管理職は残業代なし?「管理監督者」の意味と不支給が違法なケース

管理職は残業代なし?「管理監督者」の意味と不支給が違法なケース

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

管理職に昇進して業務量が増えたものの、残業代が発生しなくなったため、昇進以前と比べて給料が変わらない、または減ってしまったなど、悩みの声が散見されます。

一般的に「管理職になると残業代が出ない」と認識されていますが、実は管理職であっても、非管理職の場合と同様に、残業代の支払いが発生するケースがあります。

そこで本コラムでは、管理職でも残業代の支払いが発生するケースと、残業代の請求方法について解説します。

1. 「管理職には残業代が出ない」はウソ…残業代が出る条件とは

(1)残業代が出ないとされる「管理監督者」とは

会社が従業員に所定時間外労働をさせた場合、残業手当などの割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。

もっとも、従業員が労働基準法41条2号の「監督もしくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」という)に該当する場合、労働基準法37条が適用されないことから、会社は当該従業員に残業手当を支払う必要がありません。

労働基準法41条

この章、第六章および第六章の二で定める労働時間、休憩および休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

1号 別表第一第6号(林業を除く。)または第7号に掲げる事業に従事する者

2号 事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者

3号 監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

引用:労働基準法|e-Gov 法令検索

管理監督者の範囲について、行政解釈によれば「名称にとらわれず、実態に即して判断すべき」とされています。

管理監督者の範囲についての解釈例規(監督または管理の地位にある者の範囲) (昭和 22 年 9 月 13 日付け発基 17 号、昭和 63 年 3 月 14 日付け基発 150 号)

法第41条第2号に定める「監督もしくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。

引用:[27] 労基法 41 条 2 号の管理監督者の該当性|中央労働委員会

(2)「管理監督者」の具体的な判断基準

管理監督者に該当するかの判断については、行政通達や過去の裁判例によって一定の基準が示されています。

具体的な判断基準や要素を以下にまとめておりますので、参考にしてください。

判断基準 管理監督者性を否定する要素の具体例
①労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること 部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない。
②労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること ・自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要がある立場や、上司の命令を部下に伝達するに過ぎない立場にある。
③現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取り扱いがされる。
④賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること ・実際の労働時間数を勘案した場合に、基本給、役職手当等の優遇措置が不十分。

2. 「名ばかり管理職」の残業代の計算方法と請求方法

上記の判断基準や要素を踏まえ、自らが管理監督者に該当せず、「名ばかり管理職」といえそうな場合、非役職者と同様に未払い残業代(深夜労働手当、休日手当なども含む)を会社に対して請求すべきでしょう。

(1)残業代の計算方法

残業代を請求する場合、残業代を請求する当事者が、残業した事実およびその時間を証明しなければなりません。残業代の基本的な計算式は以下のとおりです。

①1時間あたりの基礎賃金 × ②割増率 × ③残業時間

「①1時間あたりの基礎賃金」は、月給制の場合には「月給額÷月平均所定労働時間」で求めることが可能です。「月平均所定労働時間」は、以下のように計算します。

(365日-年間休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

「②割増率」について、就業規則などで異なる割増率が定められていない限り、労働基準法37条1項または4項で定める割増率が適用されます。

  • 残業手当(60時間以内):1.25
  • 残業手当(60時間超過分):1.5
  • 休日手当:1.35
  • 深夜労働手当:1.25
  • 法定休日で深夜労働をした場合の手当:1.6

なお、名ばかり管理職の場合、勤怠管理がおろそかになっており、タイムカードや業務日報による「③残業時間」の計算が難しい場合もあるでしょう。もし残業時間を正確に把握できていない場合には、勤怠記録に関する証拠を収集する必要があります。

具体的には、以下のものが証拠となります。

  • PCの起動開始時間・終了時間のログ
  • チャット上での始業・終業の報告
  • 業務時間中に出した最初のメールと最後のメール

(2)残業代の請求期間

残業代を算定できたとしても、残業代請求権には消滅時効があるため、消滅時効期間の経過後は残業代を請求できなくなってしまう点には注意が必要です。

従来、残業代請求権の消滅時効期間は「請求できる時から2年間」でしたが、令和2年4月1日に労働基準法が改正され、「請求できる時から3年間」に変更されました(労働基準法115条、労働基準法の一部を改正する法律143条3項)。したがって、残業代支払い日の翌日から3年以内である場合、該当する期間の残業代を会社に請求できます。

  • 例)令和6年(2024年)10月1日時点:
  • 令和3年(2021年)9月25日に支払われるべき前月分の残業代:×(請求不可)
  • 令和3年(2021年)10月25日に支払われるべき前月分の残業代:◯(請求可能)

なお、時効完成が差し迫っている場合、請求権の消滅を防ぐために、会社に対して「催告(民法150条1項)をすることが考えられます。「催告」をすれば、時効の完成が6か月間猶予され、3年経過後でも残業代を請求できるようになります。

催告の方法に決まりはなく、口頭でも可能ですが、裁判や審判になった時の証拠とするため、催告したことを記録として残しておくべきです。内容証明郵便、特定記録郵便、メールなどの手段で催告をするようにしましょう。

3. 弁護士に相談を

消滅時効もあることから、残業代請求にはスピーディーな対応が求められます。

自分で残業代を計算してもよいですが、残業代の算定は思った以上に難しいです。また、PCログなどの証拠などを見せてもらうようにお願いしても、会社側が対応してくれないケースもあるかもしれません。さらに、会社が残業代の支払いに応じなかった場合、労働審判・訴訟などに発展する可能性もあり、その際は法律の専門的知識が必要になります。

残業代請求については、弁護士に早めに相談しましょう。

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