熟年離婚の「その後」に待つ地獄とは?家を出た60代女性の末路と後悔しない4つの法的準備
監修弁護士
阿部 由羅
「もう、この人と同じ空気も吸いたくない」 長年連れ添った夫の定年を機に、そう決意する女性は少なくありません。厚生労働省によれば、同居30年以上の熟年離婚件数は1万組を超えています(令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況)。
しかし、長年の我慢から解放されたはずの「自由な生活」が、わずか数年で「老後破綻」という地獄に変わってしまうケースも十分にあり得ることなのです。その差は、性格や運勢ではなく、離婚届を出す前に「戦略的な準備」をしていたかどうかにあります。
感情に任せて家を飛び出した一人の女性、恵子さん(62歳)の物語から、熟年離婚の厳しい現実と対策方法を見ていきましょう。
※本記事で紹介されている物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
勢いで離婚、自由の代償は月数万円の年金生活だった——恵子さんの誤算
〜長年連れ添った夫との決別〜
山田恵子さんにとって30年間の結婚生活は、夫のモラハラと無関心に耐え忍ぶ日々でした。夫の定年退職の日、恵子さんは心に決めていた離婚届を突きつけました。「これからは一人の人間として自由に生きたい」。何とか夫を説得して判を押させると、パートで貯めた200万円だけを手に、着の身着のままで住み慣れた自宅を後にしました。
〜住まいの誤算と、消える貯金〜
恵子さんは離婚を決めた2年前から密かに準備を進めていました。清掃のパートをはじめ、毎月8万円のバイト代をコツコツ貯金し、離婚時の総額は200万円を超えていました。「当面はなんとか生きていける」恵子さんはそう確信していたのです。しかし、現実は甘くありませんでした。60代を超えてからの賃貸物件を借りるのは想像以上に厳しく、パート収入しかない恵子さんが借りられたのは、郊外の古びた家賃5万円のアパート。それでも、敷金・礼金や仲介手数料、さらに冷蔵庫や洗濯機といった生活家電を一新すると、50万円という大金が瞬く間に消えていきました。
手元に残ったのはわずか150万円。「質素に暮らせば数年は持つはず」ーその見通しは、あまりにも甘いものでした。
〜届かない年金、老後の労働〜
離婚から2年。追い打ちをかけたのは年金額の通知でした。専業主婦期間が長かった恵子さんに支給される国民年金は、月にわずか数万円。家賃と光熱費を払えば食費すら残りません。生きるために深夜の清掃バイトを掛け持ちしましたが、無理がたたって腰を痛め、働くことすら困難になってしまいました。
〜絶望の末路〜
暖房代を惜しみ、暗い部屋で一人震える夜。恵子さんの脳裏をよぎるのは、かつて自分が守ってきた広いマイホームの風景です。「今頃、元夫はあの家で悠々と暮らしている……私の家でもあるあの家で」。 もし、あの時「判を押す前」に別の道を選んでいたら。憎しみよりも深い後悔が、恵子さんを支配していました。
恵子さんはどうするべきだったのか?
恵子さんが経済的に苦しくなってしまったのは、離婚時に財産分与や年金分割などの取り決めをきちんと行わなかったためです。
特に夫が比較的裕福である場合は、財産分与や年金分割を適切に行うかどうかで、離婚後の生活が大きく変わってきます。弁護士のサポートを受けながら、よりよい未来の生活を目指して離婚手続きを進めていきましょう。
恵子さんはどのように行動すべきだったのか、何に注意する必要があったのかを法的な観点から解説します。
恵子さんの過ちと正しい法的な行動
恵子さんは夫から逃げたい一心で、一刻も早く離婚したいと考えていたようです。そのため、離婚条件について夫と話し合うことがないまま、離婚届を提出してしまいました。
恵子さんが経済的に困窮した主な原因は、離婚を焦り過ぎてしまったことにあります。
離婚前の恵子さんは広いマイホームに住んでいたようですので、おそらく元夫は安定した職業に就いており、貯蓄もそれなりにあったのでしょう。婚姻期間は30年以上に及んでいるため、夫の貯蓄の大半は婚姻中に築いたものであると考えられます。
このような状況では、恵子さんは離婚する際、夫に対して「財産分与」を請求できたと考えられます。財産分与は、夫婦の共有財産を公平に分ける手続きです。財産分与の額は数千万円以上に及ぶケースもあり、それを手にできていれば、恵子さんの老後の生活は安泰だったでしょう。
また、元夫が会社員や公務員であれば「年金分割」を請求できたと思われます。年金分割は、婚姻中の厚生年金保険や共済年金の加入記録を公平に分ける手続きです。年金分割を請求すれば、老後にもらえる年金の額が増えるので、恵子さんは安定した収入を得られるようになっていたでしょう。
恵子さんは夫のモラハラと無関心に悩んでいたようですので、すぐにでも夫と離れて暮らしたいという気持ちは理解できます。しかし、いきなり離婚するのではなく、まず別居してから離婚に向けた準備や話し合いを進めるという選択肢もありました。恵子さんは離婚を急ぐ気持ちが強すぎるあまり、このような冷静な考え方に至らなかったものと思われます。
離婚を考え始めたときにどのような行動をとるべきかについては、法律のルールや離婚後の生活の実態を正しく理解していなければ、適切な判断ができません。焦る気持ちを抑えて、正しい知識に基づいて冷静な対応をするためには、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。
熟年離婚で必要となる4つの経済的準備
熟年離婚をする際には、別居後や離婚後の生活を安定させるため、配偶者との間で経済的な条件を取り決めることが大切です。特に、次に挙げる4つのポイントを押さえながら準備や話し合いを進めてください。
