
試用期間中に解雇を通告されたら? 適法・違法の判断基準と対処法
試用期間中に突然、会社から解雇を通告され、納得できない方もいるでしょう。
実は、試用期間であっても解雇には合理的な理由が必要であり、会社が自由に労働者を辞めさせることはできません。状況によっては不当解雇と判断される可能性があり、弁護士などの専門家に相談することで適切な対応ができます。
本コラムでは、試用期間中の解雇が認められる条件や、解雇を通告された際の具体的な対処法、弁護士に相談するメリットについて詳しく解説します。
1. 試用期間中の解雇が認められる場合とは
まず、試用期間の定義や、法律上の取り扱いについて確認しておきましょう。
(1)試用期間とは
試用期間とは、企業が新入社員の適性や能力を判断するための期間をいいます。試用期間満了後は本採用となるのが通常です。試用期間の長さは企業ごとに異なりますが、一般的には3か月から6か月程度とするケースが多いです。
試用期間の法的性質は「解約権留保付労働契約」と解されており、企業側には通常より広い範囲での解雇の自由が認められています。もっとも、労働契約は成立している扱いとなるので、例えば試用期間満了時の採用拒否も解雇に該当します。
(2)試用期間中の解雇は雇用主の自由ではない
企業に解約権が留保されているからといって、自由に労働者を解雇できるわけではありません。留保解約権にもとづく解雇は、その趣旨や目的に照らして「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」な場合にのみ認められる、と判断されています(労働契約法16条)。
また、労働者を解雇する場合には、試用期間中であっても原則として以下のいずれかの対応をとらなければなりません(労働基準法20条1項)。
- 30日前の解雇予告
- 解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)の支払い
ただし、下記の労働者は対象外になるので、注意が必要です(労働基準法21条)。
- 日雇い労働者で、継続して使用されている期間が1か月以内の労働者
- 2か月以内の期間を定めて使用されている労働者
- 4か月以内の期間を定めて使用されている季節労働者
- 試用期間中で、試用期間が14日以内の労働者
(3)試用期間中の解雇の理由
試用期間中の解雇が認められるかどうかは、解雇理由が客観的に合理的であるか、解雇が社会通念上相当であると判断されるかどうかがポイントです。
ここでは、解雇が有効とされる可能性が高いケースを紹介します。
① 勤務態度の不良・不祥事
以下の行為がみられるなど、業務に対する態度が著しく悪い場合や、職場の秩序を乱す場合が該当します。
- 無断欠勤や遅刻を繰り返す
- 指示に従わず、業務命令に対して反抗的な態度をとる
- 勤務中のサボりや居眠り
- 横領や窃盗などの法令違反
・参考裁判例:シリコンパワージャパン事件(東京地裁平成29年(2017年)7月18日判決)
再三指示・命令したにもかかわらず、上司をCC欄に入れず業務メールを送付し続けた従業員の解雇が有効と判断されました。
② 能力の不足
以下の事実が認められるなど、通常期待される能力が著しく不足している場合が該当します。
- 指示された業務を何度説明されても理解できない
- ミスが極端に多く、業務遂行が困難
- 協調性がなく、チームでの業務に支障をきたす
ただし、企業側が十分な指導や研修を行ったうえでの判断でなければ、解雇は不当とされる可能性があります。
・参考裁判例:セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁平成11年(1999年)10月15日決定)
人事考課が下位10%未満であったことなどを理由とする解雇について、裁判所は「従業員に対して教育・指導が行われた形跡がなく、適切な教育・指導を行えば、能力向上の余地があった」ことから、不当解雇と判断しました。
③ 経歴詐称
履歴書や職務経歴書などに、学歴・職歴・犯罪歴などの「重要な経歴」に関する虚偽の記載があった場合などが該当します。
ただし、経歴詐称が能力の評価に直接関係しない場合や、企業秩序維持に与える影響が小さい場合などは、解雇が不当と判断されることもあります。
・参考裁判例:グラバス事件(東京地裁平成16年(2004年)12月17日判決)
JAVA言語のプログラマーとしての能力がないにもかかわらず、プログラミング能力があると職務経歴を偽って採用された従業員の解雇が有効と判断されました。
④ 病気やケガ
試用期間中に就業に困難をきたすほどの病気やケガを負い、復職の見込みがたたない場合などが該当します。もっとも、短期間の治療で回復可能で、復職の見通しがある場合などは、解雇が不当とされる可能性が高いです。
