- (更新:2025年01月10日)
- 医療・介護問題
カルテ開示を医者に拒否された! その理由と対処法を解説
医療事故が生じた場合、どのような経緯で生じたのか、医療機関側に責任があるのかを確かめるためにカルテ開示が必要になります。
カルテ開示は、患者の権利ですが医療機関によっては、「カルテを開示することはできない」とカルテ開示を拒否されてしまうことがあります。このような対応をされたときはどのように対処すればよいのでしょうか。
本コラムでは、カルテ開示が拒否される理由と拒否が認められるケース、拒否された場合の対処法について解説します。
1. 患者にはカルテを開示してもらう権利がある
そもそも患者にはカルテを開示する権利があるのでしょうか。まずは、カルテ開示の基本をみていきましょう。
(1)カルテ開示請求は患者の権利
カルテ開示請求とは、患者が医療機関に対して、カルテ(診療記録、診療録、診療情報)の開示を請求することをいいます。
カルテには、患者の病状などの情報が記載されています。これらは患者の個人情報になりますので、個人情報保護法第76条1項により自己の情報の開示を求める権利が認められています。
また、「診療情報の提供に関する指針7⑴」(厚生労働省)でも医療機関にカルテ開示義務を定めていますので、カルテ開示請求は、確立された患者の権利といえるでしょう。
(2)カルテ開示請求をすべきケース
患者には、カルテ開示を求める権利があるため、カルテが必要なときは、以下に定める拒絶事由が無い限り、いつでも開示申請ができます。特に、以下のようなケースではカルテが必要になりますので、カルテ開示請求をすべきでしょう。
- 医療事故の原因を明らかにする必要があるケース
- 医療機関側の過失を立証する必要があるケース
- 医療過誤を理由とする損害賠償請求を検討しているケース
(3)親権者など親族もカルテ開示を請求できる
カルテ開示請求は、患者本人の権利ですが、以下のような範囲の親族もカルテ開示請求が可能です。
- 患者に法定代理人がいる場合には、法定代理人。ただし、満15歳以上の未成年者については、疾病の内容によっては患者本人のみの請求を認めることができる。
- 診療契約に関する代理権が付与されている任意後見人
- 患者本人から代理権を与えられた親族及びこれに準ずる者
- 患者が成人で判断能力に疑義がある場合は、現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者
2. カルテ開示の拒否が認められる理由
医療機関は、正当な理由がない限りカルテ開示に応じなければなりません。しかし、以下のような理由であれば、カルテの開示拒否ができます。
(1)診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合
医療機関が症状や予後、治療経過などについて、患者に十分な説明を尽くしても、本人に重大な心理的影響を与えて、その後の治療効果などに悪影響を及ぼす場合は、カルテ開示の拒否ができます。
たとえば、精神科や心療内科では、医師による診断内容が患者に知られてしまうと、医師と患者との信頼関係が破壊され、治療効果が阻害されるリスクがありますので、カルテ開示が可能です。
(2)業務に著しい支障が生じるおそれがある場合
医療機関の業務に著しい支障が生じるおそれがある場合は、例外的に開示拒否ができます。
たとえば、患者本人から同一内容について繰り返し開示請求があり、受付窓口が事実上占有されることにより他の業務が立ちいかなくなるようなケースが想定されますが、該当するケースはまれでしょう。
(3)第三者の利益を害するおそれがある場合
たとえば、患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合です。
(4)法律上の制限がある場合
カルテの開示により他の法律に違反するような場合も例外的に開示を拒否できます。
3. カルテ開示拒否されたときの対処法
病院にカルテ開示を拒否されてしまったときは、以下のような対処を行いましょう。
(1)医療機関に指針を説明し交渉する
患者にはカルテ開示を求める権利がありますので、原則として開示を拒否することはできません。
カルテ開示を拒否する正当な事由がないにもかかわらず、カルテ開示を拒否された場合、カルテ開示制度を誤解している可能性もあります。そのため、まずは「診療情報の提供に関する指針」(厚生労働省)を示しながらカルテ開示義務を説明し、説得してみるとよいでしょう。
(2)医療機関の上層部に訴える
医療機関の窓口でカルテ開示を拒否されてしまったときは、上層部に訴えることも有効な手段です。
現場の担当者では、カルテ開示の制度について正確な理解がないこともありますので、制度を理解している上層部から指導や注意をしてもらえれば、対応が改善する可能性があります。
(3)医療機関の外部機関に相談する
当該医療機関との話し合いでは問題が解決しないときは、外部機関に相談するのも有効です。相談できる外部機関としては、以下のようなところが考えられます。
- 医療安全支援センター
- 患者相談窓口
- 都道府県の医師会の相談窓口
(4)法的手段を取る
上記の手段によってもカルテ開示に応じてもらえないときは、法的手段によりカルテ開示を求めていく必要があります。この場合にとれる法的手段としては、証拠保全という制度があります。
証拠保全とは、裁判で使うときの証拠をあらかじめ確保できる手続きです。証拠保全を利用するには、証拠保全の事由が必要になりますが、正当な理由なく開示に応じてくれないようなケースでは、証拠の改ざんのおそれがありますので、証拠保全の事由は認められるケースが多いでしょう。
裁判所により証拠保全決定がなされると、裁判官、書記官、申立人で医療機関を訪ねて、カルテを提出してもらい、その場でデジタルカメラやモバイルプリンタなどを利用して、証拠の保全が行われます。
4. カルテ開示を巡るトラブルは弁護士に相談を
カルテ開示を巡るトラブルは、弁護士に相談しましょう。
(1)弁護士が開示請求をすることで応じてくれる可能性が高くなる
患者本人による開示請求を拒否された場合でも、弁護士が代理人として開示請求をすることで応じてくれる病院も少なくありません。
制度を誤解している病院には、弁護士が法的観点から説得することで、任意の開示請求でカルテ開示に応じてくれる可能性が高くなります。
(2)証拠保全の手続きを任せられる
医療機関が任意の開示に応じてくれないときは、裁判所に証拠保全の申し立てをする必要があります。証拠保全の申し立ては、専門的な手続きになりますので、知識や経験がなければ申立書類の作成や申し立てに対応することができません。
カルテ開示に手間取って時間がかかってしまうと、カルテを破棄・改ざんされてしまうおそれがありますので、早めに弁護士に相談して適切に対応してもらいましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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