子どもを支配する「毒親」への対処法。警察の介入や法的処罰は可能なのか?

子どもを支配する「毒親」への対処法。警察の介入や法的処罰は可能なのか?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

子どもを自分の意のままに支配しようとする「毒親」に、大人になってからも苦しめられている方がいらっしゃいます。しかし、「家庭の問題は家庭内で解決するべき」という考え方から、警察が家庭のトラブルへの介入に消極的な場合もあります。

そこで今回は、親子間の犯罪についてや、毒親への対処法を解説します。

1. 毒親を法的に処罰してもらうためにできること

(1)親族間の犯罪における特例

親子間の犯罪については一部特例が認められています。「法は家庭に入らず」の原則的な考えを背景としたもので、親族相盗例と呼ばれるものです。(刑法244条)

たとえば、親が子どもの財布から現金を抜き取ったとしても、親を窃盗罪で処罰してもらうことはできません。親子間でも窃盗罪は成立しますが、刑が免除されるからです。

親族相盗例により刑が免除されるのは、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、背任罪、横領罪、不動産侵奪罪およびこれらの罪の未遂です。盗品等譲受け等についても同様の規定が存在します(刑法257条)。親が加害者、子どもを被害者としてこれらの罪にあたる行為がなされた場合、親について刑が免除されることになります。

(2)それ以外については、親子でも罪を犯せば処罰対象となる

他方、たとえば親から暴力をふるわれたのであれば暴行罪、それにより怪我を負ったのであれば傷害罪が成立し、親は処罰される可能性があります。

前述の親族相盗例は、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、背任罪、横領罪、不動産侵奪罪およびこれらの罪の未遂に限られており、それ以外の刑法犯については、親子関係があっても処罰されます(盗品等譲受け等罪は除く)。

親から「お前を殺してやる」などと言われた場合は脅迫罪が成立し、親は処罰される可能性があります。暴力によってお金を奪われたのであれば強盗罪です。

2. 毒親の罪を裁いてもらうためにすべきこと

親子間のトラブルに対して警察は消極的な場合があります。たとえ暴行を受けたとしても、被害届が受理されないこともあります。

被害届を受理させる方法としては、暴行や脅迫の証拠(録音、動画、医師の診断書など)とともに具体的な被害状況を明らかにしたうえで、警察へ被害届をだすことが考えられます。警察も証拠がある場合には、動く可能性が上がります。親から何かされたときには、証拠を残しておきましょう。
また、被害届の提出に弁護士が立ち会うと、警察が受理する場合も多々あります。お困りの際は、弁護士にご相談されるとよいでしょう。

なお、緊急の場合には、証拠はなくてもよいですから、まずは警察に相談しましょう。どのような危機があるのか、自分が置かれている状況がいかに悪いものであるかを説明すると、適切な機関につなげてくれることもあります。ためらわずに警察に相談してください。

3. 毒親との縁を断ち切るための方法

残念ながら、法律上の親子関係を解消することはできません。しかし、次のような方法で、親と距離を置くことは可能です。

(1)物理的な距離を置く

引っ越しする、携帯電話の番号を変える、転職するなどの方法です。物理的に距離をとることで親からの心理的束縛を感じにくくなり、精神的にも平穏に暮らしやすくなります。

成人であれば住居や職業、結婚相手などを自由に選択できます。ご自身の行動にぜひ自信をもってください。

(2)分籍手続きをして戸籍や住民票の閲覧制限をかける

成人している場合には、戸籍について分籍することができます。分籍とは、現在の戸籍から独立して新しい戸籍を編製することです。市区町村役所で手続きができます。詳しい手続きや必要書類については、市区町村役所のウェブサイトなどでご確認ください。

分籍は戸籍を別にする効果しかなく、親子関係をなくす(縁を切る)ものではありません。しかし、心理的な束縛から解放されるための一歩となります。
また、分籍したうえで、戸籍の附票および住民票について閲覧制限をかければ、役所は親からの閲覧申請を拒否することができます。したがって、住民票や戸籍の附票からあなたの住む場所を親に知られてしまう危険性を軽減できることが期待できます。

(3)仮処分命令を申し立てる

ストーカー規制法や配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律(DV防止法)は、そもそも親子を対象としていないため、親子関係だけが問題である場合には、これらの法律に基づいて、親に対し、子どもへの接近禁止命令を出してもらうことはできません。

しかし、著しい損害や緊急の危険が差し迫っている場合、親がつきまといなどをやめるように、裁判所に民事保全法に基づき、接近禁止の仮処分命令をだしてもらうことができます。虐待やつきまといの証拠を提出しますので簡単ではありませんが、裁判所からの命令は親の行動への抑止力となります。

(4)児童相談所等へ相談する

18歳未満であれば児童福祉法の対象となりますので、児童相談所へ相談しましょう。児童相談所に直接行けば相談できますし、児童相談所全国共通ダイヤル189に電話相談をすることもできます。
または、自治体によっては「子ども・家庭110番」など自治体が行う電話相談もあります。
まずは少しでも早く相談することが大切です。
連絡先などの詳細は児童相談所や各自治体のウェブサイトに記載されていますので、ご確認ください。

4. 戸籍や住民票の閲覧制限について

閲覧制限には「支援措置等の必要性」が求められます。どのようなときにも利用できるわけではありません。緊急性や身の危険を感じていることを説明し、閲覧制限の必要性を理解してもらうことが大切です。

この点、あらかじめ警察の生活安全課や児童相談所などに被害の相談をしておくと、相談機関からの意見書が付され、閲覧制限が認められやすくなります。

親子間のトラブルは一定の制限があるものの、必ずしも法律が関与できないものではありません。トラブルを放置しておいた結果、事態が悪化する可能性があることは、昨今の報道を見ても明らかです。親子間の深刻な問題は1人で抱え込まず、まずは弁護士へ相談するようにしましょう。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2021年05月12日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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