残業代の仕組みをくわしく解説! 計算方法や未払いの対処法

残業代の仕組みをくわしく解説! 計算方法や未払いの対処法

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

〜本コラムでわかること〜

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「毎日残業しているのに、思っていたより残業代が少ない…」そんな疑問を感じたことはありませんか?

残業代は、決められた計算方法に基づいて会社から支払われますが、正しく計算されていないケースや、未払いが発生しているケースも少なくありません。正しい知識を身につけることで、残業代が適正に支払われているか、自分でも確認できるようになるでしょう。

本コラムでは、残業代の基本的な仕組みや計算方法、万が一未払いがあった場合の対処法について詳しく解説します。

1. 残業代とは?その基本的な仕組み

まず、残業代の定義や法律上の取り扱いについて確認しておきましょう。

(1)残業(残業代)の定義と種類

残業とは、会社が定めた所定労働時間を超えて働くことをいい、以下の2種類に分けられます。

  • 法定内残業(所定労働時間を超えた、法定労働時間以内の残業)
  • 法定外残業(法定労働時間を超えた残業)

なお、法定労働時間と所定労働時間は混同されやすいですが、以下のようにそれぞれ異なる概念です。

種類 内容 労働時間
法定労働時間 労働基準法で定められた労働時間 「1日8時間・1週間40時間」が上限
所定労働時間 就業規則などで定められた、休憩時間を除く始業時刻から終業時刻までの時間 法定労働時間の範囲内であれば、企業が自由に設定できる
例)「1日7時間・1週間35時間」に設定できる

つまり、法定内残業が発生するのは、企業が所定労働時間を法定労働時間より短めに設定しているときだけです。

(2)36協定の概要と重要性

従業員の健康と安全に配慮するため、企業は従業員に法定外残業を命じてはならないのが原則です。ただし、企業があらかじめ従業員の代表者などと『時間外労働・休日労働に関する協定届』(36協定)を締結した場合は、時間外労働や休日労働を命じることが可能です。

締結した36協定は、労働基準監督署長に届け出なければならず、違反すると企業に罰則が課せられます。

(3)休日労働と深夜労働

「休日労働」や「深夜労働」、「休日深夜労働」をした場合には、割増賃金が適用され、残業代が増える場合があります。それぞれの定義を確認しておきましょう。

・休日労働
法定休日における労働
・深夜労働
午後10時から午前5時までの労働
・休日深夜労働
法定休日に行われる深夜労働

なお、「法定休日」とは、労働基準法第35条により付与が義務付けられた休日をいいます。会社は、原則として1週間のうち1日を法定休日として設定しなければなりません。

一方、労使間の取り決めなどによって決められた、法定休日以外の休日のことを「法定外休日」をいいます。法定休日以外の土曜日または日曜日を法定外休日として設定している企業がほとんどです。

したがって、法定外休日に労働した場合には、後述する「休日労働」の割増率の対象とならないので注意が必要です。

(4)固定残業代制とは

固定残業代制とは、一定の残業時間を見込んで、あらかじめ固定の金額を支給する制度です。「みなし残業代制」とも呼ばれます。

固定残業代制には、以下のようなメリットがあります。

固定残業代制のメリット

  • 求人広告を出す際に、給与が高いことをアピールできる
  • 未払い残業代問題を解決しやすい

ただし、固定残業代制は、以下の要件を満たす必要があります。

固定残業代制の要件

  • 基本給と固定残業代とで、費目が明確に分けられていること
  • 時間外労働の対価として支払われる性質のものであること
  • 実際の残業時間(時間外労働)が、固定残業代で定めた時間を超えた場合には、別途割増賃金を加算して支給すること
  • 就業規則や雇用契約書にて明確な定めがあり、かつ従業員の同意が得られていること
  • 基本給が最低賃金を下回らないこと

固定残業代制の要件該当性については、裁判で争われることも多いです。

参考裁判例:国際自動車事件(最高裁令和2年3月30日判決)

歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から、残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則が無効とされました。

2. 残業代の計算方法

ここで、残業代の計算方法について確認しておきましょう。

(1)残業代の計算式

残業代の基本的な計算式は以下のとおりです。

計算式

1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間

なお、「1時間あたりの基礎賃金」は、月給制の場合「月給額÷月平均所定労働時間」で求めます。「月平均所定労働時間」は、以下のように計算します。

計算式

(365日-年間休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

残業代計算の例

たとえば、月給が32万円、月平均所定労働時間が160時間、残業時間が10時間、割増率を1.25倍と仮定すると、残業代は次のように計算されます。

(32万円 ÷ 160時間) × 1.25 × 10時間 = 25,000円

(2)残業代における「割増率」

法定外残業代の計算においては、割増率が適用されます。労働基準法で定められる割増率は、次の通りです。

条件 割増率
時間外労働(60時間以内) 1.25
時間外労働(60時間超過分) 1.5
深夜労働 1.25
深夜残業(60時間以内) 1.5
深夜残業(60時間超過分) 1.75
休日労働 1.35
休日深夜労働 1.6

(3)残業代から除外される手当

残業代計算における「基本給」の算定にあたっては、以下のような、労働とは直接的に関係ない手当は含まれないので、注意が必要です。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

