
家族のお金を盗む親族を警察に訴えても相手にされないって本当?
他人のお金や持ち物を盗むと、刑法の「窃盗罪」で処罰されます。では、これが「他人」のものではなく「家族」のものだった場合はどうなるのでしょうか?
たとえば「息子が財布からお金を盗む」「介護を任せている嫁がアクセサリーを盗む」といったケースでも犯罪となって厳しく処罰されるのかといった点が気になる方もいるはずです。
家族・親族間で起きた窃盗の扱いについて解説します。
1. お金を盗む親族との関係性によっては罪に問える
家庭内でも窃盗は起こり得ます。たとえば、小遣いが少ないことを不満に思った子どもが親の財布からお金を盗んだり、兄弟姉妹の間でアクセサリーやおもちゃなどを盗んだりする行為は、まさに窃盗です。
とはいえ、家庭内で起きた窃盗について警察が介入し、厳しく処分することはありません。なぜなら、刑法には「親族相盗例」という規定があるからです。
(1)「親族相盗例」とは
刑法第244条1項には、親族間の犯罪に関する特例として、窃盗罪・不動産侵奪罪について「その刑を免除する」と定めています。これが「親族相盗例」と呼ばれる規定です。
その刑を免除するとは、刑事裁判で必ず刑罰を免除するという意味ですが、必ず免除されるため、警察や検察官は捜査や刑事手続きを進めることはありません。
(2)適用される範囲
親族相盗例が適用される犯罪は、窃盗罪・不動産侵奪罪のほか、詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪・背任罪・準詐欺罪・恐喝罪・横領罪・業務上横領罪・遺失物等横領罪です。既遂、つまり実際に罪を犯して結果が生じた場合だけでなく、未遂の場合にも適用されます。
親族相盗例の範囲となるのは、被害者を中心として次の関係にある人です。
- 配偶者
- 直系血族……父母・祖父母・子ども・孫など
- 同居の親族……6親等以内の血族または3親等以内の姻族で同居している者
(3)親族に窃盗罪で刑罰を科すための条件
親族相盗例の規定をみると、被害者との間で上記の関係のなかで起きた窃盗は必ず刑が免除されます。また、6親等以内の血族と3親等以内の姻族でも同居していれば親族相盗例が適用されるため、兄弟姉妹や叔父叔母、配偶者の父母も、同居している限り刑は免除されます。
配偶者・直系血族を除き、同居していない兄弟姉妹・叔父叔母・配偶者の父母などによる窃盗は、刑法第244条2項の規定により、被害者の告訴があれば処罰を求めることが可能です。
同居とは「同じ家屋に居住していること」を意味し、住民票上の世帯や扶養関係ではなく、実際に一緒に暮らしているかにより判断されます。
都合があって短期間だけ宿泊している、日ごろは単身赴任しており週末だけ帰宅しているといったケースでは別居になるため、同居が条件になっている親族間では親族相盗例が適用されません。
2. 刑罰を科すことはできなくても損害賠償請求はできる
上記で説明した関係にある親族の中で行った窃盗には親族相盗例が適用されるため、刑は免除されます。
では、盗まれた金品を返してもらうことや損害賠償をしてもらうこともできないのでしょうか?
(1)民法には親族相盗例がない
親族相盗例は刑法に定められた特例で、対象とする犯罪や適用される範囲が厳しく限定されています。
他方、民法の規定を確認すると、刑法の親族相盗例のように親族間における責任を免除するといった特例は存在しません。刑事事件としては刑が免除されても、民事事件として損害賠償請求を行うことや盗まれたものの返還請求を行うことは可能です。
(2)交渉が難しい場合は弁護士に相談
家族間での窃盗でも、損害賠償請求は可能です。「盗んだ金品を返してほしい」と求めて返してもらう権利があります。
ただし、実際には「返してほしい」と求めても相手が素直に応じてくれない状況も少なくありません。親族相盗例の意味を誤解して「家族の間だから返さなくてもいい」と拒むケースも考えられます。
また、同居している配偶者の父母や叔父叔母などが相手となった場合は、険悪な関係になることを避けたいという気持ちから、交渉が難しく感じる方も多いでしょう。
家族・親族間での窃盗を話し合いで解決したい、親族相盗例が適用されるのかはっきりわからないなどの悩みがある方は、まずは弁護士に相談してアドバイスを得ることを検討されるとよいでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年02月23日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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