事実婚の相手が死んだら相続できる? 生前にすべき対策とは
事実婚という関係が、法律婚と比べて不利に働くことのひとつに相続問題があります。事実婚の場合、何も相続対策をしないでいると、パートナーの財産を受け継ぐことが困難になりがちです。
本コラムでは、事実婚における相続の問題と、事実婚関係でもパートナーに財産を残す方法について解説します。
1. 事実婚(内縁)夫婦には相続権がない
そもそも事実婚とは、婚姻届の提出をしないまま、実質的には夫婦として生計を共にしている状態のことです。こうした夫婦のあり方は、内縁関係(内縁の妻または内縁の夫)と呼ばれることもあります。事実婚は「一定期間以上共同生活をしている」「結婚式をしている」などの「事実」によっても認められますが、法的には特に、役所に届け出て「未届の妻(または夫)」と住民票に記載していると認められやすくなります。
事実婚という関係にはメリット・デメリットの両面がありますが、「事実婚のパートナーは相続権がない」という点は不利に働きやすいことのひとつです。つまり、何も必要な手続きをしないでいると、パートナーが亡くなった際、内縁の妻または夫はその財産を相続できず、生活に困ってしまう恐れがあります。
(1)遺言書の作成など生前に対策をしておくことが重要
法定相続人ではないとはいえ、事実婚のパートナーに財産を残す方法はあります。ただし、そのためには生前から準備をしておくことが大切です。具体的には、以下のような方法が挙げられます。
①遺言書を作成しておく
有効な方法のひとつは、パートナーに財産を譲る意思を明記した遺言書を作成しておくことです。こうした遺言書があれば、事実婚のパートナーに財産を遺贈できます。
②生前贈与をする
あらかじめ財産の一部を生前贈与しておくことも検討する価値があります。法律婚の夫婦とは異なり、内縁の夫婦は相続時の配偶者控除(配偶者の税額の軽減)を使えないので、遺贈された財産のすべてが相続税の課税対象になります。その点、生前贈与の場合は年間110万円までの基礎控除を利用した節税が可能です。
③生命保険の受取人に指定する
保険会社によっては、所定の条件を満たしているケースを対象に、内縁の妻または夫を保険金の受取人にすることを認めていることがあります。条件としては、「互いに戸籍上の配偶者が存在しないこと」や「一定期間以上同居していること」などが一般的です。詳細な条件は保険会社ごとに異なるので確認してみましょう。
(2)任意後見契約や死後事務委任契約もしておくとさらに安心
事実婚で問題になるのは相続のことだけではありません。
たとえば事実婚の場合、パートナーが事故や病気で意思能力が不十分になったとき、手術の同意をしたり、相手の口座から入院費・治療費の引き出しをしたりすることが困難になりがちです。こうした事態に備えるためには、公正証書で「任意後見契約」を交わしておき、いざというときに必要な事務手続きなどを代行できるようにしておくことが役立ちます。
また、事実婚の場合、パートナーの死後に葬儀の手配をしたり、遺品整理をしたりするためにも事前の手続きが必要です。この場合には、死後の手続きを委任するための「死後事務委任契約」を締結します。
2. 事実婚の相手(パートナー)に遺言で財産を残す際のポイント
先述のように、事実婚のパートナーに財産を残すためには、遺言書の作成が有効です。遺言書を作成する際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
(1)「公正証書遺言」という形式で作成する
遺言書は自分で作ること(自筆証書遺言)も可能です。しかし、遺言書の書き方には法的に厳格なルールがあるので、自筆証書遺言だと内容や形式の不備によって法的に効力が出ない恐れがあります。
そこで検討すべきなのが、「公正証書遺言」という方法です。公正証書遺言とは、公証役場において、法律の専門家である公証人が関与して作成された遺言を指します。公正証書遺言なら信頼性が高いので、相続時に法的な面でトラブルになる恐れを低減可能です。なお、事実婚のパートナーに財産を残す場合、法的には「相続」ではなく、「遺贈」という扱いになるので、遺言書を作成する際にはご注意ください。
(2)遺言執行者を定めておく
遺言の内容をスムーズに実行するためには、遺言執行者を定めておくのも効果的です。遺言執行者は、遺言者の意思に従って、財産の分配や手続きを行います。遺言執行者は事実婚のパートナー自身に指定することも可能ですが、事務負担や他の相続人とのやりとりを回避したい場合は、弁護士などの専門家に依頼しましょう。
(3)遺留分の有無に注意する
遺留分とは、戸籍上の配偶者や親・子どもなどの法定相続人が相続できる最低限の遺産のことです。たとえ遺言書があっても、この遺留分は侵害できません。死後に残されたパートナーが遺留分請求などの相続トラブルに巻き込まれないように、遺言書を作成する際は遺留分の有無や取り扱いについても考慮しておくことが重要です。
(4)相続税や登録免許税が高くなる
先にも触れた通り、事実婚のパートナーは、法律婚とは異なり、相続税の配偶者控除を受けられません。それどころか、相続税の2割加算の対象になるので、税負担が大きくなることに注意が必要です。また、不動産を遺贈する場合には、登録免許税も固定資産税評価額の2%と、法定相続人の場合(0.4%)より高くなります。
出典:国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」 出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」3. 遺言書を作成する前に相手が亡くなってしまったら?
遺言書を作成しないままパートナーが亡くなってしまった場合でも、「特別縁故者」として家庭裁判所に申し立てることで、遺産の一部を受け取れる可能性があります。特別縁故者とは、事実婚のパートナーのように、故人と特別な関係にあったことを家庭裁判所が認めた人物を指します。
ただし、特別縁故者として財産を受け取れるのは、法定相続人がひとりもいない場合のみです。また、家庭裁判所での手続きには手間や時間がかかりますし、希望通りの額の財産を受け取れるとも限りません。
これらの点を考慮すると、特別縁故者の制度は、それ以外の手段がない場合に行う最終手段です。パートナーが健在ならば、やはり遺言書を作成することをおすすめします。
事実婚のパートナーの財産を受け継ぐには、法的な理解を深めた上で適切な対策を講じることが不可欠です。相続に関して不安がある場合や、遺言書を作成する際は、弁護士へ相談しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年06月13日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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