財産分与
夫婦の共有財産を公平に分ける財産分与は、特に専業主婦やパートなどとして婚姻期間を過ごした方にとって、離婚後の生活を安定させるために不可欠な手続きです。
財産分与の対象となるのは、夫婦のいずれかが婚姻期間中に取得した財産です。配偶者がどのような財産を持っているのかを、同居している間にできる限り調べておきましょう。
預貯金、不動産、有価証券(株式や投資信託など)、退職金見込額などが財産分与の対象になりますが、配偶者がすべての財産を開示してくるとは限りません。財産分与の額を少なく抑えるため、意図的に財産を隠すケースも散見されます。
その場合は、金融機関や勤務先に対する照会等の手続きが必要になるかもしれません。自力で調査するのは限界があるので、弁護士に相談することをお勧めします。
年金分割
配偶者が会社員や公務員などである場合は、年金分割によって老後の年金額を増やせる可能性があります。離婚する前の段階で、年金分割の手続きについて調べておきましょう。
年金分割の方法には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
合意分割は、夫婦間の合意によって年金分割の割合を決める方法です。合意分割を行う際には、年金事務所または街角の年金相談センターに情報提供請求をして「年金分割のための情報通知書」を取得しましょう。年金分割に関して参考になる情報が記載されています。
3号分割は、婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者だった期間(≒配偶者の扶養に入っていた期間)がある人が請求できます。厚生年金保険または共済年金の加入記録が自動的に2分の1ずつに分割されます。3号分割は単独で請求できますが、離婚成立後2年が経過すると請求できなくなるので、手続きなどを確認しておきましょう。
婚姻費用
離婚成立前に配偶者と別居する場合は、別居期間中の「婚姻費用」の分担を請求できます。婚姻費用とは、夫婦の生活に必要な費用です。生活費や医療費、子どもの養育費などが含まれます。
特に配偶者よりも収入が少ない場合や、自立していない子どもと同居する場合は、婚姻費用の請求によって毎月数万円程度を得られる可能性が高いです。別居中や離婚後の生活の大きな助けとなるでしょう。
婚姻費用の請求や精算は、離婚協議と併せて行うことも多いですが、離婚成立前に請求することもできます。配偶者と話し合って合意するか、または家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てましょう。
参考:「婚姻費用の分担請求調停」(裁判所)
婚姻費用の請求に当たっては、夫婦双方の収入を示す資料が必要となります。配偶者の収入に関して、源泉徴収票や確定申告書の写しなどの資料をできる限り確保しておきましょう。
住まいの確保
別居や離婚に伴って現在の家から出ていく場合は、あらかじめ住まいを確保する必要があります。
たとえば実家が近くにある場合は、両親に頼んで実家に住ませてもらうことも考えられます。家賃の負担を抑えることができ、離婚によって不安定になっている気持ちの支えにもなるでしょう。
実家に身を寄せることが難しい場合は、自分の収入や生活費などを考慮して、無理なく家賃を支払える住まいを探しましょう。財産分与などを受けられる見込みがあっても、離婚手続きが長引く可能性があるので、家賃の負担は大きくなり過ぎないようにするのが賢明です。
まずは弁護士の無料相談を活用しましょう
離婚手続きを進めるに当たっては、離婚後の生活を具体的にイメージしたうえで、経済的な条件をきちんと取り決めることが大切です。
一度離婚届を提出してしまうと、その後に元配偶者と話し合いを試みても難航するリスクが高まります。離婚成立前の段階で、相手に対して何をいくら請求できるのかを検討しておきましょう。財産分与や年金分割のほか、相手が不貞行為・DV(暴力)・モラハラなどをした場合は慰謝料を請求できることもあります。
離婚に伴う各種の請求に当たっては、相手との協議や家庭裁判所での手続き(調停・訴訟など)が必要となります。弁護士に任せると、適切に離婚手続きを進めてもらえるので安心です。まずは弁護士の無料相談を利用するところから始めてみましょう。
【30秒診断】あなたの離婚準備、このまま進めて大丈夫?
離婚手続きを進めようとする際には、次の事前準備ができているかどうかを確認しましょう。一つでも未対応の項目がある場合には、相手に離婚を切り出すのはまだ早いです。弁護士と協力して、十分な準備を整えてください。
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[ ] 配偶者の収入や財産(預貯金・不動産・有価証券・退職金見込額など)を把握した
→収入や財産の額は、財産分与や婚姻費用を請求する際に必要な情報です。配偶者が隠している可能性もあるので、きちんと調査を行いましょう。 -
[ ] 配偶者に対して請求できる項目と金額を確認した
→財産分与・慰謝料・婚姻費用・年金分割など、さまざまな項目を請求できる可能性があります。弁護士に相談しながら、請求できる項目とその金額を漏れなく確認しましょう。 -
[ ] 離婚後の収支を具体的にシミュレーションした
→仕事や年金による収入と、食費・住居費などの生活費を比較して、十分生活が成り立つかどうかを具体的に検討しましょう。余裕をもって収支計画を立てることが大切です。
- こちらに掲載されている情報は、2026年05月20日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。