえば(規制の)1人25頭も多いと個人的には考えています。頭数が増えるほど管理が難しくなるし、ケージから出して遊ぶ時間も少なくなります。頭数が多いブリーダーはスタッフを雇うことになるので、管理しやすくするため犬や猫を番号で呼ぶことも少なくありません。

果たしてそこに愛情はあるのかということ。健全なブリーダーであれば、しっかりと愛情を注いで育てられる頭数しか飼育しません。ある程度の規模で、ブリーダー自身の目が届く頭数であることが本当は必要です。」(阪根さん)

愛情があれば、劣悪な環境で飼育することなどは決してしないだろう。また、「繁殖した子を生涯にわたってサポートする覚悟」(阪根さん)をブリーダーが持ち得ているかどうかは、数値ではかることはできない。命を預かるということを考えれば、ブリーダーの国家資格(およびその機関)のようなものが必要なのではと阪根さんは話す。

飼い主にも生涯にわたってサポートする覚悟が求められる(rachel/PIXTA)

「動物を販売するには第一種動物取扱業の登録※が必要です。登録には、ペットショップやブリーダーなどで働いた経験が半年あること、指定登録機関の認定資格を取得することが要件となります。しかし、期間が短いですし、ブリーダーに関しては適合している資格とは言い難い。先ほどお話しした愛情に加えて、知識や経験を通して自分でステップアップしていく思いがある人を育てる、「熱意」がないと受からないような資格制度の検討も必要だと考えています」

※動物(実験動物・産業動物を除く、哺乳類、鳥類、爬虫類)の販売、保管、貸出し、訓練、展示、競りあっせん、譲受飼養を営利目的で営業を始めるに当たり必要な登録

今後必要な「飼う側の意識」の変化

動物愛護管理法をめぐる問題は、もちろん販売する側の責任だけではない。

「犬や猫の価格は水物のところがあります。ペットショップで高額でも売れ、利益率も高いので、規制を守らない悪徳業者も後を絶たない。メディアで人気の犬種、猫種が出てくると、人々がそれを買い求める。悪い意味で需要と供給のバランスがとられているという側面も否めません」(阪根さん)

海外では、ペット専門警察(アニマルポリス)の存在、ペットショップの全面廃止、保護犬、保護猫から迎え入れるのが通常など、「飼う側の意識」が日本と比較して10~20年は進んでいる国も多いという。

近年では、ネットや有名人の活動などによっても、ペットを飼育する環境への議論がなされ、飼う側への周知も少しずつではあるが進んできており、民意の高まりを阪根さんも期待している。

法律による数値規制は一歩前進であることは言うまでもない。さらに「抜け道」をふさぐため、行政監視の目のアップデートはもちろん、飼う側や社会全体の意識を高めるための「人」と「愛情」にフォーカスした制度も議論されるべき時期に来ているのかもしれない。

世界最大の猫種「メインクーン」のトップブリーダーでもある阪根美果さん
  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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