親権・養育費の取り決め方法とポイント

親権・養育費の取り決め方法とポイント

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

離婚時に子どもがいる場合、親権・面会交流・養育費をしっかり取り決める必要があります。

本コラムでは、親権・面会交流・養育費の3本柱の取り決め方法とポイントについて詳しく解説していきます。

1. 離婚後の親権とは?|親権者の決まり方や注意点

親権とはそもそもどのような権利なのでしょうか?親権が決まる基準や取り決め方非親権者と子どもの面会交流について詳しく解説します。

(1)親権について|単独親権と共同親権の違い

親権とは、未成年の子どもの財産管理や、監護・教育を行う権利義務のことです。未成年の子どもがいる場合は親権を持つ「親権者」を決めなければ離婚ができません。

親権には「財産管理権」「身上監護権」という2つの権利義務が含まれています。それぞれの内容をみていきましょう。

① 財産管理権と身上監護権

「財産管理権」は、未成年の子どもの財産を管理し、子どもの法律行為を代理または同意する権利義務のことです。

未成年者は法律上、親権者の同意がなければ法律行為を行えません。そのため、子どもの法律行為に対する同意権や代理権を親権者が持ちます。

「身上監護権」とは、未成年の子どもを心身ともに健全に成長させるために監護・教育する権利義務のことです。身上監護権には以下の4つの権利義務が含まれています。

  • 子の人格の尊重等(民法821条)
  • 居所指定権(民法822条)
  • 職業許可権(民法823条)
  • 身分行為の代理権

「身上監護権」は親権者と分けることも可能です。その場合は身上監護権を持つ者を「監護権者」といい、子どもは監護権者と暮らします。

② 単独親権と共同親権

婚姻中は夫婦共同で親権を行使しますが、現行法上では離婚をする場合「単独親権」のみ認められているため、どちらかを親権者に定めなければ離婚できません。※2025年9月現在の情報です

しかし、民法改正により、2026年5月24日までに共同親権制度が開始する予定です。

共同親権の導入の背景には、単独親権制度による以下のような現状があります。

共同親権の導入の背景にある、単独親権制度の3つの課題を解説。

共同親権を導入することで、激化しやすい親権争いの回避や、両親共に責任が明確化することによる養育費の支払い確保・面会交流の充実といったメリットが期待されています。

(2)親権の決まり方

家庭裁判所が親権者を選ぶ上での主な判断要素は、以下のとおりです。

  1. これまでの監護・養育の実績

  2. 今後の監護体制の見通し・経済状況

  3. 親権者の健康状態

  4. 子どもへの愛情

  5. 子どもの意思や年齢

①これまでの監護・養育の実績

家庭裁判所は、子どもの生活・精神の安定のために継続性を重視するため、それまで監護・養育を主に行なってきた親が親権において優先される傾向があります(継続性の原則)。

②今後の監護体制の見通し・経済状況

離婚後の監護体制の見通しや経済状況も重要な判断要素のひとつです。

離婚後に子どもと過ごす時間がしっかり取れるか、困ったとき助けてもらえるサポート体制(祖父母などの監護補助者と同居したり近くに住んでいるなど)が整っているかどうかが大切なポイントになるでしょう。

また、離婚後に経済状況が安定している方が親権者に相応しいと判断されますが、専業主婦(主夫)だからといって不利になるわけではありません。離婚後は養育費を受け取ることができるからです。

一方、収入はあってもギャンブル依存症であったり、借金を繰り返していたりすると親権者に不適格と判断される可能性が高いでしょう。

③親権者の健康状態

子どもの健全な成長のためには、親の健康状態も重要な判断要素になります。

身体的あるいは精神的な健康状態が悪く、子どもの世話が難しい場合、安定している親の方が親権者に相応しい、と判断される可能性が高いでしょう。

④子どもへの愛情

子どもに対する愛情の深さも重要な判断要素です。

子どもと過ごす普段の時間の長さや、休日の子どもとの関わり方、学校行事への参加の積極性など、客観的事情から判断されます。

⑤子どもの意思や年齢

親権者の決定において、子どもの意思も尊重される傾向にあります。裁判において子どもの意思が尊重されるのは、判断能力がついてくる「15歳から」です。ただし、判断能力があると判断された場合には、「10歳ごろから」子どもの意思が尊重されケースもあります。

なお、「母性優先の原則」により、乳幼児に関しては母親が親権をとりやすいのが現状です。総務省統計局の「人口動態調査」によると、子どもがいる夫婦で離婚後に母親が親権を持つ確率は8割超となっています。

