懲戒解雇で退職金が支払われないのは違法? 会社に請求できる? 普通解雇・整理解雇との違いとは

懲戒解雇で退職金が支払われないのは違法? 会社に請求できる? 普通解雇・整理解雇との違いとは

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

懲戒解雇とは、企業秩序を著しく乱した労働者に対して行われる懲戒処分の一種であり、会社と労働者との間の労働契約関係を一方的に終了させる処分です。

懲戒解雇をされた場合は、本来支払われるはずであった退職金について、不支給または減額がなされることがあります。労働者としても懲戒解雇になった以上、一定の落ち度があったとはいえますが、それだけを理由として退職金を一方的に奪うような措置をとることが認められるのでしょうか。

今回は、懲戒解雇を理由に退職金を支給しないことの有効性について、「普通解雇」「懲戒解雇」との違いも踏まえながら解説します。

1. 懲戒解雇とは

懲戒解雇は、企業の秩序を乱す重大な規律違反を行った労働者に対して制裁として行われる解雇です。懲戒処分には他にも戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(諭旨退職)がありますが、懲戒解雇は懲戒処分のなかでももっとも重い処分です。

就業規則上に懲戒事由や処分の内容などが明記されていなければ、懲戒解雇は認められません。

また、重大な規律違反があったことに加え、処分の相当性企業秩序違反の程度他の懲戒処分との比較などを考慮したうえで、判断する必要があるとされています。

懲戒解雇の理由となりうる行為としては、業務上横領や会社の信用を著しくおとしめる犯罪行為、正当な理由がない長期間の無断欠席などが挙げられます。

懲戒解雇の場合、雇用主の退職金の支払い義務が否定されるには条件があります。

2. 他の解雇との違い

(1)懲戒解雇と普通解雇の違い

普通解雇は、労働者が労働契約で求められる役割を果たせないため、契約を継続することが困難だと判断された場合に行われます。客観的に合理的な理由があって、社会通念上も相当な場合に限り認められます。

また、懲戒解雇とは異なり、制裁を目的としていません。したがって、基本的には雇用主に退職金の支払い義務があります。

普通解雇を行う場合、企業は解雇日の30日前までに、労働者に対して解雇予告をする必要があります。30日に満たないときは、不足する日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。

なお、懲戒解雇の場合、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受ければ、解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要です。

(2)解雇には会社都合の「整理解雇」もある

整理解雇とは、会社の業績悪化などの経営上の理由から行う解雇のことをいい、以下の要件をみたす場合に認められます。

①人員削減の必要性
②解雇以外に可能な手段を講じたこと(解雇回避努力)
③人選の基準が合理性であること(人選の合理性)
④対象者や労働組合に説明し十分に協議を尽くしたこと(手続きの相当性)

整理解雇の場合は、雇用主には当然に退職金の支払い義務が生じます。

3. 懲戒解雇を理由に退職金を不支給にするのは違法?

懲戒解雇を理由に退職金を支給しないのは違法となるのでしょうか。退職金の法的性質を踏まえつつ説明します。

(1)退職金の法的性格

退職金や退職手当は、必ず支給しなければならないものではなく、基本的には、支給するか否か、支給する場合はどのような基準にするかなどは、当事者の合意によることになります。

そのため、就業規則や契約などにおいて退職金についての規定がない場合には、使用者は退職金の支払い義務はありませんが、就業規則などによって退職金の支給や支給基準が定められている場合には、使用者に支払い義務が生じます。

(2)懲戒解雇だけを理由に退職金を不支給にするのは違法となる可能性がある

会社が懲戒解雇をしたということは、少なくとも会社の認識としては労働者に一定の企業秩序違反行為があったということです。会社が企業秩序に違反する行為を行った従業員に対して退職金を支給したくないと考えるのは自然なこととも言えます。

しかし、懲戒解雇が有効だからといって、退職金の不支給が常に認められるというわけではありません。退職金の不支給が認められるかどうかについては、懲戒解雇が有効かどうかとは別に検討する必要があります。

すなわち、まずは、退職金を不支給にする前提として、就業規則や退職金規程などで退職金を不支給とする事由が定められていることが必要になります。また、退職金の不支給が認められるためには、労働者に長年の勤労の功績を抹消してしまうほどの重大な背信行為があったことが必要です。退職金を不支給とする旨の規定がないのにもかかわらず、懲戒解雇であるからといって不支給とすることは違法です。

これは退職金の減額についても同様です。

3. 退職金の不支給が認められるケースとは?

前述したとおり、就業規則等に退職金不支給についての規定があり、労働者に長年の勤労の功績を抹消してしまうほどの重大な背信行為があった場合には、退職金の不支給が認められることがあります。では、具体的にどのようなケースにおいて、不支給が認められる可能性があるのでしょうか。

(1)会社財産の横領があったケース

会社の財産を横領するという行為は、刑法上の業務上横領罪に該当する犯罪行為です(刑法253条)。労働者が会社財産の横領をした場合には、会社との信頼関係を著しく害する行為であり、長年の勤労の功績を抹消してしまうほどの重大な背信行為であるといえます。そのため、会社財産の横領があったケースでは、退職金の不支給が認められる可能性が高いといえます。

ただし、横領金額や内容によっては、退職金全額を不支給とすることは違法となる可能性があります。そのため、退職金の不支給を争うことによって、退職金の一部が減額されるだけにとどまることもあるでしょう。

(2)職場内での違法行為があったケース

性行為を伴うセクハラを行っていたような場合には、刑法上の強制性交等罪に該当する可能性があります(刑法177条)。このような、犯罪に該当する行為があった場合には、会社との信頼関係だけでなく、企業の対外的な信頼も害することになりますので、重大な背信行為であるといえます。このようなケースでも、退職金の不支給が認められることがあります。

(3)競業避止・秘密保持義務違反があったケース

企業によっては、就業規則の中に、労働者に対して在職中の営業秘密保持はもとより、退職後の一定期間内、同業他社に就職することを禁止する競業避止義務の規定が置かれていることも少なくありません。

単に競業他社に就職したという理由だけでは、退職金の不払いは認められない可能性が高いですが、たとえば従業員や顧客の引き抜き行為、秘密情報の持ち出しなどを行っているなど著しい背信行為があった場合は、退職金の不支給が認められる可能性があります。

懲戒解雇を理由とした退職金の不支給が認められるのか、違法になるのかについては、状況によって判断が異なります。悩まれた際は、労働基準監督署や弁護士に相談してみると良いでしょう。

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