【施工業者向け】出来高とは? 工事打ち切り時に請求できる損害賠償
建築工事が施主の都合で急に打ち切られた場合、施工業者は施主に対して「損害賠償」とは別に「出来高」を請求できます。
本コラムでは、建設工事における出来高の概要や出来高の計算方法、施主に請求できる損害賠償などについて解説します。
1. 建設工事における出来高とは
民法第641条には、注文者による契約の解除について以下のように記載されています。
(注文者による契約の解除)第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
引用:e-Gov法令検索「民法」
つまり施主(注文者)は、施工業者(請負人)が建物を完成させるまでの間、いつでもその工事を中止できるということです。
しかし、施工業者からすれば施主の都合で契約解除されたとなると、それまでにかかった費用などが無駄になり、不利益を被ります。そのため、民法第641条では施主がいつでも工事を中止できるが、施工業者に対して生じた損害を賠償しなければならないことが記載されています。
(1)出来形とは
何らかの理由で工事が途中で打ち切られた場合、現場には施工途中の建物が残されます。この途中まで出来上がった建物を「出来形(できがた)」もしくは「出来形部分」と言います。
(2)出来高とは
出来形に一定の価値があり、施主がそれによって利益を得る場合には、施工業者は施主に対して出来形にかかった工事代金を請求できます。この出来形に相応する請負代金のことを「出来高(できだか)」と言います。施主都合で工事が途中で打ち切られた場合、施工業者は施主に対し、損害賠償とともに出来高を請求できます。
2. 出来高の計算方法と請求方法
施工業者は、施主が出来形で受ける利益の割合に応じた額を請求できることが、民法第634条で定められています。つまり、施工業者が施主に対して出来高を請求するには、工事が中断した時点までの建物の価値を正しく評価し、請求額を求めなければなりません。
たとえば、工事の見積書や工程表、現地調査などを行い、工事が全体のどの程度まで進んでいたか(出来高割合)を特定し、請求額を算出します。
しかし、この出来高の計算方法にはいくつかあり、工事の内容や質なども考慮しなければならないため、専門的な知識を持つ弁護士などの協力が必要不可欠です。また、出来高や損害賠償の請求を巡っては、施主と争いになることが少なくありません。そのため、円滑に出来高などを回収したいのなら弁護士の力を借りて、以下のような請求方法で、問題解決を目指すことが重要です。
出典:e-Gov法令検索「民法」(1)示談交渉
示談交渉では施主と施工業者が話し合って問題を解決します。示談交渉のメリットは話し合いで解決するため、早期解決が実現しやすいかつトラブル悪化を回避できることです。弁護士などの代理人を同席させると、より円滑な交渉が期待できます。
(2)ADR(裁判外紛争解決手続き)
ADRは公正中立な第三者を介して、あっせん・調停・仲裁といった形で紛争の解決を図ります。ADRのメリットは、裁判よりも簡単な手続きで費用を節約でき、専門家が携わってくれるので迅速な解決が期待できることです。
ADRは提供主体によって分類でき、裁判所で行われる「司法型ADR」、行政機関などが行う「行政型ADR」、弁護士会などの民間が行う「民間型ADR」が存在します。とりわけ建築関連の紛争では、国土交通省や各都道府県による「建設工事紛争審査会」や、弁護士会による「住宅紛争審査会」などが有名です。
(3)民事調停
調停では裁判官と一般市民から選ばれた調停委員を交え、当事者間で話し合いにより紛争を解決します。民事訴訟よりも手数料が安く、手続きが簡単でスピーディーな解決が期待できます。そして調停で合意された内容は確定判決と同じ効力を持ちます。
(4)民事訴訟
相手方との話し合いが不可能であったり、拒否されたりした場合には、民事訴訟が必要です。ほかの手段よりも時間と費用がかかりますが、確定判決により相手方の財産を差し押さえること(=強制執行)もできます。
3. 出来高以外に請求できる損害賠償
工事が施主都合で中止された場合、工事請負契約におけるキャンセルに伴う違約金規定があれば、それに従います。しかし、違約金の規定がない場合には、施主は施工業者に対し、生じた損害を支払わなければなりません。損害賠償額は、中止したタイミングが着工前か着工後かによって大きく変わります。ここでは着工前と着工後に分けて施主に請求できる損害賠償について解説します。
(1)着工前
建築工事の準備段階でかかった以下の費用などが請求できます。
-
発注済みの建築資材費用
-
採用した人材費用
-
調査や設計にかかった費用
これらの費用に加え、工事が完了したら得られたであろう利益「逸失利益」を請求できます。
(2)着工後
工事によって出来上がった部分に関しては施主に対して「出来高」として請求します。さらに損害賠償として、未施工の部分に関してすでに発生した資材・人材などの費用と、未施工の部分に関する逸失利益を請求できます。
建物の工事が施主都合で急に打ち切られた場合、施工業者は施主に対して損害賠償や出来高の請求ができます。しかし、出来高や逸失利益の算定およびスムーズな回収はかなり困難なため、早めに専門的な知識のある弁護士に相談しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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