参照:政府統計の総合窓口 e-Stat「親権を行う子をもつ夫妻の親権を行う子の数・親権者(夫-妻)別にみた年次別離婚件数及び百分率

ただし、以下の事情があれば、母親が親権を獲得できない可能性があるでしょう。

母親が親権を獲得できない可能性があるケース

  • 母親に監護能力・実績がない
  • 子どもが父親と暮らすことを望んでいる
  • 精神疾患にかかっている
  • ネグレクト(育児放棄)
  • 身体的・精神的虐待 など

(3)親権の取り決め方法

親権の取り決め方法は以下のとおりです。

  1. 夫婦間での話し合い

  2. 公正証書の作成

  3. 離婚調停の申し立て

  4. 離婚審判・離婚訴訟

手続きは通常、①から順に進んでいきます。

①夫婦間での話し合い

まずは夫婦間で親権についての話し合いを行いましょう。親権争いがある場合、冷静に「どちらが親権者になった方が子どもの利益になるか」という視点で話し合いを進めていくことが大切です。

②公正証書の作成

話し合いがまとまったら公証役場で「公正証書」を作成します。離婚協議書で親権についての合意内容を記載する方法もありますが、公正証書には以下のような大きな特徴があるので公正証書がおすすめです。

  • 証明力が高いことから後に揉めにくい
  • 強制力があるため養育費等の未払い時に裁判を経ず強制執行手続きをとれる

③離婚調停の申し立て

話し合いが決裂した場合、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てる必要があります。

離婚調停は話し合いで紛争解決を目指す制度です。仲介役となる調停委員(専門知識を持つ男女1名ずつの民間人)から、ときにはアドバイスや和解案を提示してもらいながら親権について話し合っていきます。合意できれば離婚調停の成立です。

④離婚審判・離婚訴訟

離婚調停がまとまらなかった場合、「離婚審判」「離婚訴訟」を行います。

離婚審判は、離婚については概ね合意に至ったものの、些細な条件が噛み合わずに調停が成立しなかった場合に家庭裁判所が審判を下して離婚を成立させる手続きです。ただし、あまり行われることはありません。

離婚調停不成立の場合は「離婚訴訟」が行われるのが一般的です。離婚訴訟では当事者の主張や提出された資料・証拠を元に、裁判官が揉めていること(離婚するか否か、親権をどちらが持つかなど)に対する判断を下します。

なお、離婚訴訟は原則として離婚調停を経ずに行うことはできません(調停前置主義)。

(4)面会交流の取り決めの重要性

面会交流は、非親権者あるいは非監護権者となった親と子どものための大切な交流です。

面会交流権は民法766条に以下のように規定されています。

民法766条1項

「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」

この条文で重要なのは、面会交流について決める際には「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」という点です。

子どもは、離婚後も両親からの愛情を感じることで精神的に安定します。正当な理由(虐待やネグレクトなど)がないにもかかわらず、親権者の意向で面会交流を拒むことは子どもの利益にはなりません。

親権の所在と面会交流は別の問題であることを念頭に、子どもの利益を最優先に考える必要があるのです。

2. 養育費とは?|相場や取り決め方法、履行確保の手段

親権と同様、子どものいる離婚で重要になる「養育費」について詳しくみていきましょう。

(1)養育費について

養育費とは、未成熟子(社会的に・経済的に自立していない子ども)のための費用です。

養育費の具体的な内容としては、生活費や教育費、医療費などが挙げられます。

教育費に関しては、原則として公立高校までの学費が想定されているため私立学校や大学の費用は含まれません。ただし、夫婦が合意すれば、それらの費用や修学旅行費用、入院費などを養育費に含めることも可能です。

養育費は原則として「20歳になるまで」支払う必要があります。令和4年の成人年齢引き下げの影響は実質ありません。

ただし、話し合い次第で養育費に大学の学費などが含められるように、支払い期間も話し合い次第で変更することができます。

たとえば子どもが大学進学を希望している場合は「大学卒業の年の3月まで」に延長する、高校卒業後すぐ働く場合は「高校卒業の年の3月まで」に短縮するというようにケースに応じて支払い期間を定めることができるのです。

(2)養育費の相場と計算方法・具体例(家庭裁判所の算定表のしくみ)

養育費の相場は家庭裁判所の算定表で求めることができます。

家庭裁判所の養育費算定表は、父母の年収と子どもの年齢・人数に応じた養育費の相場を簡易迅速に計算するための早見表です。給与所得者か自営業者かによって養育費の相場は異なり、支払い義務者が自営業者の方が養育費の金額が高くなります。

