モラハラの慰謝料-相場と基準は?事例を通して解説

モラハラの慰謝料-相場と基準は?事例を通して解説

阿部 由羅

監修弁護士

阿部 由羅

埼玉弁護士会

「私がもっとちゃんとしていれば怒られないのに……」 そうやって、パートナーからの理不尽な言葉や態度を自分のせいにしていませんか?

無視、暴言、見下した態度、経済的な制限。これらはすべて、立派な「モラハラ(モラルハラスメント)」であり、あなたが一方的に傷つく必要はありません。正当な理由があれば、モラハラに対して慰謝料を請求することは十分に可能です。モラハラの慰謝料相場は50万〜300万円。ただし証拠が不可欠です。

目に見えない精神的暴力を証明するには、正しい知識と準備が必要になります。本記事では、典型的な事例を通して、具体的なモラハラ対策を紹介します。

※本記事で紹介されている物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

モラハラを受けた川田江美(42歳)さんの事例

1. 「優しい夫」という名の支配

川田江美さん(42歳)の夫・和也さんは、周囲から「穏やかですてきなご主人」と慕われていました。しかし、一歩家に入ると、その態度は豹変します。

怒鳴るわけでも、暴力を振るうわけでもありません。ただ、毎日執拗(しつよう)に言葉で江美さんを追い詰めていくのです。 「お前は社会経験が浅いから、そういう感覚がないんだろうな」 「普通の主婦は、これくらい当然やるよ」

江美さんの心は確実に壊されていきました。

2. 管理される日常と経済的暴力

家計の主導権はすべて夫が握っていました。「無駄遣いするから」という理由で、江美さんに渡される生活費は月5万円のみ。

食費や日用品、子どもの費用まですべてここから捻出し、足りない分はレシートを提出して夫に「申請」しなければなりませんでした。 「先週のこの680円、何を買ったんだ。計画性がない」

3. 限界と、焦りすぎた決断

転機はある日突然やってきました。

「嫌なら出ていけばいい。お前みたいな人間を雇う会社なんてないぞ」

夫のその一言で何かが切れた江美さんは、子どもを連れて実家へ避難します。しかし、ここから誤った選択をしてしまいました。弁護士費用を惜しみ、「自分でできるはず」と、証拠もないまま夫にLINEで200万円の慰謝料を請求し、離婚調停を申し立ててしまったのです。

「あれだけひどいことをされたのだから、認められるはず」-その甘い見通しは、すぐに打ち砕かれます。

4. 調停室での残酷な現実

家庭裁判所の調停室で、夫は調停委員を前に「誠実な夫」を完璧に演じ切りました。「妻を大切にしてきた。厳しい言葉は愛情の裏返しだ」と主張する夫に対し、調停委員は江美さんにこう告げます。

「奥さま、ご主人の言動が不法行為にあたるという、客観的な証拠はありますか?」

江美さんは絶句しました。夫におびえて録音はしておらず、日記も書いていない。心療内科の受診歴もありません。10年間の苦痛は、すべて江美さんの「記憶」の中にしか存在しなかったのです。

結果として、離婚は成立したものの、認められた慰謝料は「ゼロ」でした。

江美さんの準備不足が災いしたのは、慰謝料だけにとどまりません。江美さんは離婚を急ぐあまり、夫の財産の内容を十分に把握しないまま離婚手続きを進めてしまいました。本来であれば財産分与の対象となる預貯金や有価証券、退職金見込額などについて十分な調査を行わず、関連する資料も確保していなかったため、十分な額の財産分与を受けられませんでした。

また、離婚後の生活設計や収支の見通しについても十分に検討していなかったことから、離婚成立後に生活費や住居費などの負担が想定以上に重くのしかかりました。十分な準備をしないまま離婚したことで、江美さんは離婚後の経済的自立に苦労し、生活再建に長い時間を要することになってしまったのです。

もし一度でも、心療内科に足を運んでいたら。そして、もし弁護士がいればどう変わったか。後悔だけが残る、あまりにも過酷な再出発となりました。

江美さんから学ぶモラハラ対策3ステップ

江美さんは離婚成立を急ぐあまりに、自分だけの判断で性急に行動してしまいました。その結果、慰謝料を全く得ることができず、離婚後の経済的自立に苦労することになりました。

このような事態を防ぐためには、十分な事前準備が必要不可欠です。弁護士のアドバイスやサポートを受けながら、慰謝料の獲得や好条件での離婚成立を目指しましょう。そのために、特に注意すべき3つのステップを紹介します。

STEP1:モラハラの有力な証拠と集め方は?

