- (更新:2023年05月16日)
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名誉毀損での提訴や必要な準備について解説
ネット上での誹謗中傷は大きな社会問題となっています。誹謗中傷は社会的に強く非難される行為として認知されるようになり、泣き寝入りせず法的手段を取ることで解決できるという考えが広がっています。
ネット上で誹謗中傷を受けたとき、相手を名誉毀損で訴えるためにはどのような準備が必要なのでしょうか?
1. 名誉毀損(きそん)での提訴で請求できるもの
(1)そもそも名誉毀損とは?
誹謗中傷が名誉毀損にあたるのは、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した(社会的評価を傷つけた)ときです。「公然」とは、不特定または多数の者が認識できる状態のことと定義されています。「事実を摘示」とは、具体的な事実内容を示したことをいいます。真実であるかは問われないため、デマであってもこれに該当します。
(2)訴えることで加害者に請求できるもの
名誉毀損で加害者を訴える際、刑事で対応する場合と民事で対応する場合で請求できる内容が異なります。被害者が何を目的とするかによって刑事と民事のどちらで対応するかを考えるといいでしょう。
①刑事の場合
刑事の場合請求できるものは刑法による処罰で、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金の処分が求められます。
ただし、刑事責任については検察が捜査し、その結果起訴したりどのくらいの刑を請求するか判断したりすることになるため、個人の意思のみで処罰を求めることはできません。
②民事の場合
民事で対応する場合に請求が可能なのは、損害賠償金(慰謝料)の支払い、謝罪文を公表するなどの名誉回復、ネット投稿削除などの差し止めです。
民事事件の解決手段には、一般的に示談交渉や調停、民事訴訟などがあります。加害者が訴訟で敗訴したとしても、前科がつくことはありませんが、損害賠償金(慰謝料)を支払う義務が生じるため、金銭面での責任を求めることができます。
2. 名誉毀損で訴えるために必要な準備
名誉毀損が認められるときには、刑事責任の面と民事責任の両面で対応することが可能ですが、いずれの場合でも同じように準備を進める必要があります。
(1)証拠収集は必須
誹謗中傷を受けた場合は、どのような内容の誹謗中傷を受けたのか、なぜ名誉毀損にあたるのかを証明するための具体的な証拠をそろえなくてはなりません。
刑事事件として届け出をするためにも、民事責任として損害賠償を請求するためにも、証拠は必須です。
刑事事件として届け出るためには、誹謗中傷が名誉毀損罪にあたるという客観的な事実を示す必要がありますので、誹謗中傷にあたる投稿が表示されているウェブサイトや当該投稿のURLが表示されたスクリーンショット、プリントアウトした書面を確保する必要があります。
民事で損害賠償を請求するにも、誹謗中傷が名誉毀損にあたるという客観的な事実を示す必要があります。
また、損害賠償を請求するには通常損害額がいくらなのか明示する必要がありますが、精神的な損害である慰謝料が中心的な損害となりますので、精神的な被害により通院が必要になったなどのケースを除き、損害額を証明する証拠はないことも少なくありません。
もっとも、慰謝料以外に損害が生じたと主張する場合には、さらにどのような損害が発生したのかを示す証拠が必要です。弁護士へ依頼した場合には、弁護士から加害者へ内容証明郵便を送るなどで損害賠償を請求するのが一般的です。応じない場合は裁判を提起する流れになります。
事業主が名誉毀損で訴える場合は、誹謗中傷を受ける以前とその後の売り上げを比較して減収の度合いを数字で示すなど、客観的な証拠を集めることになるでしょう。
(2)加害者の特定も必要
誹謗中傷を訴えるには、該当する投稿をした加害者の特定も欠かせません。アカウント名から予測できる場合でも、ネット上ではなりすましなどの可能性もあるので、投稿のIPアドレスやインターネットプロバイダが保有する契約者情報の開示を受ける必要があります。
刑事事件としての届け出る場合には、必ずしも加害者の特定をしておく必要はありません。ただし、IPアドレスなどの情報が保管されている期間はおおむね3か月程度と非常に短いため、すでに投稿から時間が経過している場合は、捜査の発動を待つ余裕はないでしょう。
また、民事事件として損害賠償を請求する場合は、まず加害者の氏名・住所がわからないと、損害の賠償を請求することができません。裁判所に訴える場合でも、訴状を送付するにあたって被告の氏名・住所は欠かせないので、やはり加害者の特定は欠かせないといえます。
3. 証拠の集め方と警察への届け方
誹謗中傷の証拠収集や加害者の特定には、法律の知識や経験が必要となるため、個人で対応するとなると大変な手間や時間がかかります。
相手を特定するために開示請求を行うとしても、前述の通り書き込みから3か月程度で相手を特定するために必要な情報が削除されてしまうため、告訴できたとしても特定できずに泣き寝入りせざるを得なかったというケースは多々あります。
また、警察に届け出る際には、被害届ではなく「告訴」が必要となります。適切な告訴状でなければ受け付けてもらえません。
(1)証拠収集・加害者の特定には弁護士のサポートが欠かせない
誹謗中傷した加害者を訴えるには、刑事・民事のいずれの場合でも証拠収集が欠かせません。
誹謗中傷が存在した事実や名誉毀損罪が成立する理由を示す有効な証拠を集めるには、誹謗中傷トラブルを解決してきた実績が豊富な弁護士に対応を依頼するケースが少なくないようです。
また、加害者を特定するには、裁判所に発信者情報開示請求を申し立てなくてはなりません。裁判所は個人からの申し立てでも受理しますが、どのような権利侵害が生じており、なぜ情報開示が必要なのかを法律的に主張し証明していく必要がありますので、個人で対応するのは難しいでしょう。
ウェブサイトの管理者やSNS運営者といったコンテンツプロバイダがIPアドレスなどの情報を保管している期間は短く、迅速な対応が必要です。対応に慣れた弁護士に依頼したほうが、メリットが大きいといえます。
(2)警察へは告訴状の提出が必要
誹謗中傷する行為が名誉毀損罪にあたる場合、警察への届け出は「被害届」ではなく「告訴」になります。名誉毀損罪は、検察官が起訴する際に告訴を要する「親告罪」にあたるため、被害届では刑事裁判を起こすことができないからです。
被害届が「犯罪の被害に遭った」と申告するものであるのに対して、告訴には「犯人の処罰を求める」と申告する強い処罰意思を表明するといった違いがあります。
告訴の受理をきっかけとした事件では、警察はすみやかに捜査を遂げて必ず検察官に事件を送付しなくてはなりません。
告訴は、刑事訴訟法第241条1項の定めに従い、書面または口頭によってなされる必要があります。法律の規定上では口頭での告訴も可能とされていますが、実際には証拠の提出とともに「告訴状」という書面での申告が求められています。
告訴状の作成には、名誉毀損の事実を特定したうえで、告訴の理由や経緯などを詳しく記載しなくてはなりません。法律の知識がない個人では作成が難しいので、弁護士へ依頼したほうがよいケースがほとんどのようです。
- こちらに掲載されている情報は、2023年05月16日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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