離婚の親権争い|母親が不利になるケースは?

離婚の親権争い|母親が不利になるケースは?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

離婚時の親権争いでは母親が有利になるケースが多い傾向があります。それはなぜなのでしょうか?

母親が親権争いで有利になる背景や母親が不利になるケースを解決します。

1. 親権争いにおける母親の立場とは?

親権争いにおいて、なぜ母親に優位性があるのでしょうか?

親権争いで母親が有利になる背景や、家庭裁判所の判断基準、そして離婚後の共同親権制度の施行が母親の立場に与える影響について解説します。

(1)親権者を決めるための手続き

現行法上は、離婚時に父母どちらかを親権者として定めなければなりません(単独親権という)。しかし、2026年5月24日までには共同親権制度が導入され、離婚時に単独親権と共同親権のどちらにするのか選択できるようになります。

ではどのように親権者を決めるのでしょうか?

親権者を決めるための手続きは、①協議⇒②離婚調停⇒③訴訟の流れで行います。それぞれの内容をみていきましょう。

①協議

まずは夫婦間で親権者について協議します。母親と父親どちらを親権者にするか話し合い、親権者が決定したら養育費や面会交流についても話し合いましょう。

協議がまとまれば離婚協議書や公正証書を作成します。まとまらない場合、次に行うのが「離婚調停」です。

②離婚調停

協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に「離婚調停」の申し立てを行います。調停は、調停委員会(調停委員2名と裁判官1名)の仲介のもとで争いについて話し合いで解決するための制度です。

調停委員からアドバイスを受けたり、和解案を示されたりしながらトラブルになっている事柄に関する話し合いを行い、合意に至れば離婚調停が成立します。離婚調停が不成立の場合、最終手段として行う手続きが「訴訟」です。

③訴訟

離婚調停が不成立になった場合、「離婚訴訟」を提起します。訴訟は、当事者の主張や提出された証拠をもとに裁判官がトラブルに関する判断を下す制度です。ここでどちらを親権者にするか裁判官が判断し、当事者は確定した判決に従わなければなりません。

(2)親権争いで母親が有利と言われる理由

厚生労働省の公表している「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」によりますと、令和3年の母子世帯数は119.5万世帯、父子世帯数は14.9万世帯で、このうち離婚が原因で母子世帯になった割合が79.5%、父子世帯になった割合が69.7%でした。

参考:厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果

統計データからも、親権が父親よりも母親にあるケースが多いことがわかります。では、なぜ日本では母親が親権を得やすい傾向にあるのでしょうか?

日本で母親が親権を得やすい傾向にある背景に、裁判所が親権者を決める際の判断基準のひとつである「母性優先の原則」という考え方があります。

「母性優先の原則」とは、概ね10歳以下、特に0歳〜5歳の乳幼児は、親権者には母性を発揮できる母親が優先されるという原則のことです。この原則に基づき、乳幼児の親権争いでは母親が有利になる傾向があります。

(3)法律が重視する「子どもの利益」とは

裁判での親権の判断基準は「母性優先の原則」だけではありません(2章で詳しく解説)。

しかし、民法では親権判断において「子どもの利益(福祉)」が最優先です。「子どもの利益」とは子どもの幸せのことで、離婚後の子どもの監護に関する事項について定められた民法766条や、監護及び教育の権利義務について定められた民法820条に子どもの利益を最優先にしなければならないと規定されています。

従って、乳幼児の親権争いであっても、子どもの利益のためには父親が親権者になった方が良いと裁判で判断されるケースもあるのです。

(4)「共同親権」導入で母親の優位性が揺らぐ?

共同親権制度が導入されると、母親が必ずしも親権を得やすいとは限りません。

前述したように、制度導入後は単独親権と共同親権を夫婦で話し合って選択できるようになります。したがって、母親だけで単独親権にしたいと考えていても、父親が共同親権を主張し裁判になった場合、共同親権にした方が子どもの利益になると裁判官に判断されれば「共同親権にする」という判決になる可能性もあるのです。

2. 親権の決定で重視されることは?

母性優先の原則のほかに親権決定の際に裁判所の判断基準になる項目について解説します。

  • (1)子どもの意思を尊重
  • (2)監護の実績、監護能力
  • (3)育児サポート
  • (4)親の生活環境
  • (5)親の精神的安定
  • (6)兄弟姉妹の不分離

それぞれの内容をみていきましょう。

(1)子どもの意思を尊重

親権者の決定については子どもの意思も尊重されます。裁判で子どもの意思が尊重されるのは判断能力がついてくる「15歳から」です。ただし、判断能力があると判断されれば「10歳ごろから」子どもの意思が尊重される場合もあります。

(2)監護の実績、監護能力

親権を決める際、それまで監護を主に担ってきた親と子どもを離すと子どもが精神的に不安定になりやすいことから、監護の実績(食事の用意や学校・習い事の送迎など)がある親に親権が認められる傾向があります。