モラハラについて慰謝料を請求するためには、配偶者の言動の内容や、それによって受けた精神的損害の大きさを示す証拠が必要不可欠です。たとえば、次のような証拠を確保しておきましょう。

証拠の内容 集め方
モラハラに当たる言動の録音、録画 スマートフォンなどを用いて録音や録画をする
モラハラに当たる言動が含まれるLINEなどのメッセージ ログを保存する、スクリーンショットを撮る
モラハラの被害を記録した日記、メモ 被害を受けるたびに、継続的に記録する
配偶者が生活費を支払わないことを示す家計簿、預貯金通帳 家計簿は毎月継続的に記録する、預貯金通帳は記帳する(一括記帳が行われている場合は、金融機関から取引明細を取り寄せる)
モラハラによる精神疾患の診断書 医療機関で発行してもらう

録音|秘密録音でも認められる場合あり

録音については、よほど非常識な方法で行わない限り、配偶者の承諾を得ていなくても証拠として認められることが多いです。モラハラの被害を日常的に受けているなら、録音の機会をうかがいましょう。

日記|長期間にわたって継続的に記録

日記は主観的な記録であるものの、長期間にわたって継続的に書いていれば、モラハラの具体的な内容や様子を示す証拠になり得ます。モラハラの被害を受けるたびに、日記を付けておきましょう。

スマートフォンの記録は念のためバックアップを

スマートフォンに保存されているLINEメッセージや日記などは、配偶者に見つかると消すよう強要されるおそれがあります。念のため、バックアップを取っておいてください。

無理せず早めに医療機関を受診|診断書が精神的損害の証拠になる

モラハラによって精神の不調を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。診断書をもらっておけば、モラハラによる精神的損害の立証などに役立ちます。

STEP2:離婚時の財産分与はどうする?損をしないための事前準備

モラハラを理由に離婚しようとする場合は、慰謝料だけでなく、財産分与の請求も検討しましょう。

「財産分与」は、離婚する夫婦間において、婚姻中に取得した財産を公平に分ける手続きです。特に自分より配偶者の方が収入が多い場合は、離婚時に財産分与を受けられる可能性があります。財産分与は離婚後の生活の支えとなるので、事前準備を整えたうえできちんと請求しましょう。

財産分与の調査はできる限り同居中に

財産分与の請求を行う際には、配偶者の財産をあらかじめ調査する必要があります。

しかし、離婚に向けて別居を開始してからでは、配偶者の財産に関する資料を確保するのが難しくなってしまいます。できる限り同居している間に、財産分与の請求に役立つ資料を確保しておきましょう。

財産分与の請求に備えて確保すべき資料

夫婦のいずれかが婚姻中に取得した財産は、原則として財産分与の対象となります。配偶者の財産について、次に挙げる資料などを確保しておきましょう。

財産の種類 確保すべき資料
預貯金 通帳、取引明細書など
現金 保管状況の写真、数える場面の録画など
不動産 登記事項証明書、固定資産税の納付書など
生命保険(解約返戻金があるもの) 保険証券など
有価証券 取引残高報告書など
自社株式(会社を経営している場合) 確定申告書、計算書類(貸借対照表・損益計算書)など
退職金見込額 就業規則、退職金規程、退職金見込額証明書など

STEP3:離婚後も経済的に自立するには?再スタートに向けてやるべきこと

離婚後の生活を安定させるためには、慰謝料や財産分与を受け取るだけでは不十分です。次の対応などを行い、離婚直後から経済的に自立することを目指しましょう。

婚姻費用の分担請求

別居を始めてから離婚が成立するまでの期間の生活費は「婚姻費用」に当たり、夫婦間で分担するものとされています。自分が子どもと同居する場合や、配偶者の方が自分より多くの収入を得ている場合は、配偶者に対して婚姻費用の分担を請求できる可能性があります。

婚姻費用の分担請求は、離婚請求と併せて行うのが一般的です。弁護士のサポートを受けながら、適正額の婚姻費用の獲得を目指しましょう。

養育費の請求

離婚後に子どもと同居する場合は、元配偶者に対して養育費を請求できます。離婚手続きの中で、父母の収入バランスや子どもの人数・年齢に見合った額の養育費を請求しましょう。

中長期的な生活設計

離婚後の生活を安定させるためには、具体的なシミュレーションが欠かせません。住居費や生活費がどのくらいかかるか、その費用を賄うために収入が足りるかなどを検討し、問題がある場合は対策を考えましょう。

