パワハラでうつ病と認定された会社員…弁護士依頼で示談金を想定以上に受け取れたワケ

パワハラでうつ病と認定された会社員…弁護士依頼で示談金を想定以上に受け取れたワケ

阿部 由羅

監修弁護士

阿部 由羅

埼玉弁護士会

「これはパワハラじゃないのか」そう気づいたとき、すでに心身は限界を超えていたというケースは少なくありません。

上司からの執拗(しつよう)な𠮟責(しっせき)や人格否定が続く中、声を上げることもできないまま追い詰められ、気づけばうつ病を発症して退職を余儀なくされる。

そんな被害者が、泣き寝入りせずに会社から示談金を受け取るためには、しかるべきタイミングでしかるべき法的サポートを受けることが重要です。

今回は、パワハラによってうつ病を発症し退職した会社員が、弁護士に依頼することで会社から示談金を受け取るまでの経緯を紹介します。

どの段階でどう動くべきなのか。弁護士の視点も交えて解説します。

※本記事で紹介されている物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

パワハラでうつ病になった会社員が、会社から示談金を受け取るまで

突然始まった上司からの執拗なパワハラ

「お前みたいな使えないやつは初めて見た」

会議室に響く上司の声に、周りの同僚は目を伏せた。田中利樹さん(33歳)への𠮟責は、もはや日常になっていた。

業務上の指摘であればまだ耐えられた。しかし内容は次第に、人格を否定するものへと変わっていった。「給料泥棒」「会社の恥」。そんな言葉を、毎日のように浴びせられた。

相談できる同僚もいたが、みな同じ上司の部下だった。「自分さえ我慢すれば」と思いながら、田中さんはひたすら耐え続けた。

追い詰められうつ病と診断…そして退職へ

異変は、じわじわとやってきた。

𠮟責が続く中、胸の痛みや毎朝の激しい頭痛に悩まされるようになった。吐き気をこらえながら通勤電車に乗り込む日々。誰にも相談できないまま一人で耐え続けた。

転機は、かつての同僚からの一本の電話だった。

「うつ病の可能性もあるから、一度専門医に相談してみたら」

その言葉に背中を押され受診した心療内科で、診断は「うつ病」だった。

休職を経て復職を試みたが職場の状況は変わらず、最終的に田中さんは退職を決断した。

「泣き寝入りだけはしたくない」深夜のネット検索

退職後、田中さんの生活は一変した。収入が途絶え、外に出る気力もない。それでも、ふとした瞬間に怒りがこみ上げてきた。

「なぜ自分がこんな思いをしなければならないのか」

深夜、スマートフォンを手に取り、検索窓に打ち込んだ。「パワハラ うつ病 示談金」。

画面には、示談や慰謝料、弁護士への依頼に関する情報が並んだ。

法律用語が多く、最初は何が何だかわからなかった。それでも「このまま泣き寝入りだけはしたくない」という思いから、まず自分で解決する方法のひとつとして、会社の人事部にメールを送ってみた。

しかし返答は来なかった。1週間待っても、2週間待っても、会社からは一切の連絡がなかった。

「やっぱり一人では無理なのか」と感じ始めた頃、検索結果の中に「成功報酬型なら初期費用ゼロ」という文字が目に入った。

「初期費用がかからないなら、話だけでも聞いてみようか」

「無料なら話だけでも」重い腰を上げて弁護士の無料相談へ

弁護士事務所の扉を開けることは、田中さんにとって大きな一歩だった。「大げさだと思われないか」「証拠が足りないと言われたら」。不安を抱えながら無料相談の予約を入れた。

当日、弁護士は田中さんの話を最後まで静かに聞いた。そして言った。「これは明らかなパワハラです。示談金を請求できる可能性が十分あります」

肩の力が、すっと抜けた。自分が間違っていなかったことを、初めて誰かに認めてもらえた気がした。田中さんはその場で正式に依頼を決めた。

強気な会社が急に折れた――弁護士介入で変わる示談交渉の現実

弁護士が会社に内容証明郵便を送付してから、状況は一変した。

それまで田中さんからの連絡を無視し続けていた会社が、弁護士からの通知が届いた途端に返答してきたのだ。「話し合いの場を設けたい」という、あの強気だった会社からの言葉だった。

