退職勧奨が違法となる場合とはどんな場合なのか。
  • 労働問題

退職勧奨が違法となる場合とはどんな場合なのか。

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

ブラック企業という言葉が生まれてずいぶんたちますが、いまだにブラックな働き方につらい思いをしている方も少なくありません。そして、新型コロナウイルスの影響で企業の業績も不安定になり、会社から退職勧奨をされる人も増えています。

この退職勧奨が違法な形で行われている可能性があります。では、いったいどんな場合が違法な退職勧奨にあたるのでしょうか。

1. 退職勧奨とは

まず、退職勧奨とはどういうものか、解雇との違いなどを整理しておきましょう。

(1)退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨とは、雇い主である会社が従業員に対し、あくまで従業員が自分の意思で退職を決めるようにすすめることです。したがって、退職勧奨を受けても実際に退職するかどうかは、従業員が自由に決めることができ、また会社も、誰にいつ退職勧奨するか、自由に決めることができます。

一方、解雇は、会社が従業員に対して一方的に労働契約の解除を突き付けることです。解雇されると従業員としての地位を失い、給料も支払ってもらえません。このように、解雇には強い効果があるため、会社が自由に解雇できないように、法的な規制が設けられています。

(2)退職勧奨をされたら応じなければならない?

退職勧奨はあくまでも、会社からの退職のすすめですから、これに応じなければならないわけではありません。退職をすすめられても、自分はもっとこの会社で働きたいと思うなら、断ることができるのです。

とはいえ、会社から名指して退職勧奨を受けると、やる気を失ったり、居づらいと感じる人もいらっしゃるでしょう。実際、退職勧奨をきっかけに、退職届を出す人も少なくありません。

なお、退職勧奨に応じて仕事を辞める場合は、退職理由を自己都合退職ではなく、会社都合退職としてもらう方が、良い場合もあります。たとえば、失業保険の手当ては会社都合退職の方が、早めに受給でき、期間も長くなります。

2. 退職勧奨が違法となる場合とは

退職勧奨は、原則としては適法であり、会社は誰に対しても退職をすすめることができます。

しかし、ある一定ラインを越えると退職勧奨は違法と評価されます。では、そのラインはどこにあるのでしょうか。退職勧奨に関する重要な裁判例と合わせて解説します。

(1)教師が退職勧奨を受けた事件(広島高裁昭和52年1月24日判決 (最高裁昭和55年7月10日判決で上告棄却))

【事案の概要】

市立高等学校の先生2名が、退職勧奨を受けたが退職を一貫して拒否しているのに、市の職員からしつこく退職を勧奨され、市と教育長らに違法な退職勧奨であり、それにより精神的な損害を受けたとして50万円ずつ賠償するよう請求しました。

裁判所は、市が、原告である先生2名に対して慰謝料を払うよう判決しました。

【判示のポイント】

この判決が示したのは次の4点です。

  1. 退職勧奨は、あくまで自発的な退職を説得する行為であって、従業員は自由に決定できる。
  2. 従業員の自由な意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害する行為は、違法な退職勧奨にあたる場合がある。
  3. 多数回、長期にわたる、執拗に繰り返したり際限なく退職勧奨が続くのではないかと心理的圧迫を与える行為は不当である。
  4. 不当な退職勧奨をした場合、使用者が労働者に慰謝料を支払わねばならない場合がある。

(2)外資系大手企業の退職勧奨の事件(東京地裁平成23年12月28日判決)

【事案の概要】

外資系大手企業が、業績不振を理由に、約3000人の従業員に退職勧奨を実施したところ、従業員の一部が退職勧奨は労働者側の退職に対する自由な意思決定を不当に制約し、名誉感情などを害する不法行為だとして損害賠償を請求しました。

裁判所は、退職勧奨の対象者が退職に消極的でも直ちに説得活動をやめる義務はなく、退職のメリット等について説明を繰り返して再検討を求めたりすることは、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でない限り許容されるとして、原告らに対する退職勧奨に違法はないとして、請求を棄却しました。

【判示のポイント】

この判決では、

  1. 退職勧奨の頻度や程度が社会通念上相当な程度を超える場合
  2. 不当な心理的圧力を加えたり、相手の名誉感情を害する言動をした場合

といった場合には退職勧奨が違法になりうることを前提に判断されています。

なお、退職するしかないと労働者に思わせる言動があった場合にも、違法性が認められる傾向にあります。

これらの事情があれば、退職勧奨が違法となり、従業員が慰謝料を請求できる可能性があります。退職勧奨が行われると事前に分かっている場合には、録音の準備をし、証拠を押さえておくようにしましょう。退職をすすめられ悩んでいる場合には、労働事件の経験豊富な弁護士に早めに相談してみることをおすすめします。

弁護士JP編集部
弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2022年02月24日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

労働問題に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す

関連コラム

労働問題に強い弁護士

  • 上田 芙祐美 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 八王子オフィス

    八王子市
    東京都八王子市東町9番8号 八王子東町センタービル5階
    JR「八王子駅」より徒歩5分
    京王線「京王八王子駅」より徒歩6分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    残業代請求・不当解雇の問題を中心的に数多く取り扱っております。

  • 山本 恭輔 弁護士

    福岡つむぎ法律事務所

    福岡市早良区
    福岡県福岡市早良区百道1-9-12 アーバンももちⅡ102
    • 休日相談可
    • 夜間相談可
    • 24時間予約受付
    • ビデオ相談可
     
    注力分野

    【オンライン相談可】【企業側・従業員側どちらも対応可】【藤崎駅から徒歩5分】未払残業代、解雇・懲戒、労災、セクハラ・パワハラ等、労使トラブルはお早めにご相談を

  • 上本 浩二 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 京都オフィス

    京都市中京区
    京都府京都市中京区烏丸通錦小路上ル手洗水町659 烏丸中央ビル2階
    阪急京都線「烏丸駅」・市営地下鉄「四条駅」より徒歩3分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    メーカーでの営業経験も活かし、初回法律相談の段階から「この弁護士に相談してよかった」と思っていただけるように親身にお話を聞かせていただきます

  • 藤原 和久 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 大阪オフィス

    大阪市北区
    大阪府大阪市北区堂島1-1-5 関電不動産梅田新道ビル2階
    地下鉄御堂筋線「淀屋橋駅」より徒歩7分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    労働問題の相談対応実績多数。あなたの利益の最大化を目指します。まずは電話・メールで状況をお聞きします。

  • 守田 英昭 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 熊本オフィス

    熊本市中央区
    熊本県熊本市中央区新市街11-18 熊本第一生命ビルデイング4階
    熊本市電「辛島町駅」より徒歩2分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    労働問題の解決実績多数!!あなたの利益の最大化を目指します。

弁護士を検索する