
不倫した側でも離婚時に親権を取れる?
不倫をすると離婚時には「有責配偶者」となり、離婚条件(財産分与や慰謝料など)で不利になりがちです。しかし、親権の決定においては、不倫そのものが直接の判断基準とはなりません。そのため、「子どもの親権だけは譲りたくない」と考える場合でも、親権を獲得できる可能性は十分にあります。
本コラムでは、親権者決定の判断基準や、不倫が親権獲得に及ぼす影響について解説します。
1. 不倫したこと自体は親権決定への影響は少ない
まず大前提として、不倫自体は親権決定への影響はあまりありません。したがって、不倫した側であっても、親権を取得できる可能性があります。
親権者決定の判断基準と、不倫が親権に及ぼす影響について説明します。
(1)親権者の判断基準
家庭裁判所が親権者を決定する際には、子どもの利益を最優先に考えています。これは、親権の決定において「子の利益」を重視することが民法で明確に定められているからです。具体的には、以下の条文に基づいて判断されます。
民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者または子の監護の分掌、父または母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合において、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」
民法820条「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」
これらの条文からも分かるように、親権の決定は常に子どもの幸福を中心に考えられます。親の事情よりも、子どもの成長や福祉が最優先されるのです。このように、家庭裁判所は法律に基づき、子どもの最善の利益を守るために親権者を判断しています。
(2)不倫が親権にどのように影響するのか
不倫行為自体が親権決定に与える直接的な影響はあまりありません。親権には他の要因が重視されます。
裁判で重視される他の要因は以下のとおりです。
- ①母性優先の原則
- ②継続性の原則
- ③兄弟姉妹不分離の原則
- ④子どもの意思の尊重
詳しくみていきます。
①母性優先の原則
乳幼児の場合は、親権において母親が優先されるという原則です。これは、乳幼児期における母親との安定した関係が、子どもの発育に良い影響を与えると考えられているためです。
②継続性の原則
家庭裁判所は子どもの生活・精神の安定のために継続性を重視します。「継続性の原則」とは、それまで監護・養育を主に行ってきた親が親権において優先される原則です。
③兄弟姉妹不分離の原則
たとえば子どもが2人いる場合、父親と母親それぞれ1人ずつ引き取ると子どもが精神的に不安定になる可能性があるため、子どもが複数人いる場合は引き離さず一緒に育てるべきという原則のことを「兄弟姉妹不分離の原則」といいます。
④子どもの意思の尊重
すべての子どもの意思が裁判で尊重されるわけではありません。しかし、子どもが15歳以上の場合は、親権者をどちらにするのかについて子どもの意思が尊重されます。
子どもの成長にもよりますが、判断能力があると判断されれば10歳ごろから意思が尊重されるケースもあるでしょう。
この他にも監護の実績や精神的安定性、祖父母による育児サポートの有無なども親権取得と判断要素になりますが、「不倫をした」というだけで不利になることは通常ありません。
2. 親権者決定の流れと必要な手続き
離婚時に親権者がどのようなプロセスで決定されるのか、その具体的な流れを解説します。
(1)親権はまず夫婦間の話し合いから
協議離婚の際にまず行うのが、夫婦間での話し合いです。離婚条件をきめる協議離婚の話し合いでは、財産分与や年金分割などと合わせて親権についてもどうするか話し合っていきます。
“どちらが親権者になった方が子どもの利益になるのか”という観点から親権者を決め、養育費の支払い期間や金額、支払い方法、面会交流の有無や頻度、方法などについても決めましょう。
相手から「浮気した人に子供を任せたくない」と主張される可能性もありますが、先程から解説してきたように不倫をしたことと親権を獲得できるかどうかは別問題です。 親権を譲りたくない場合は「自分が親権者になった方が子どもの利益になる」という主張をすることが大切です。
話し合いがまとまった場合は離婚協議書を作成しますが、できれば公文書である公正証書を「強制執行認諾文言」を付けて作成することをおすすめします。強制執行認諾文言を付けた公正証書を作成することで、養育費の支払いが滞った場合に裁判を起こさずに強制執行手続きを取り、スムーズに相手の財産を差し押さえることができるからです。
(2)話し合いがまとまらない場合の対応
話し合いがまとまらない場合は「離婚調停」、離婚調停が決裂した場合は「離婚裁判」に進みます。
それぞれの手続きの特徴について説明します。
