犬も歩けば退去強制 ~外国人薬物事件と入管法~
刑法を中心とした刑罰は、日本人にも外国人にも等しく適用されます。しかし、その法律を適用した効果は、あるいは弁護人として意識すべき守らなきゃいけないところは、外国人の方が複雑化します。なぜなら、刑罰を科した後で、日本からの国外退去を命じる退去強制という手続きが控えているからです。
日本人だったら、執行猶予でおしまいとなる事件が、外国人にとっては今後日本で生活を続けられるかを問われる事件になる。外国人の事件に関わる場合は、そのような一歩高いハードルを意識して取り組む必要があります。
私も帰国子女として、英語話者として、外国人刑事事件に複数関わってきました。そのような経験を踏まえ、今回は、退去強制の基準となる出入国管理及び難民認定法(入管法)24条の中でも、薬物事件を概観していきます。
1. 一発アウトの薬物事件 ~大麻事件をなめるな~
入管法24条4号チ
昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者
こちらについては、「有罪の判決を受けた者」とあります。つまり、執行猶予を受けて刑務所に入っていなかろうが、退去強制になるということになります。このため、特に日本人との大きな違いが出るのが大麻取締法違反の事例です。
大麻事件は、犯罪として重くなることはまれです。少量の所持であれば、懲役数月の量刑も視野に入るため、初犯だけでなく、前科があるものでも再度の執行猶予を真剣に狙う機会があります。またkg級で所持していた事案でも、執行猶予の余地はあります。
そのため、刑事罰としてみれば、少なくとも裁判にはなってしまうため軽くはないものの、被告人から見れば救いの道が多い犯罪とも言えます。しかし、外国人であれば、数月の量刑でも、退去強制手続きになってしまいます。
そして、大麻事件は、その大麻のカジュアルさから、薬物との親和性が高くない人でも触れてしまうことがあります。繁華街では道端で売っています。また、宗教上酒が禁止されているような人の母国では、酒に代わった娯楽として機能していたりもします。単純に合法とされている国もあります。そのため、まさか逮捕され、国外退去のリスクまで負っているという意識がない外国人も多いです。
入管法は、日本国の秩序を保つという観点から、特に薬物犯罪は悪く評価しています。退去強制になっても日本への滞在が認められる制度はあるのですが、そこでも薬物は悪情状として重く評価されています。外国人の薬物事件を扱う場合は、量刑が軽そう安心…ではなく、刑事裁判を切り抜けられるだけでなく退去強制手続きをも乗り越えられる弁護活動が必要だという意識が必要です。
2. 具体例 ~不起訴を目指す捜査弁護~
具体的な弁護活動としては、やはり不起訴を諦めないということが必要です。大麻を所持していたという事件は、しばしば職務質問から捜査がはじまったりします。そして、現在でも職務質問は、手法が違法に至っている危険性の高い場面でもあります。
もちろん、捜査側もそのような手段に至らぬよう注意は払っているのですが、説得や追跡、制止の過程を精査したところ、違法の疑いが生じた事件もありました。この時、裁判の段階までこれを秘匿するよりは不起訴を目指そうと、証拠保全などの手続きを積極活用する姿勢を見せたところ、検察官が積極的に捜査段階を調べなおし、不起訴という選択をとりました。
他にも、大麻事件であれば、「所持」が犯罪の要件であるため、尿検査などの結果だけでは犯罪の立証に足りないところもあります。誰のものであったのかなど、犯罪として争える点については、ある程度積極的に争う姿勢を選択することも、退去強制リスクを踏まえると必要になります。
3. 具体例 〜抜本的解決を狙う公判弁護~
それでも、起訴され裁判に当然なってしまうものもあります。その場合、薬物の量から懲役が大きくは伸びず執行猶予が見込める場合、おざなりな公判弁護が行われている場面が多くあるのも実情です。でも、退去強制が待つ外国人事件では、二度と日本の秩序を乱さないことが示せているよう、より実質的な内省活動を示しておくことが有効です。刑事裁判の結果以上に、入管手続きにおいて、その効果がしっかり出てきます。
実際、裁判例においても、過去に繰り返し違反があったケースにおいて、再犯可能性がどれだけ減殺できているかをかなり具体的に評価し、ギリギリ日本の在留を認めたことがあります。
懲役刑の年月数は、薬物の量に基づいた相場観が占める重みが強いところはあるのですが、だからと上っ面のやり取りで済まさないのが重要です。当事者や周囲の人のキャラクターなどを踏まえて、より現実味のある、新たな生活環境や制度の学習方法などを用意すると、説得的な形が示せます。
4. 一発アウトではない薬物事件
なお、薬物事件全てが入管法24条4号チに挙げられているわけではなく、たとえば脱法ハーブや合法ドラッグなどと呼ばれる薬物を規制した、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反や、その輸入などを問題視する関税法違反は、この規定に該当しません。そのため、24条4号リの「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」に当たらなければ、退去強制は免れられます。
当事者に、リスクの程度を正確に伝えるのも弁護士ができることですので、ここらの条文は正確にしておく必要があります。
5. まだまだ退去強制事由は多い
今回は、退去強制事由の代表例となる、薬物事件を取り上げました。しかし、入管法24条を読み解けたと言うには、まだまだです。引き続き、別稿で解説していきます。
- こちらに掲載されている情報は、2022年10月31日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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松村 大介 弁護士
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