養育費は話し合い次第で自由に金額を定めることができますが、算定表を養育費の金額を取り決めるケースが多いでしょう。

具体例を挙げていきます。
たとえば子ども2人(0~14歳)、権利者の収入300万円、義務者(会社員)の収入600万円のケースを想定してみましょう。養育費算定表をみると、この場合の養育費相場は月6〜8万円です。

(3)養育費の取り決め方法

養育費の取り決め方法は以下のとおりです。

  1. 夫婦間での話し合い

  2. 公正証書の作成

  3. 養育費請求調停の申し立て

  4. 養育費の審判・離婚訴訟

手続きは通常①から順に進んでいきます。

①②に関しては、まずは話し合い、話し合いがまとまれば養育費についての取り決め内容を公正証書にするというところは、先ほど解説した「親権の取り決め方法」と同様です。

話し合いがまとまらない場合は調停や審判、離婚訴訟の利用を検討しましょう。

(4)後で増額を請求できるケースも

養育費を取り決めた後でも、事情変更により養育費の増額請求が認められるケースもあります。離婚後に義務者の収入・所得の増加や権利者の収入・所得の減少、物価高騰、子どもの病気や怪我による医療費の増加などの事情変更があれば、増額を請求できる可能性があるでしょう。

養育費を増額してもらうためには、まずは相手と話し合います。合意した場合は公正証書を新しく作成しましょう。

話し合いで合意できなければ、家庭裁判所に養育費変更の調停や審判を申し立てます。まず行うのが調停です。

調停で合意できなければ、審判に自動的に移行されます。審判は、裁判官が紛争に関する判断を下す手続きです。裁判官が事情の変更を認めれば、適当な増額された養育費の金額が義務者に命じられることになります。

(5)養育費の支払いを確保する方法

養育費の不払いがあった場合、「履行勧告」「強制執行」で未払い分を確保しましょう。

履行勧告は、債務名義(調書・審判書・判決書など)で決められた義務が履行されたい場合に利用できる制度です。
裁判所から養育費の支払い義務者に対して「義務を履行しなさい」と促してもらうことができます。
促してもらうのみなので、履行勧告によって支払いを強制することはできません。しかし、プレッシャーを感じた相手が自発的に養育費を支払ってくれる場合もあります。

強制執行は、裁判手続きで得た債務名義や、強制執行認諾文言が付いている公正証書で決められた義務が履行されない場合に利用する制度です。
強制執行にはいくつか種類がありますが、養育費未払いには「債権執行」が利用されることが多いです。これを利用すれば、債務者の預貯金や給料を差押さえて強制的に支払いを受けることが可能です。

なお、強制執行による給料の差押えについては、まだ支払い期限が到達していない将来分も差押えることができます。

3. 離婚後の子どもの生活を守るために必要なこと

離婚後の子どもの生活を守るために必要なことをご紹介します。

(1)感情よりも子どもの利益を最優先に考える視点

離婚問題は非常に感情的になりやすい問題です。「離婚後は相手と子どもを会わせたくない」、「相手から養育費を受け取って関わり続けるのも嫌だ」と考える方も少なくはありません。

しかし、大切なのは「自分の感情よりも子どもの利益を最優先にして考える」という視点です。子どもの健全な成長のためには面会交流を充実させる、養育費をしっかり取り決める、というような子ども優先の考えが、子どもを守ることにもつながります。

(2)離婚後の生活設計を考える

子どもの生活を守るためには、離婚後の生活設計を考えておくことも重要です。

条件を満たすことで、児童手当や児童扶養手当、母子生活支援施設、ひとり親家庭等医療費助成などの公的支援を利用することができます。自治体ごとに受けられる支援もあるため、離婚後の住居がある自治体に受けられる支援について確認しておきましょう。

(3)話し合いで決まらない場合は早めに弁護士に相談を

離婚問題は早めの弁護士への相談がおすすめです。

弁護士に相談すると、話し合いが進みやすくなり、離婚協議の段階で離婚が成立する可能性が高まるというメリットがあります。

また、公正証書作成の対応や、調停・裁判になった場合の煩雑な裁判手続きを代行してもらえるという点も、弁護士に依頼する大きなメリットでしょう。

子どもがいる離婚の場合は、親権・面会交流・養育費をしっかり取り決めることが重要ですが、夫婦だけで円滑に話をまとめていくのは困難です。

話し合いを円滑に進め、不利な条件で合意しないためにも、早い段階で弁護士への相談をおすすめします。

弁護士JP編集部
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  • こちらに掲載されている情報は、2025年09月17日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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