その後の交渉は、すべて弁護士が代理で行った。田中さんは交渉の場に立つ必要すらなかった。

会社側は当初、低い金額を提示してきたが、弁護士が証拠をもとに粘り強く交渉を続けた結果、提示額は大きく引き上げられた。

「諦めなくてよかった」示談金を手に

弁護士に依頼してから約4か月後、田中さんの口座に示談金が振り込まれた。

弁護士費用を差し引いても、当初会社が提示した金額を大きく上回る額だった。示談書には、会社からの謝罪の言葉も記されていた。

「一人で抱え込んでいたら、きっと諦めていた」と田中さんは振り返る。「弁護士に相談したあの日が、全ての始まりだった気がします」

パワハラでうつ病になり、退職を余儀なくされた。それでも諦めなかったことで、田中さんは前に進むことができた。

なぜ示談金を受け取ることができたのか?示談交渉のポイント

今回の田中さんのケースでは、弁護士が会社に対して連絡したところ、会社側は比較的すんなりと交渉に応じてきた印象を受けます。おそらく、上司が日常的にパワハラをしていることを会社側も把握していて「まずいところを突かれた」という思いがあったのではないでしょうか。

弁護士は法律に関する知識や経験を有しており、訴訟などの法的手続きも視野に入れた対応ができます。会社側としても、弁護士を相手に対応するのは労力やコストがかかるので、できれば穏便に済ませたいという考えが働きやすいです。

実際に弁護士から連絡しただけで、会社側が強硬だった姿勢を軟化させるケースはしばしば見られます。「困ったら弁護士に相談する」というのは、会社とのトラブルを解決するうえで大切な考え方といえるでしょう。

他方で、パワハラについて弁護士に相談する際には、パワハラを受けている事実の証拠を事前に確保することが望ましいです。証拠が十分にそろっていれば、弁護士はより適切に対応方針を検討できますし、会社側の譲歩を引き出せる可能性も高まります。

今回のケースにおいて、田中さんが弁護士事務所へどのような証拠を持参したのかは不明ですが、たとえば次に挙げるような資料を持参すると、弁護士から有益なアドバイスを受けることができるでしょう。

  • パワハラに当たる言動が表れているメールやチャットの記録
  • パワハラに当たる言動の録音、録画
  • パワハラの被害内容を記したメモ、日記
  • パワハラが原因で生じた精神疾患の診断書

また、実際にパワハラの損害賠償を請求する際には、同僚の証言も役立つことがあります。証言を頼めそうな同僚がいるかどうかも把握しておくとよいでしょう。

しかしながら、どのような証拠があるとよいのか、自分では判断できない場合もあるかと思います。その場合は、証拠がそろっていなくても弁護士に相談してください。集めてほしい証拠の種類や、集める方法などをアドバイスしてもらえます。

示談と訴訟、どちらを選ぶべきか?示談金と慰謝料の違いも解説

パワハラに関する損害賠償請求の方法の代表例は、「示談交渉」と「訴訟」の2つです。

「示談交渉」とは、会社と話し合って解決の合意を目指すプロセスを指します。合意が得られた場合は「示談」となり、その内容に従って示談金(解決金)が支払われます。

なお、パワハラについては「慰謝料(=精神的損害の賠償金)」が問題となることが多いですが、示談金には慰謝料以外の賠償金も含まれている場合があります。たとえば慰謝料に加えて、精神疾患の治療費や休業損害なども含めて「示談金」として支払うケースがよく見られます。

「訴訟」は、裁判所において行われる紛争解決手続きです。最終的には裁判所が判決を言い渡し、強制的に紛争が解決されます。訴訟の確定判決には法的拘束力があり、当事者はその内容に従わなければなりません。

示談交渉と訴訟を比べると、訴訟の方が大きな手間と長い期間を要します。可能であれば示談を成立させた方が、早期にトラブルを解決できるので、当事者にとって負担が軽くなります。

しかし、常に示談ができるとは限りません。従業員側と会社側の主張が大きく異なる場合は、示談の成立が期待できず、訴訟がやむを得ない場合もあります。

損害賠償請求の手順としては、まず会社との示談交渉を試みて、まとまる見込みがないようなら訴訟を提起するという流れが一般的です。弁護士と相談しながら、状況に応じた適切なアプローチを検討してください。

示談金の相場はどれくらい?