たとえば実家を頼れる場合は、一時的に実家に身を寄せれば費用を削減できます。サブスクリプションの見直しや解約なども、費用の削減につながります。子どもがいる場合は、自治体のひとり親支援制度を利用できるかどうかも調べてみましょう。

STEP4:アクションを起こす前に弁護士へ相談

モラハラを理由に慰謝料や離婚を請求する際には、自分の判断で具体的な行動を起こす前に、弁護士へ相談してください。慰謝料請求や離婚請求をどのように進めればいいか、注意すべきポイントは何かなどについてアドバイスを受けられます。準備不足や対応の不備などが原因で、不利な状況に陥り後悔してしまうリスクを防げます。

弁護士に依頼すれば、配偶者との交渉や、裁判所で行われる調停・訴訟などの手続きを一任できます。別居したうえで弁護士に対応を任せれば、配偶者と直接やり取りする必要はありません。モラハラを遮断し、精神的な平穏を取り戻すことができます。

弁護士に相談する際には、できる限り証拠を確保しておくことが望ましいです。本記事で紹介したSTEP1~STEP3を参考にして、無理のない範囲で証拠の確保に努めてください。また、相談したい内容をまとめたメモを持参すると、相談時間を有効に活用できます。

【モラハラ セルフチェックリスト】

配偶者から次のような行為を受けている場合は、モラハラとして損害賠償を請求できる可能性があります。速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。

モラハラの内容・程度 慰謝料(損害賠償)の目安額 判断の傾向
(a)次のような言動を、時々受けることがある
・人格を否定するような言動を受けている
・大声で怒鳴られる
・話しかけても無視される
・行動を監視される
・友人との付き合いを制限される
・十分な生活費を渡さない
・支出を厳しく制限される
・ささいな失敗をしつこく追及される
・他人の前で侮辱される
など
0~50万円程度 1回限りの場合や、比較的軽微な内容である場合は、夫婦間のよくあるトラブルとみなされてしまうこともある。
悪質な言動を受けた場合は、回数が少なくても慰謝料請求が認められる可能性がある。
(b)(a)に掲げる言動を、長期間にわたって頻繁に受けている 50万円~300万円程度 モラハラに当たる言動が長期間にわたって続くと、慰謝料請求が認められる可能性が高まる。
言動が悪質である場合は、200万円~300万円程度の高額の慰謝料を請求できることもある。
(c)(a)に掲げる言動に加えて、暴力(DV)も受けている 50万円~400万円程度 モラハラに加えてDVも受けている場合は、深刻な精神的損害が生じるため、慰謝料も高額になりやすい。
(d)(a)に掲げる言動によって精神疾患を発症し、次のような影響が生じた
・休職を余儀なくされた
・長期間にわたる治療が必要になった
・後遺症が残った
など
200万円程度~ モラハラによって精神的ショックを受けるだけでなく、仕事や健康に具体的な影響が生じている場合は、高額の賠償金を請求できる可能性がある。

モラハラの慰謝料に関するFAQ

Q1. モラハラの慰謝料の相場はいくらですか?

A1.50万円~300万円程度が標準的です。モラハラの内容・頻度・期間などによって目安額が変わります。モラハラ以外に暴力(DV)も受けている場合、仕事や健康に具体的な影響が生じている場合などには、より高額の損害賠償が認められることもあります。

Q2. モラハラで慰謝料を請求するために必要な証拠は何ですか?

A2. モラハラに当たる言動の録音や録画、LINEのメッセージ、医師の診断書などが有力な証拠となります。状況によって必要な証拠が異なるので、弁護士に相談してください。

Q3. 「証拠がない」場合でも、モラハラの慰謝料は請求できますか?

A3. 現実的には、証拠がない状態でモラハラの慰謝料を請求するのは難しい面があります。ただし、弁護士のアドバイスを受ければ、自分では気づかなかった証拠や、これから証拠を確保する方法が見つかるかもしれません。モラハラの証拠が乏しい場合でも、弁護士への相談をおすすめします。

Q4. 相手がモラハラを認めない・離婚に応じない場合はどうすればいいですか?

A4. 裁判所に対する離婚調停の申し立てや、離婚訴訟の提起を検討しましょう。どちらも慎重な準備が求められる手続きなので、弁護士と協力して準備を整えることが大切です。

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

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  • こちらに掲載されている情報は、2026年06月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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