- (更新:2025年01月10日)
- 遺産相続
公正証書遺言の内容に納得いかない場合の対処法とは
被相続人が亡くなって相続が開始した時、遺言書がある場合は遺言者(被相続人)の意思を尊重して遺言書通りに相続するのが原則です。
しかし、なかには「愛人に全て相続させる」など、他の相続人からみれば納得がいかない内容の遺言書が作成されているケースもあります。
本コラムでは、遺言書の中でも特に信頼性が高く、無効にすることが難しい「公正証書遺言」の内容に納得いかない場合の対処法について、解説していきます。
1. よくある公正証書遺言に関するトラブル
公正証書遺言でトラブルに発展するケースをご紹介します。
(1)相続人の中で明らかに1人だけが優遇されている
よくあるトラブルの1つ目は、「相続人の中で明らかに1人だけ優遇されている」というケースです。
どの相続人に、どのくらいの遺産を分配するのかについては、遺言者(被相続人)の意思が尊重されます。それゆえに、特定の相続人に財産を多く分配することも法律上有効です。
しかし、他の相続人が遺言内容に納得せず、トラブルになる場合があります。
(2)施設への寄付や愛人など親族以外の第三者に、多額の遺産を遺贈すると書かれていた
よくあるトラブルの2つ目は、「施設への寄付や愛人など親族以外の第三者に、多額の遺産を遺贈すると書かれていた」というケースです。
遺言で第三者に遺産を遺贈することは可能です。
しかし、当然相続をするものだと思っていた法定相続人からすれば、第三者への多額の相続は納得できるものではなく、トラブルになる可能性が高いと言えます。
2. 納得いかない公正証書遺言への対処法
公正証書遺言に納得いかない場合、どのような対処法があるのでしょうか?
以下の3つの対処法をご紹介します。
- 公正証書遺言の無効を主張する
- 遺産分割協議を行う
- 遺留分侵害額請求を行う
(1)公正証書遺言の無効を主張する
公正証書遺言は自筆証書遺言、秘密証書遺言と比べて無効となりにくいものの、その内容や方式上の問題などによっては、無効となる場合もあります。
公正証書遺言が無効になる場合と、その手順についてみていきましょう。
①公正証書遺言が無効となる場合
公正証書遺言が無効になる条件は以下の通りです。
- 欠格事由を持つ者が証人だった
- 遺言者に遺言能力がなかった
- 内容が公序良俗に反していた
- 内容が遺言者の意思に反するものであった
- 作成にあたり、詐欺・強迫があった場合 など
上記の場合には、公正証書遺言が無効になる可能性があります。
②公正証書遺言を無効にする手順
公正証書遺言が無効になる可能性がある場合にとり得る手段は以下のとおりです。
- 他の相続人、受遺者全員と話し合い、無効にする合意を得て「遺産分割協議」を行う
- 合意を得られない場合は家庭裁判所で「遺言無効確認調停」を行う
- 調停でも合意が成立しない場合は「遺言無効確認訴訟」を提起する
まずは、相続人・受遺者全員で遺言無効を前提に「遺産分割協議」を試みます。
遺言無効とすることに同意しない人がいるなど「遺産分割協議」が開けなかった場合には、家庭裁判所で「遺言無効確認調停」を申し立てます。調停では調停委員の仲介のもとで当事者が話し合っていきます。
調停不成立の場合、地方裁判所又は簡易裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起し、裁判官に当事者の主張や証拠をもとに「無効に当たるか否か」の判断を下してもらいます。
(2)遺産分割協議を行う
公正証書遺言に納得いかない場合、「遺産分割協議を行う」という方法もあります。
「遺産分割協議」とは、相続人全員で遺産の分割について協議することです。受遺者がいる場合は、受遺者(法定相続人以外で遺産を受け取る人)も協議に参加する必要があります。
公正証書遺言が無効にならないケースであっても、ある条件を満たせば、公正証書遺言通りに相続せず、「遺産分割協議」を行うことが可能です。
「遺産分割協議」が可能となるには、以下の3つの条件に当てはまる必要があります。
- 相続人・受遺者全員が同意している
- 遺言で遺産分割協議が禁止されていない
- 遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者が同意している
①相続人・受遺者全員が同意している
遺産分割協議は、相続人全員と受遺者全員が遺産分割協議を開くことに同意していなければ、開くことはできません。