①調停で親権を決める手続き
「調停」は、裁判官1名と調停委員2名で構成される調停委員会の仲介のもとで話し合い、紛争を解決するための制度です。
家庭裁判所に調停の申し立てを行い、調停で話し合いを何度か行う中で調停委員からアドバイスを受けたり、和解案を示されたりしながら親権について話し合っていきます。
調停委員を味方にして自分の主張を認めてもらうためにも、以下の準備をしておきましょう。
- 自分の方が親権者に相応しいと主張するために育児の記録や離婚後の育児方針などをまとめておく
- 育児サポートが受けられるように祖父母や親戚に話を通しておく
- 調査官調査の家庭訪問に備えて家の整理整頓をしておく など
「調査官調査」とは家庭裁判所の調査官によって行われる調査のことで、どちらの親が親権者に相応しいのか判断するために行われます。
主な調査方法は「家庭訪問」や「子どもとの面談」、「家庭裁判所の面接室での様子観察」です。調査結果は原則「調査報告書」として書面で裁判所に報告されて、調査報告書を参考に話し合いを進めていきます。
なお、最高裁判所事務総局が公表している司法統計年報によりますと、2024年金分割の離婚調停における成功率は約40%です。
離婚調停が不成立になった場合、離婚裁判を提起する必要があります。
②裁判で親権を争う際の注意点
「離婚裁判」は裁判官によって争いに対する判決を下してもらう制度です。離婚裁判では当事者の主張や資料・証拠、調査官調査の結果が重要視されます。
お互いが監護実績を主張したとき、証拠がないとどちらの主張が正しいのか裁判官も判断が難しくなるため、自分の主張が正しいことを裏付けるためにも有効な証拠を必ず準備しておきましょう。有効な証拠については3章で詳しく解説します。
親権者指定を請求する離婚裁判では、裁判官によって親権者が指定され、判決が確定すると親権者指定の効力が生じる流れです。
なお、離婚裁判は調停をとばしていきなり提起することができない決まりになっています(調停前置主義)。そのため離婚裁判の提起の前に離婚調停を行わなければなりません。
3. 不倫した側でも親権を獲得するために重要なポイント
不倫した側でも親権を獲得できるための実践的なポイントを解説します。
(1)子どもの生活を守る親としての行動
子どもとの日常的な接点が、親権争いでは重要です。経済的な安定はあまり問題にはならず、育児の知識や経験などの監護実績が親権獲得の重要な判断要素のひとつになるため、以下のような行動を心がけましょう。
- 子どもの食事の世話をする
- 幼稚園や保育園などの送り迎えをする
- 子どもに勉強を教える
- 子どもと積極的に遊んだり会話したりする
- 子どもを寝かしつける
- 子どもとお風呂に入る
- 子どもと関わる時間がとれるように仕事を調整する など
(2)親権獲得のために準備すべきこと
先ほど解説したように、親権争いが裁判に発展した場合、証拠の収集が親権獲得において重要なポイントになります。
自分が親権者に相応しいことを裏付ける証拠として、以下のものを準備しておきましょう。
- 幼稚園や保育園、学校の連絡帳
- 詳細に記録している育児日記
- 監護している様子がわかる写真や動画 など
育児日記はできるだけ毎日詳細につけた方が、説得力があります。写真や動画は正確な日時を記録しておくことが大切です。
また、相手が親権者として相応しくない証拠を用意しておくことをおすすめします。相手が虐待や育児放棄などをしている場合は、子どもが虐待を受けているときの音声や動画、怪我の写真や診断書などが有効です。
(3)協議離婚での親権合意を目指すには
協議離婚で親権を合意するためには、感情的にならず冷静に話し合いを進める必要があります。また、相手に面会交流を積極的に認めることで親権を獲得できる可能性もあるでしょう。
当事者同士での親権についての交渉は揉める可能性が高いため、交渉で親権について合意し協議離婚を成立させるためには第三者の力を借りることも大切です。
(4)調停や専門家のサポートを活用する
弁護士や家庭裁判所の調停を活用することで、感情的にならずに話し合いが進むことが期待できます。
自分が不倫をしたことが離婚原因の場合、相手からすると「不倫する人に自分の子どもの親権を取られたくない」と感じるのも無理はありません。そうなると、いくら冷静に相手を説得しようとしても聞く耳を持ってもらえないおそれがあります。
弁護士や調停委員という第三者が入ることで相手も冷静になり、子どもの利益を第一に考えた話し合いを進め、裁判まで発展せずに解決できる可能性があります。話し合いが揉めそうな場合は、ぜひ弁護士のサポートを受けることもご検討ください。
- こちらに掲載されている情報は、2025年03月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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