・参考裁判例:キヤノンソフト情報システム事件(大阪地裁平成20年(2008年)1月25日判決)
精神疾患で休職中の従業員について、医師が復職可能と診断したにもかかわらず、会社が復職を認めずに休職期間満了により退職扱いした点を不当解雇と判断しました。
2. 試用期間中に解雇を通告された場合の対処法
試用期間中に突然解雇を通告されると、戸惑いや不安を感じるかもしれません。しかし、解雇が必ずしも適法であるとは限りません。解雇を受け入れる前に慎重に対応し、適切に準備を適切に進めることが重要です。
ここでは、具体的な対処法について解説します。
(1)その場で解雇を承諾する行動をとらない
解雇を通告された際、すぐに承諾してしまうと、会社から「解雇に納得していた」と主張され、後から不当解雇を争うことが難しくなる場合があります。
解雇に納得できない場合には、「解雇の理由を確認したいので、少し時間をください」と伝え、冷静に対応しましょう。特に、納得できるまで退職届や同意書などの書類にサインしないことが大切です。
(2)解雇理由証明書の発行を雇用者に求める
解雇を争うためには、解雇の理由を会社に明確に示させる必要があります。
労働基準法22条に基づき、労働者は会社に対して「解雇理由証明書」を発行させるよう請求できます。解雇理由証明書には解雇理由が記載されているので、解雇が不当であるかを判断する材料になるでしょう。
(3)証拠をそろえる
不当解雇を主張する際には、証拠をできるだけ多く集めることが重要です。以下のような証拠を準備しておきましょう。
-
話し合いの録音データ
解雇を通告された際のやり取りを録音しておくことで、会社側の発言を後で確認できます。
-
勤務実績を示す資料(出勤記録、人事評価書、業務記録書など)
例えば、能力不足を理由に解雇された場合でも、評価が高かったことを証明するメールや業務記録があれば、解雇理由が矛盾していることを示せます。
(4)労働組合、労働基準監督署、弁護士に相談する
不当解雇の疑いがあれば、労働組合、労働基準監督署、弁護士といった第三者に相談できます。それぞれの役割を理解し、状況に応じて活用しましょう。
- 労働組合
- 会社内の労働組合や、個人でも加入できる合同労組(ユニオン)に相談することで、団体交渉を通じて解雇の撤回を求めることができます。ただし、交渉が必ずまとまるわけではない点や、対応に時間を要する点には注意が必要です。
- 労働基準監督署
- 不当解雇などの労働基準法違反については、労働基準監督署に相談でき、違反があれば会社に指導・勧告をしてくれます。ただし、個別の解雇の有効性を判断する権限はない点には注意が必要です。
- 弁護士
- 弁護士は法律の専門家であり、不当解雇の該当性や争い方についてアドバイスをしてくれます。また、会社との交渉や訴訟の代行も依頼できます。
(5)雇用者と交渉する
対応に納得できない場合は、人事部や担当者と交渉する方法も考えられます。この場合、弁護士に相談しながら進めることで、交渉を有利に進めやすくなるでしょう。
(6)労働審判、民事訴訟
交渉がまとまらない場合は、労働審判や民事訴訟で解雇の無効を争うことができます。労働審判を経ずとも民事訴訟の提起は可能ですが、まずは労働審判で解決を目指し、解決できない場合には訴訟に進むケースが多いのが現状です。
① 労働審判
労働審判は、裁判よりも迅速に労働問題を解決するための手続きです。原則3回以内の審理で解決するため、短期間での決着を目指すことができます。
② 民事訴訟
労働審判で合意に至らなかった場合は、民事訴訟に移行します。手続きが複雑で、長期化する可能性が高いので、弁護士と相談しながら進めるのが無難です。
3. 弁護士に相談することの意義
試用期間中に解雇を通告された場合、初動対応が重要です。しかし、労働法関連の知識がなければ、どのように対処すべきか判断が難しいでしょう。
そんなときは、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士に相談することで、以下のようなメリットを享受できます。
- 初動対応からその後の対処方法まで、専門的な知識に基づくアドバイスを受けられる。
- 証拠の収集・整理を効率的・効果的に行える
- 会社との交渉を代理してもらえる
- 労働審判・民事訴訟の手続きを一任できる
また、初回相談を無料で受け付けている法律事務所も多いので、費用面が気になる方でも安心して相談できます。少しでも不安が残るようであれば、早めに弁護士へ相談してみてください。
- こちらに掲載されている情報は、2025年04月07日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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