パワハラの示談金額は、被害者が受けた損害の項目をリストアップし、各項目の金額を積算して決めるのが適切と考えられます。一般的なパワハラ事案では、慰謝料・治療費・休業損害などを積算して、総額50万円~300万円程度の示談金が支払われるケースが多いように思います。

パワハラによる損害の項目 目安額
慰謝料 50万円~200万円程度
治療費 実費(数万円程度)
休業損害 給与額や休職期間による

精神的損害の賠償金に当たる「慰謝料」は、50万円~200万円程度が標準的です。どのくらいの慰謝料額が適正であるかは、パワハラ行為の内容・悪質性・頻度・回数などに応じて決まります。

パワハラによって精神疾患を発症した場合は、治療費や仕事を休んだことによる収入の減少(=休業損害)についても損害賠償を請求できます。この場合、治療費や休業損害も示談金に含めるのが妥当でしょう。治療費は実費が損害賠償の対象で、数万円程度となるケースが多いです。休業損害は給与額や休職の期間によるので一概に言えません。

なお、パワハラの被害者が自殺してしまった場合には、死亡慰謝料や逸失利益などの損害賠償も請求できます。示談金の適正額も、数千万円~1億円以上ときわめて高額になります。

会社と上司、どちらに請求できるか?

パワハラに関する損害賠償は、第一義的には加害者本人に対して請求します。加害者は不法行為(民法第709条)に基づき、被害者が受けた損害を賠償しなければなりません。今回の田中さんのケースでは、上司に対して損害賠償を請求することができます。

さらに、パワハラの被害者は会社に対しても、使用者責任(民法第715条第1項)に基づいて損害賠償を請求できる可能性が高いです。

上司と会社の双方が責任を負う場合、被害者はどちらに対しても損害全額の賠償を請求できます。ただし二重取りはできず、得られる賠償金は実際に受けた損害の額が上限です。

示談交渉は自分でできるか?弁護士に依頼するメリットと費用

パワハラに関する示談交渉を自力で行おうとする方もいますが、会社側の適切な対応を得られるケースは多くありません。

示談交渉は弁護士に依頼した方が、会社側の譲歩を引き出しやすく、スムーズに賠償金を得られる可能性が高いと考えられます。労力やストレスが大幅に軽減されることも、弁護士に依頼することの大きなメリットです。

依頼する際には弁護士費用がかかりますが、初回相談については無料で受け付けている弁護士がたくさんいます。またごく一部ですが、田中さんのケースのように、完全成功報酬制で依頼を受けてくれる弁護士も存在します。パワハラを受けて困っているときは、無料相談などを利用して、早い段階で弁護士に相談してみてください。

示談交渉の流れ

パワハラに関する示談交渉は、次の流れで進めます。

1. 事実関係の整理と証拠の確保

いつどこで、どのようなパワハラを受けたのかといった事実関係を明確にし、それを立証するための証拠を確保します。メールやチャットの記録、録音や録画、被害に関する日記やメモ、医師の診断書などが有力な証拠となります。

2. 内容証明郵便の送付

会社に対して内容証明郵便を送付し、損害賠償の支払いを求めます。内容証明郵便には、パワハラの被害を受けた事実や請求する賠償金の額、返答期限などを記載します。弁護士に依頼すれば、弁護士名義で内容証明郵便を送付してもらえます。

3. 会社との交渉

従業員側と会社側が条件を提示し合い、互いに歩み寄って合意を目指します。示談金の内訳や金額、支払期限などを話し合います。

4. 示談書の締結、示談金の支払い

示談交渉によって合意が得られたら、その内容をまとめた示談書を作成し、従業員側と会社側の双方が調印します。その後、示談書の内容に従って会社側から示談金が支払われます。

示談交渉が決裂した場合は、訴訟などを検討する必要があります。弁護士のサポートを受けながら、訴訟を見据えた準備を整えましょう。

パワハラ示談金:受給可能性チェックリスト

次の項目のうち、該当するものが1つ以上ある場合は、パワハラ被害者として会社に損害賠償を請求できる可能性があります。早めに弁護士へ相談してください。

  • [ ] パワハラの被害を裏付ける客観的な証拠がある
    →パワハラに当たる内容を含むメールやチャットの記録、録音や録画などの客観的な証拠があれば、損害賠償請求の成功率が高まります。
  • [ ] パワハラの被害を証言してくれる同僚がいる
    →仮に客観的な証拠が乏しいとしても、証言してくれる同僚がいれば心強い味方となります。会社側としても、複数の従業員が被害を訴える状況を無視することは難しいでしょう。できれば複数人、証言を頼める同僚を探しておくことが望ましいです。
  • [ ] パワハラによって精神疾患を発症している
    →うつ病などの精神疾患を発症した場合は、「パワハラが原因で発症したと思われる」などと記載した診断書を医師に発行してもらえることがあります。診断書の記載も踏まえつつ、発症に至るまでの時系列や経緯などを合理的に説明することができれば、損害賠償請求が成功しやすくなります。
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2026年06月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
お一人で悩まず、まずはご相談ください
\ おひとりで悩まず、まずはご相談ください / 労働問題に注力する 弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?