転勤を命じられた… 子どもの病気などを理由に断ることはできる?

転勤を命じられた… 子どもの病気などを理由に断ることはできる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

就業規則に明記されている限り、従業員の誰もが転勤を命じられる可能性はあります。しかし、子どもの病気などを理由に転勤命令を断りたい人は、断った場合の結果やそもそも断れるのかどうかが気がかりなものです。

本コラムでは、転勤命令を断れるケースや断った場合の影響、その後の対処方法について解説します。

1. 子どもが病気なのに転勤を命じられた、拒否できる?

まずは転勤命令の法的性質と、命令を断れるケースについて解説します。

(1)転勤命令とは

人事異動の一環として、従業員を現在とは異なる地域や拠点に移して働かせることを指します。このような転勤命令は、人材配置の最適化や部署間における交流の活性化、長期間の慣習による癒着防止などが目的です。

さらに、新たな業務領域への挑戦やキャリア発展の機会を提供することも、目的のひとつです。必要に応じて、従業員を選定し転勤を命じることで、組織全体の効率性や成長を促進しようとします。

原則として、転勤命令は断れません。就業規則や雇用契約、労働協約などにおいて、会社側が必要であると判断した場合に、転勤を命じる権利が定められています。入社する際に、これらの契約や規則に同意したと見なされるため、基本的に命令を断ることは不可とされています。

(2)転勤を拒否できるケースとは

まず、転勤命令は無制限に行うものではありません。就業規則や雇用契約などに、転勤命令に関するきまりが明記されていない場合や勤務先を限定している場合は、そもそも会社側に転勤を命じる権利がないので命令を断れます。

また、会社を辞めさせるためや嫌がらせとして出された命令は、不合理な目的として無効です。さらに、転勤によって従業員に甚だしい不利益が生じる場合も、合理的な理由をもつことで断れます。具体例として、親の介護により、現在の住居から離れられないケースなどが挙げられます。

そこで問題となるのは、子どもの病気が合理的な理由として扱えるかどうかです。

子どもの病気が重篤であり、転勤が子どもの健康状態に深刻な影響を与えかねない場合や、転勤先に適切な医療環境が十分に確保されていない場合は、合理的な理由として認められる可能性があります。また、子どもの面倒を見る人が従業員しかいない場合も認められるかもしれません。

一方で、子どもの病気が軽症である場合や、会社側が病院の手配をしている、転勤手当を増額するなどの配慮を行っている場合などは、命令を断る合理的な理由として扱うことは難しいでしょう。

このように個々の事情によって、合理的な理由の認定が変わります。

2. 転勤拒否を理由に解雇される場合も

次に、転勤拒否が解雇に結びつく可能性と、解雇された際の争点について解説します。

(1)転勤を拒否することで解雇される可能性がある?

通常、就業規則や雇用契約などに、転勤命令に関するきまりが明記されているため、命令に従わない行為は「業務命令違反」、すなわち「就業規則違反」です。

その結果、その規則に基づいた減給や降格、出勤停止、最悪の場合はもっとも重い懲戒解雇の処分が下される可能性があります。多くの会社において、業務命令違反は運営を妨げる行為であると見なされることから、懲戒解雇の対象となるようです。

(2)解雇について争える場合も

解雇は雇用関係を終了させ、従業員に甚だしい不利益が生じる重大な処分です。労働契約法第16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められているとおり、厳格な運用を求めています。

転勤命令を断って解雇された場合には、まず命令自体が有効なものであるかどうかが問われます。就業規則や雇用契約などに、転勤命令に関するきまりが明記されていない場合、解雇が不合理であると主張できます。

さらに、転勤命令が権利濫用に該当するかどうかも検討されるポイントです。命令は、会社の発展や業務の効率化などを目的に行われるべきですが、それが嫌がらせなど不合理である場合、権利濫用と見なされ、無効な解雇として争えます。

また、転勤により従業員に甚だしい不利益が生じる場合も、権利濫用と見なされる可能性があります。ただし、上述した合理的な理由をもつ場合のみです。したがって、子どもの病気を理由に、命令を断って解雇された場合、処分を争う余地が残るでしょう。

加えて、会社側が解雇処分を下す際には、慎重さが求められます。従業員が命令を断って、直ちに解雇処分を下すことは、「不当解雇」と見なされる場合があるかもしれません。解雇処分を下す前に、会社側と従業員との十分な対話や、事前の弁明が行われているかどうかも重要な争点です。

3. まずは弁護士に相談を

合理的な理由をもっていれば、転勤命令を断ることができます。それにもかかわらず転勤命令の拒否を理由に解雇された場合は、不当解雇として会社側と争えます。

ただし、会社の規模や従業員の事情によって、合理的な理由の認定水準も変わります。法律の知識が必要となるため、個人での争いは困難なものになりかねません。

子どもの病気で転勤命令を断りたい場合には、まず弁護士に相談して、適切な対応をとるようにしましょう。

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