
専業主婦が知っておくべき離婚後の財産分与|権利と手続きの進め方
離婚をするとき、「専業主婦でも財産分与を受けられるの?」と不安に思う方は多いのではないでしょうか。
結論としては、専業主婦でも、離婚時には財産分与を受け取ることができます。
婚姻期間中に夫婦で築いた財産は、たとえ外で働いていなかったとしても、家事や育児といった家庭内での貢献によって分与を受ける権利があります。
本コラムでは、専業主婦が離婚後に適正な財産分与を受け取るために知っておきたい権利や手続き、注意点について詳しく解説します。
1. 離婚の際の財産分与とは
まずは離婚するときに行われる財産分与の基本を解説します。
「財産分与」とは、婚姻期間中に築いた財産を離婚時に夫婦で分けて清算する制度です。結婚後の財産は夫婦で形成した財産であり、離婚時に財産分与を請求できることは民法にも規定されています。
2. 専業主婦は離婚時に財産分与を受け取れる?
専業主婦は外で仕事をしていないことから、財産分与を受け取れるのか不安に思われる方は少なくありません。
しかし、財産分与請求は法律で認められた権利であり、専業主婦でも財産分与を受け取ることができます。
以下で、専業主婦の財産分与について注意点も含めて詳しく説明します。
(1)専業主婦でも財産分与を受け取れる
専業主婦は外で仕事をしているわけではありません。しかし、家事・育児で貢献することによって外で働く夫を支えています。夫は専業主婦の支えがあるからこそ、仕事で財産を形成できるのです。
また、先ほど少し触れましたが財産分与請求については民法に規定されています。
引用:民法 |e-Gov 法令検索 (財産分与)民法768条1項
「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」
このように、財産分与請求は法律でも認められた権利であり、専業主婦も財産分与を受けることができるのです。
(2)専業主婦が財産分与を受けられないケースとは?
原則として、専業主婦も財産分与を受けることができますが、例外があります。
以下のケースでは例外として財産分与を受けられない可能性があるでしょう。
- 浪費や借金で財産を著しく減少させた場合
- 結婚前に交わした婚前契約で「離婚時の財産分与をしない」と決めていた場合
(3)財産分与の請求期限と失効のリスク
財産分与はいつまでも請求できるわけではありません。財産分与請求権には「除斥期間」といって、一定期間が経過すると権利が消滅してしまう制度があります。
現行法では、離婚から2年が経つと消滅します。ただし、令和8年までに民法改正法が施行され、期間が5年に延長されます。
改正前に離婚する場合は、離婚から2年以内に財産分与を請求しないと権利が失われてしまうため注意が必要です。
3. 財産分与の対象となる財産・ならない財産
財産分与で損をしないためには、財産分与の対象となる財産・ならない財産について知ったうえで、財産を調べることが重要になります。
(1)財産分与の対象となる「共有財産」とは?
「共有財産」とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産のことを指します。
共有財産の具体例としては、以下のものが挙げられます。
- 預貯金や現金
- 家や土地などの不動産
- 家具家電や宝飾品
- 有価証券や株
- 生命保険や学資保険などの保険
- 年金
- 退職金(婚姻期間中に発生した分)
共有財産の例
など
(2)財産分与の対象とならない「特有財産」とは?
財産分与の対象外の財産を「特有財産」といいます。「特有財産」は婚姻期間中に夫婦で協力して形成したとはいえない財産です。
特有財産の具体例としては、以下のものが挙げられます。
- 結婚前の預貯金
- 結婚前に購入した家具家電や宝飾品などの財産
- 親や親族からの相続や贈与で得た財産
特有財産の例
など
(3)離婚前提の別居中に形成された財産はどうなる?
原則として、離婚前提の別居中に形成された財産は財産分与の対象にはなりません。
ただし、別居後も夫婦で経済的協力関係を続けていた場合は、共有財産になる可能性もあります。
たとえば、別居後も妻が夫の収入を管理して生計を共にしていたようなケースです。
通常は別居をすると夫婦の経済的協力関係は終了すると考えられますが、このようなケースでは経済的協力関係は続いているため、別居中に形成された財産も共有財産になる可能性があるでしょう。
(4)財産隠しに注意!見破る方法と対策
財産分与をするためには共有財産を正確に把握する必要がありますが、財産分与をなるべくしないようにと「財産隠し」をする配偶者がいます。
財産隠しを見破るには、以下のような方法が有効です。
- 預金通帳の取引履歴を確認する
- 金融機関・保険会社からの郵便物を確認する
- 弁護士照会を利用する
- 調査嘱託制度を利用する
「弁護士会照会制度」とは、仕事の依頼を受けた弁護士が職務を遂行するために必要な証拠や資料を収集する制度のことをいいます。
「調査嘱託制度」とは、裁判所から金融機関に対し預金残高や取引状況の情報開示を求める制度のことです。
これらの制度を利用することで隠し財産を把握できる可能性があるでしょう。
また、財産を隠されないための対策として「財産を把握するまで別居や離婚を切り出さない」ということが大切です。別居や離婚を切り出した後に財産を把握しようとすると、配偶者が財産を隠そうとする場合がありますので、その前に把握しておく必要があります。通帳や保険証券などをコピーして証拠として集めておきましょう。
(5)熟年離婚での財産分与の注意点
熟年離婚をする場合は、婚姻期間が長い分共有財産が多くなる傾向があります。多くなった共有財産を正確に把握し、離婚後の生活が経済的に困窮しないように退職金も含めてしっかり請求することが大切です。
4. 専業主婦が受け取れる財産分与の割合と金額の相場
財産分与の割合は2分の1が基本です。専業主婦のケースでも同じ割合なのでしょうか?