(4)残業代(残業手当)が増えると所得税も増える

残業代(残業手当)は、所得税の課税対象となる給与所得に含まれます。

所得税は、会社から支給される基本給や賞与に加え、残業手当や住宅手当などの各種手当を含めた給与所得の総額を基に計算されます。そのため、支給される残業代の金額が増えるほど課税対象となる所得の金額も増え、結果として所得税の負担も大きくなります。

「残業代から税金が引かれるのはおかしいのではないか?」と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、法律上では残業代も通常の給与と同様に源泉徴収の対象とされているので、違法ではありません。

(5)通常のルールとは異なる労働時間制・労働形態

労働時間制や労働形態が特殊な場合、残業代の取り扱いが異なる場合があるので、注意が必要です。

特殊な労働時間制や労働形態 概要 残業代の取り扱い
変形労働時間制 一定の期間内で労働時間を配分して、
法定労働時間を超えて働けるようにする制度。
一定期間の労働時間が所定労働時間を超えた場合には、
残業代が支払われる。
フレックスタイム制 一定期間について定められた総労働時間内で、
始業時間と終業時間の設定を労働者に委ねる制度。
一定期間の労働時間が所定労働時間を超えた場合には、
残業代が支払われる。
裁量労働制 みなし労働時間ではなく、あらかじめ定めた労働をして取り決めた時間を
働いたものとみなし、その分の賃金を支払う制度。
みなし労働時間が所定労働時間を超えて設定されている場合には、
残業代(残業手当)が支払われる。
歩合給制 従業員の業績や成果によって賃金額が決まる制度。
以下の2種類がある。
1. 固定給+歩合給(インセンティブ付)
2. 完全歩合制(フルコミッション制)
残業した場合には残業代が支払われる。
管理監督者 労働条件の決定その他の労務管理について
従業者を一体的に指揮する者。(部長やマネージャーなど)
残業代は支払われない。
機密事項取扱者 秘密その他機密事項を管理または取り扱う立場にあり、
厳格な労働時間管理には当てはまらない場合がある。(秘書など)
残業代は支払われない。

3. 残業代未払いへの対処法

残業代未払いが発生した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

(1)どのような状態が「残業代未払い」になる?

労働者が所定労働時間を超えて働いたにも関わらず、その分の賃金が支払われていない場合、未払い残業代が発生していることになります。

(2)よくある残業トラブル

以下のようなケースが見られると、残業代未払いが発生している可能性が高いです。

  • タイムカードの改ざん
  • サービス残業の強制
  • 固定残業代制の悪用

(3)未払い残業代の請求には時効がある

残業代請求権は、3年間の消滅時効にかかります(労働基準法第115条、労働基準法の一部を改正する法律第143条第3項)。よって、時効の進行を止めない限り、過去3年分以前の未払い残業代は請求できなくなるので、注意が必要です。

(4)残業代請求の相談先は?

未払い残業代に関する相談先には、会社、労働基準監督署、弁護士などが挙げられます。

(5)残業代請求を弁護士に相談するメリット

相談先はさまざまありますが、弁護士に相談することで、以下のような多くのメリットを享受できます。

  • 未払い額を正確に算定してもらえる
  • 企業側との交渉を代行してもらえる
  • 証拠の収集に関するアドバイスをもらえる
  • 労働審判や訴訟に発展した場合でも、サポートしてもらえる

(6)未払い残業代請求の手順

未払い残業代を請求する際、以下のような流れで進むことが多いです。

  1. 会社へ相談

    まずは人事部門などに相談して、未払い残業代の支払いを求めます。

  2. 証拠収集

    未払いの事実を証明するため、勤務時間の記録やメールのやり取り、タイムカードのコピーなどの証拠を集めます。

  3. 労働基準監督署への相談

    労働基準監督署へ給与未払いを申告すると、企業に対し是正勧告や指導が行われることがあります。

  4. 訴訟

    話し合いを進めても会社が残業代の支払いに応じない場合、法的手続きを検討しましょう。まずは労働審判にて協議を行い、それでも応じない場合には訴訟を提起するのが一般的です。

4. 残業代に関するよくある質問

ここでは、残業代に関するよくある質問をまとめました。似たような疑問をお持ちの方は、ぜひここで疑問を解消してください。

Q1. みなし残業代を超えた場合、残業代は請求できる?
A1. あらかじめ設定された残業時間を超えて残業した場合には、超過分の残業代を請求できます。
Q2. 退職後でも残業代を請求できる?
A2. 残業代を含む賃金請求権は発生から3年間有効です。そのため、退職後でも未払い残業代を請求できる可能性があります。
Q3. パートやアルバイトの場合、残業代は支給される?
A3. パートやアルバイトも、労働基準法の「労働者」に該当します。よって、法定労働時間を超えた場合には、残業代が支払われます。
Q4. 職場の飲み会に残業代は支給される?
A4. 職場の飲み会は業務とはみなされないため、残業代は支払われません。

そのほか、疑問や不安な点があれば、弁護士に相談するようにしましょう。

弁護士JP編集部
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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2025年04月17日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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