また、子どもの監護をする体力や能力(監護能力)の有無も重要な判断基準のひとつです。

(3)育児サポート

離婚後に困ったとき、助けてもらえる体制が整っているかどうかも大切なポイントになります。

「近くに祖父母がいる」「祖父母と同居する」など育児サポートが整っていると親権で有利になる可能性があるでしょう。

(4)親の生活環境

離婚後の親の生活環境も重要な判断基準のひとつです。

子どもと過ごす時間がしっかり取れる親の方が親権を取得できる可能性があります。

(5)親の精神的安定

子どもを健全に成長させるためには親が精神的に安定していることが重要です。

精神疾患があると必ずしも不利になるわけではありませんが、精神的に安定している方が親権者に相応しいと判断される可能性があるでしょう。

(6)兄弟姉妹の不分離

子どもが複数人いる場合、子どもの成長のために兄弟姉妹が一緒に暮らせるように配慮するという「兄弟姉妹不分離の原則」という考え方があります。

裁判ではこの原則に基づき、兄弟姉妹を分けずに一緒に監護できるかどうかも親権決定の判断基準にしているのです。

3. 母親が親権争いで不利になる主なケース

母親が親権争いで不利になる具体的なケースにおけるそれぞれの状況と、裁判所の判断基準について詳しく解説します。

(1)母親の養育能力が疑問視される場合

母親の健康状態や経済状況が悪い場合、親権争いで不利になる可能性が高いでしょう。具体的には以下のケースです。

  • 長期入院しなければならない病気をかかえている
  • うつ病などの精神疾患があり子どもの面倒をみられそうにない
  • 膨大な借金や浪費癖がある など

なお、経済状況については養育費の取り決めによりある程度カバーができることから、経済力の有無だけでは不利になりません。したがって、現在専業主婦で仕事をしていない場合、それだけで不利にはならない可能性があります。

(2)父親の育児実績が評価される場合

裁判所は監護実績(育児実績)も親権決定の際に重視するため、父親が積極的に育児に関わっていて母親が育児に関わってこなかったといった場合は、父親が有利になり母親が親権を取得できない可能性があるでしょう。

(3)子どもの意思が尊重される場合

前述したように、裁判では15歳以上の子どもの意思が親権決定では重視される傾向にあります。

したがって、「お父さんと一緒にいたい」「お母さんと暮らしたくない」というように、子どもが父親を親権者として希望した場合、母親でも親権争いで負ける可能性があるでしょう。

(4)母親側に問題が認められる場合

母親側に虐待やDVなどの問題がある場合は、親権者が母親になると子どもの利益や健全な成長を害する可能性が高まるため、親権争いで不利になります。

ただし、不倫・浮気の行為自体は親権にあまり関係しません。不倫・浮気が原因で親権取得に不利になるのは、たとえば、不倫するために子どもをひとりで家に残して夜に外出していたなど、子どもに悪影響を与えていたと判断されるケースです。

4. 母親が親権を取得するためのポイント

母親が親権を取得するために重要な取り組みや手段、そして協議離婚や第三者の活用、共同親権を見据えた対応についてご紹介します。

(1)子どもに対し日頃から真摯に向き合うこと

親権取得のためには、当然ではありますが日頃から子どもに対し愛情を持って真摯に接し、親としての責任を果たしておくことが重要です。

子どもに好かれようと甘やかす、歓心を買おうとするといった振る舞いなどは、逆に親権者としての適格性を疑われるおそれもありますので注意しましょう。

(2)日々の育児記録をつけておく

日常の育児記録が、自身が親権者として適格であることを裏付ける有力な証拠となります。

親権争いが裁判になった場合に親権を獲得するためにも重要な証拠になりますので、子どもの日々の様子や自分が行った育児の内容といった「育児記録」をつけるようにしましょう。

(3)相手方の子との面会交流にも配慮する

面会交流は相手方だけではなく子どもにとっても大切です。

相手方に思うところがあって自分は会いたくない、という場合であっても相手方にDVや虐待などがないのであれば、相手方が子どもと定期的に面会交流できる機会を設けるなど配慮を示すことも親権取得のためには大切なポイントになります。

(4)専門家を頼ると解決がスムーズに

親権争いは、当事者同士だけでは感情的になり話し合いがなかなか進まない可能性が高いため弁護士や調停委員を活用することがおすすめです。

専門家が間に入ることで冷静に話し合いが進みスムーズな解決が期待できます。また、弁護士に依頼をすれば、親権取得のためのアドバイスを受けることや、相手方との交渉を代理してもらうことも可能です。

(5)共同親権時代を見据えた準備

繰り返しになりますが、2026年5月24日までには共同親権制度が導入されます。共同親権導入後を見据えて円滑な親子関係の維持方法を考えておきましょう。

たとえば、面会交流のスケジュールを細かく決めておく、親権者同士でコミュニケーションをとるために対立状態を避けて協力体制を構築しておくなどの共同親権になった場合の準備をしておきましょう。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

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