(1)専業主婦でも財産分与の割合は2分の1が基本?
財産形成における夫婦の貢献度は基本的には等しいと考えられているため、専業主婦でも財産分与の割合は2分の1になるのが基本です。
ただし、夫婦で話し合い合意すればこの限りではありません。また、場合によっては財産分与の割合が2分の1未満になるケースもあります。
(2)財産分与額が2分の1未満になるケースとその理由
原則として、専業主婦も財産分与では2分の1の財産を受け取ることが可能です。
しかし、以下のような特殊な要因があるケースでは2分の1未満になる可能性があります。
- 夫の特有財産を原資に共有財産を形成した場合
- 夫の特別な努力や能力で財産が大幅に増えた場合
- 妻が家事・育児を放棄していた場合
など
(3)財産分与の金額相場は?
専業主婦に特化した統計データはありませんが、令和5年の司法統計データによると、調停・審判では財産分与の金額が「100万円以下」で決定したケースが最多でした。
ただし、結婚年数が長いほど金額は多くなるため結婚年数が25年以上の場合は「2000万円以下」で決定したケースが最多となっています。
-
結婚10年未満
100万円以下が最多
-
結婚25年以上
2000万円以下が最多
5. 「年金分割」とは?財産分与との違い
専業主婦が離婚する場合、忘れてはいけないのが「年金分割」です。
年金分割の基本を解説します。
(1)年金分割とは
「年金分割」とは、夫婦の婚姻期間中の年金保険料納付額に対応する厚生年金記録を離婚時に分割し、各々の年金にする制度のことです。夫が厚生年金の保険料を納めてこられたのは妻の支えがあってこその結果であり、将来受け取れる年金額を公平にするために導入された制度であるため、専業主婦も利用できます。
年金分割は「合意分割」と「3号分割」があり、専業主婦の場合に利用するのは「3号分割」です。
年金分割の大まかな流れをご紹介します。
- 情報通知書を請求して受け取る
- 夫婦で話し合う
- 合意したら年金事務所に年金分割を申請する
- 合意できなければ家庭裁判所に調停または審判を申し立てる
- 標準報酬改定通知書を受け取る
年金分割の割合は2分の1が基本です。受け取れる金額は結婚年数や厚生年金の全受給額などによって異なりますが、たとえば結婚20年で夫の勤務年数が40年、年金の全受給額が160万円のケースでは年金は40万円が目安になります。
(2)年金分割をしないとどうなる?
熟年離婚や専業主婦のケースでは、年金分割をしないと受け取れる年金の金額が少なくなるため金銭的に損をしてしまうでしょう。
財産分与に加えて年金分割について必ず協議し、合意したら年金事務所に申請することが大切です。
6. 専業主婦が知っておきたい財産分与の手続きと注意点
最後に、財産分与の進め方や注意点など、知っておいていただきたいポイントを解説します。
(1)財産分与の方法と進め方
財産分与は大まかな流れは以下のとおりです。
- 対象となる財産の確認
- 話し合い
- 話し合いがまとまらない場合は、調停や裁判へ
話し合う前に共有財産を把握することが大切です。話し合いをしても合意できなかった場合は裁判手続きが必要になります。
(2)専業主婦が準備すべき書類と証拠の集め方
財産分与をするために、共有財産の金額や評価額を把握するための資料を準備しておきましょう。通帳の取引履歴、不動産の評価証明書、自動車の査定書などが有効です。
証拠の集め方は、3章の財産隠しを見破る方法で解説した方法(預金通帳の取引履歴や金融機関・保険会社からの郵便物を確認するなど)が有効でしょう。
(3)財産分与と慰謝料・養育費の違いとは?
離婚時に請求できる金銭は財産分与だけではありません。相手配偶者がDVや不貞行為といった離婚原因を作った有責配偶者の場合には、証拠さえあれば、「慰謝料」を請求できます。また、子どもがいる場合には子どもと暮らさない親に養育費を請求することも可能です。
財産分与は夫婦で協力して形成した共有財産から支払われるものであるのに対して、慰謝料・養育費は相手の特有財産から支払われるものであるという違いがあります。
相手が有責配偶者の場合や離婚後に自分が子どもと暮らす場合は、財産分与に合わせて慰謝料や養育費を請求する選択もできますので、是非ご検討ください。
(4)年金分割・扶養的財産分与のポイント
「年金分割」と、離婚後の生活を支えるために一定期間支払われる財産分与である「扶養的財産分与」が、離婚後の生活保障として機能します。この2つは熟年離婚や無収入の専業主婦の場合に特に重要です。
「年金分割」が将来の年金収入を保障する一方で、「扶養的財産分与」は離婚直後の生活費を補う目的で行われます。
-
財産分与
婚姻中に築いた財産を分ける
-
年金分割
夫の厚生年金を分割して専業主婦の年金に加算する
離婚後の生活を安定させるためにも年金分割と扶養的財産分与を配偶者に同意してもらえるように主張することが大切です。
特に専業主婦の場合、年金分割をしないと老後の生活が厳しくなる可能性があるため、忘れずに手続きしましょう。
(5)専業主婦が離婚時の財産分与で損をしないために
専業主婦が財産分与で損をしないためには弁護士へ依頼ことが大切です。弁護士への相談で、交渉を有利に進む、法的なサポートを受けられる、というメリットがありますので、離婚を切り出す前に弁護士に相談することをおすすめします。
専業主婦の財産分与における注意点
- 財産分与の前に財産をしっかり把握する
- 配偶者が財産隠しをする可能性もあるため注意する
- 離婚前に弁護士へ相談することで適正な分与を受けられる
- こちらに掲載されている情報は、2025年04月16日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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