②遺言で遺産分割協議が禁止されていない
遺言者(被相続人)は、遺言で遺産分割協議を禁止することができます。禁止期間は、相続開始から最大5年間です。
遺言で遺産分割協議が禁止されている場合、相続人・受遺者全員の同意があっても遺産分割協議はできません。
③遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者が同意している
遺言執行者が指定されている場合、遺産分割協議を開く同意を、相続人全員と受遺者全員に加えて遺言執行者からも得る必要があります。
これら3つの条件を満たすことで、遺産分割協議を開き、遺言書の内容とは異なる内容で遺産分割をすることが可能です。
(3)遺留分侵害額請求を行う
公正証書遺言に納得がいかない場合、3つ目として「遺留分侵害額請求を行う」という方法があります。これは遺言書が有効であることを前提とした手続きです。
「遺留分侵害額請求」とは、侵害されている遺留分を取り戻す請求のことです。遺留分とは、法定相続人に保障されている最低限の相続分のことを指します。遺言によって遺留分ももらえないという場合は、多額の相続を受けている相続人に対して「遺留分侵害額請求」をすることで、遺留分を確保することができるのです。
なお、遺留分の侵害があったことを知ったときから1年又は侵害があることをしらないままでも相続開始から10年が経過すると、時効によって請求権を失ってしまいます。遺言書が無効であると考えている場合にも、有効である場合に備えてすぐに遺留分侵害額請求を行うことが重要です。
「遺留分侵害額請求」は以下の流れで行います。
- 内容証明郵便を送る
- 遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
- 遺留分侵害額の請求訴訟を提起する
①内容証明郵便を送る
遺言書によって遺留分が侵害されている場合、まずは多く相続している人や遺贈を受けた人に対して遺留分侵害額の支払いを求めます。上述のとおり、遺留分侵害額請求権は時間の経過によって消滅してしまいますので、相続財産の調査と並行して、内容証明郵便を送って消滅を防ぐことが重要です。
その後に、協議を行って、支払額等について合意できた場合には、合意内容を合意書等の書面にしておきましょう。分割払いとする場合には、公正証書にして、不払いの場合には直ちに強制執行に服する旨の執行認諾文言をいれておくとよいでしょう。
②遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
話し合いがうまくいかない場合、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。
調停委員からアドバイスを受けながら話し合っていきますが、あくまでも調停は「話し合い」で解決する制度です。したがって、話し合いで合意に至らない場合は、次に解説する訴訟を提起する必要があります。
遺留分侵害額の請求に関しては、原則として、訴訟の前に調停を経なければなりません。これを「調停前置主義」といいます。ただし、話し合いによる解決の可能性がない場合には例外的に、調停を経ずに訴訟を提起することが許されています。
③遺留分侵害額の請求訴訟を提起する
調停不成立の場合は「遺留分侵害額の請求訴訟」を提起します。提起先の裁判所は請求額によって異なります。140万円以下の場合は「簡易裁判所」、140万円を超える場合は「地方裁判所」へ提起しましょう。
訴訟では、当事者の主張や提出された証拠をもとに、裁判官によって判断を下されます。遺留分侵害額請求訴訟では、相続財産に関する資料や遺言書を提出します。
3. 公正証書遺言の内容に納得いかないときは弁護士に相談を
遺産相続はトラブルになりやすい一方、制度や手続きが複雑です。
公正証書遺言が無効になる可能性があるかどうかの判断は非常に難しく、どの方針で進めるべきか慎重な検討が必要です。
また、訴訟に発展した場合には、弁護士によるサポートが重要です。
弁護士に相談することで、専門的な知識や経験から依頼者に適したアドバイスが得られて適切に手続きを進めていくことができます。早めに弁護士に相談するようにしましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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