
残業代は「年俸制」でも受け取れる!計算方法と請求のポイント
「年俸制を採用している場合、年間の給与額があらかじめ決まっており、年俸額の中に残業代も含まれているといえるから、残業しても残業代は発生しない。」という認識をされている方も多いのではないでしょうか。
しかし、会社の賃金制度や請求者の役職にもよりますが、年俸制だとしても残業代を請求できる場合が多いです。
そこで、本コラムでは、年俸制でも残業代が支払いできるケースや、請求金額の算定方法・請求における注意点などについて解説します。
1. 年俸制でも残業代は出るのが原則
(1)年俸制とは
年俸制とは、労働者の業績を評価して年単位で賃金額を設定する制度です。
年俸の金額は年単位で設定しますが、労働基準法24条2項で、賃金は毎月1回以上支払わなければならない、と定められていますので、年俸額を分けて毎月1回以上支払う必要があります。
実際には、①年俸を12等分して毎月支払う、または②賞与部分を設けるため年俸を14等分や16等分して、毎月の給与のほか、年1回または2回賞与を支払うケースが多いです。
(2)年俸制でも残業代はもらえる
年俸制の場合でも、月給制と同様に労働者に労働基準法が適用されるので、会社は原則として、残業した社員に残業代を支払わなければなりません。
2. 「固定残業制(みなし残業制)」や「管理職」などでも、残業代を受け取れる
固定残業制・裁量労働制などの賃金制度を採用している場合や、対象者が管理職の場合であっても、この原則が適用されます。以下、それぞれについて残業代を受け取れる条件について説明します。
(1)「固定残業制(みなし残業制)」が採用されている場合
固定残業制が採用されている場合、労働契約・就業規則で残業時間が明示されていなければなりません。また、明示された残業時間を超過すれば、超過分の残業代を受け取れます。
例)固定残業制の規定例
- 基本給:21万円
- 固定残業代:4万円(20時間分)
- ※超過分は別途支給します
ただし、以下のような、固定残業代の定め方がそもそも違法なケースでは、固定残業制自体が法的に無効であり、固定残業制が採用されていないものとして残業代を請求できます。
固定残業代の定め方が違法なケース
- 固定残業時間が月間80~100時間相当に設定されている場合
- 就業規則などに定めがない場合
- 固定残業代が明確に提示されていない場合
- 給与または残業代が最低賃金を下回っている場合
(2)「裁量労働制」が採用されている場合
裁量労働制とは、先に「これだけ働いた」とあらかじめみなし労働時間を定めておき、その分の給料を支払う制度です(労働基準法38条の3、同法38条の4)。
裁量労働制が採用されている場合、労働者の労働時間はあらかじめ定めた労働時間となります。あらかじめ定めたみなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)以内であれば、法定労働時間を越えて働いたとしても残業代は発生しません。
ただし、以下のケースでは、残業代が発生します。
裁量労働制で残業代が発生するケース
- 1日のみなし労働時間が8時間を超える場合
- 深夜労働時間に勤務した場合
- 法定休日に勤務した場合
(3)「管理監督者」の場合
従業員が「管理職」の場合であっても、原則として残業代は支給されます。ただし、労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」という)に該当する場合には、労働基準法の労働時間の規制に関する規定が適用されず、原則として残業代は支払われません。
「管理監督者」とは「監督、管理の地位にあって経営者と一体的な立場にある労働者」をいい、管理監督者の該当性については、役職名に関係なく、職務内容・責任、労働時間管理の態様、処遇等の実態に照らして、総合的に判断されます。
管理職と管理監督者とはまったく別の概念で、管理職であっても管理監督者に該当しない場合もありますので、注意が必要です。
3. 年俸制において残業代を請求するには
残業代が支払われていない場合には、未払い残業代(深夜労働手当、休日手当なども含む)を会社に対して請求すべきです。
(1)残業代計算の方法
残業代を請求する場合、残業代を請求する当事者が、残業した事実およびその時間を証明しなければなりません。残業代の基本的な計算式は以下のとおりです。
①1時間あたりの基礎賃金 × ②割増率 × ③残業時間
「①1時間あたりの基礎賃金」は、年俸制の場合は「1年間の基礎賃金 ÷ 1年間の所定労働時間」で求めることが可能です。所定労働時間は、就業規則で定められているのが一般的です。
また、「②割増率」は以下のとおりです。
- 時間外労働:「1日8時間」または「週40時間」を超えた労働
- 月60時間までの部分⇒1.25
- 月60時間超の部分⇒1.5
- 深夜労働:22時~翌5時の労働⇒1.25
- 休日労働:法定休日(原則週1回)の労働⇒1.35
- 時間外労働と深夜労働の重複
- 月60時間までの部分での深夜労働⇒1.5(1.25+0.25)
- 月60時間超の部分での深夜労働⇒1.75(1.5+0.25)
- 休日労働と深夜労働の重複⇒1.6(1.35+0.25)
(2)残業代を請求するのに必要な証拠とは
残業代を請求するには、勤怠記録に関する証拠を収集しましょう。具体的には、以下のものが証拠となります。
- 給与明細
- タイムカード
- 業務日報
- PCの起動開始時間・終了時間のログ(勤怠管理がルーズな場合)
- チャット上での始業・終業の報告(同上)
- 業務時間中に出した最初のメールと最後のメール(同上)
(3)「3年の時効期間」に注意
残業代請求権には消滅時効があるので、残業代が発生する場合でも、消滅時効期間の経過後は残業代を請求できなくなってしまう点には注意が必要です。
従来、残業代請求権の消滅時効期間は「請求できる時から2年間」でしたが、令和2年4月1日に労働基準法が改正され、「請求できる時から3年間」に変更されました(労働基準法115条、労働基準法の一部を改正する法律143条3項)。
したがって、残業代支払い日の翌日から3年以内である場合、該当する期間の残業代を会社に請求できます。
なお、時効完成が差し迫っている場合、会社に対して「催告」(民法150条第1項)をすれば、時効の完成が6か月間猶予され、3年経過後でも残業代を請求できます。
催告の方法に決まりはありませんが、裁判や審判になった時の証拠とするため、記録として残る内容証明郵便、特定記録郵便、メールなどの手段で催告をするようにしましょう。
4. 弁護士への相談のすすめ
労働契約の内容や役職などによって、残業代を請求できるかどうかは変わります。また、残業代の計算や勤怠に関する証拠請求には手間がかかるほか、会社が残業代の支払いに応じなかった場合、労働審判・訴訟などに発展する可能性もあり、その際は法律の専門的知識が必要になります。
残業代請求については、弁護士に相談するのが有益です。消滅時効がどんどん進行してしまう恐れもあるので、早めに相談するようにしましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年02月05日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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