いじめに対して裁判は起こせる? 裁判例と慰謝料請求について解説
学校におけるいじめは、大きな社会問題のひとつです。子どもがいじめを受けている場合には、保護者としては、いじめの加害者や学校などに対して慰謝料などの法的責任を追及したいと考えることもあるでしょう。その際には、いじめに関する過去の裁判例などを知っておくことが有益です。
今回は、いじめに対する法的対応について解説します。
1. いじめによる裁判の具体的ケース
子どものいじめは、自殺にまで追い込まれる児童がいるなど深刻な問題となっています。以下では、いじめが増加する背景やいじめに関する裁判例としてどのようなものがあるのかを説明します。
(1)いじめが増加する背景
文部科学省は、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を公表しており、その中でいじめの認知件数を発表しています。令和元年度の調査結果によると、いじめの認知件数は、61万2496件となり、前年度から6万8563件も増加し、5年連続で過去最多を更新しています。特に、小学校でのいじめの増加が顕著であり、この5年間でいじめの認知件数が約4倍にもなっています。
もっとも、いじめの認知件数が増加していることから、直ちに児童生徒の凶暴化が進んでいるというわけではありません。いじめの認知件数が増加しているということは、児童生徒の側からSOSを発しやすい環境になってきていることや、学校現場においてもいじめを放置することなく積極的に問題解決に向けて取り組んでいることを表しているともとれます。
そのため、いじめの認知件数が増加していること自体を悲観するのではなく、いじめの初期段階で認知をして早期に適切な対策を講じることの必要性を認識することが重要といえるでしょう。
(2)いじめに関する裁判例
過去にいじめが問題となった裁判において、被害者側からの慰謝料請求が認められた事案としては以下のものがあります。
①学校側に安全配慮義務違反が認められた事例(横浜地裁平成21年6月5日判決)
この事例は、市立中学校に在学していた原告が同級生からいじめを受けて、適応障害などの症状が生じたことに関して、学校側が適切な対応をとるべき安全配慮義務に違反した不法行為があったとして、学校の設置者である市に対して、損害賠償を求めた事例です。
原告は、同級生から以下のようないじめを受けていました。
- 通学用背負い布製かばんが刃物で42カ所切られ、17カ所にいたずら書きされた
- その約1年後、再び通学用ビニール製カバンが刃物で切られた
- 原告が保健室に在室中、体育の時間にセーターの袖口が2カ所切られた
- 「死ね、うざい、きもい(気持ちが悪い)、お前が悪い、辞めろ……」など言葉の暴力
- 原告のロッカー内のファイルおよびかばんの中にあった生徒手帳の隠蔽(いんぺい)
裁判所は、これらの行為について、いじめに当たることを認定しました。
そして、「公立中学校における教員には、学校における教育活動およびこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり、特に、生徒の生命、身体、精神、財産等に大きな危害が及ぶおそれがあるようなときには、そのような危害の現実化を未然に防止するため、その事態に応じた適切な措置を講じるべき一般的な義務がある」として、いじめ行為を認識していながら適切な対応をとらなかった学校側に安全配慮義務違反を認めました。
②学校側、加害生徒、加害生徒の両親にいじめの責任が認められた事例(広島地裁平成19年5月24日判決)
この事例は、中学校に在学していた原告が同級生の生徒などから暴行を加えるなどのいじめ行為を受け、統合失調症の症状が生じたことに関して、加害生徒と親に対して不法行為を理由に損害賠償を求めるとともに、学校側が適切な対応をとるべき安全配慮義務に違反した不法行為があったとして、学校の設置者である市および県に対して、損害賠償を求めた事例です。
原告は、同級生らから以下のようないじめを受けていました。
- 暴行行為(首絞め行為、蹴る行為など)、小石を投げ付ける行為、水をかける行為
- 教科書や文房具を隠蔽する行為
- 不登校をからかう行為
- 万引きに端を発した恐喝行為
- 文房具損壊行為
裁判所は、「中学生くらいの子供間においてなされる、からかい、言葉によるおどし、嘲笑・悪口、仲間はずれ等の有形力の行使を伴わない行為は、それ自体直ちに不法行為に当たるとはいえず、たたく・殴る・蹴るなどの暴行行為であっても、その態様や程度によっては必ずしも不法行為に当たるとはいえない場合もあり得るが、これらの行為を特定の生徒に対し長期にわたって執拗に繰り返して実行し、被害生徒に肉体的・精神的苦痛を与えた場合には、当該行為は、被害生徒の身体的自由、人格権を不法に侵害するものとして、不法行為に当たる」とした上で、加害生徒の行為については不法行為に当たると判断しました。
また、学校側から加害生徒の問題行動の連絡を受け、家庭内での指導を促されていた加害生徒の両親についても保護者としての監督義務違反を理由に責任が認められました。
さらに、学校側も、生徒の心身に対しいじめなどの違法な侵害が加えられないよう適切な配慮をする注意義務に違反したとして責任が認められています。
2. 損害賠償請求の相場・訴訟手続きの流れ
いじめを理由として慰謝料請求をする場合には、一般的には以下のような流れで進みます。
(1)内容証明郵便を送る
いじめを理由として慰謝料請求をする場合には、いきなり訴訟を提起することもできますが、まずは当事者同士の話し合いによる解決を目指して、内容証明郵便を送ることが考えられます。内容証明郵便には、いじめの被害にあったことを時系列にまとめて記載し、いじめによって被った精神的苦痛に対して慰謝料を請求します。慰謝料の金額をどのくらいにするかについては、ケース・バイ・ケースですので金額の相場を知りたい場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
(2)訴訟提起
話し合いでの解決ができない場合には、民事訴訟を提起して解決を図ります。裁判では、請求する内容に応じて、加害児童生徒、加害児童生徒の両親、教師、学校(地方公共団体)を被告にすることになります。
裁判では、いじめの有無や被告の責任については、原告側からの証拠によって判断することになります。そのため、訴訟提起前には、いじめを立証するために必要な証拠を収集することが重要です。被害者だけでは証拠収集が難しいときには、弁護士のサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年02月04日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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