離婚後の「共同親権制度」導入で「子の養育費」は請求しやすくなるか
2026年5月までに改正民法が施行され、離婚後の共同親権が認められるようになる予定です。
共同親権の場合も、養育費に関する考え方は基本的に従来の単独親権と変わりません。
しかし、父母の双方が子どもの養育に責任を負うことが明確になるほか、法定養育費制度も新設されるので、従来に比べて養育費の取り決めがしやすくなることが期待されます。
本コラムでは、新たに導入される離婚後の共同親権制度の概要や、共同親権の場合における養育費の取り扱いなどを解説します。
1. 共同親権とは
「共同親権」とは、父母が共同で子どもに対して親権を行使することをいいます。
(1)親権の内容
親権には、以下の権利が含まれます。
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財産の管理権(民法824条)
子どもの財産を管理し、その財産に関する契約などの法律行為を子どもに代わって行う権利
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子どもの法律行為に関する同意権・取消権(民法5条)
子どもの法律行為に対して同意を与える権利、および親権者の同意がない子どもの法律行為を取り消す権利
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監護教育権(民法821条)
子どもに対して監護および教育をする権利
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居所指定権(民法822条)
子どもが住む場所を決める権利
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職業許可権(民法823条)
子どもに職業を許可する権利
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身分行為の代理権(民法775条、787条、804条)
嫡出否認の訴え、認知の訴え、養親が20歳未満の場合における養子縁組の取消しについて、子どもを代理する権利
共同親権の場合は、上記の各権利を父母が共同で行使します。
(2)民法改正により、離婚後の共同親権が認められるようになる
現行民法では、父母の婚姻中は原則として共同親権となりますが、父母が離婚した場合には、子どもの親権者をいずれか一方のみとする必要があります(=単独親権)。
しかし、2024年5月に成立した改正民法により、離婚後の共同親権が新たに認められることとなりました。改正民法は、2026年5月までに施行される予定です。
改正民法の施行後、離婚後は単独親権と共同親権のどちらも選択できるようになります。
どちらを選ぶかは父母間の協議によって決めるのが原則ですが、協議がまとまらないときは裁判所が判断します(改正民法819条5項)。虐待やDVなどの事情が認められる場合は、裁判所は単独親権とする判断をしなければなりません(同条7項)。
また、裁判所によって事後的に親権者が変更されることもあります(同条6項)。
(3)単独親権と共同親権の違い
単独親権では、父母の一方が単独で親権を行使できます。
たとえば、子どもが当事者となる契約を締結する際には、親権者1人の同意があれば足ります。また、子どもの住む場所も親権者が1人で決められます。
これに対して共同親権の場合は、監護・教育に関する日常の行為を除き、原則として共同で親権を行使しなければなりません(改正民法824条の2-1項、2項)。
たとえば、子どもが当事者となる契約を締結する際には、父母がいずれも同意を与える必要があります。子どもの住む場所を決める際にも、父母の合意を要するのが原則です。
共同親権の行使に関して、父母間の意見が食い違って協議が調わないときは、家庭裁判所が個々の事項について単独で親権を行使できる旨を定めることができます(同条3項)。
2. 共同親権の場合における養育費
離婚後の共同親権を選択する場合でも、養育費に関する考え方は、単独親権の場合と基本的に同じです。
しかし、父母の双方が子どもを養育する責任が明確になり、法定養育費制度も新設されるため、従来よりも養育費の取り決めがしやすくなるでしょう。
(1)父母双方が養育費の分担義務を負う|単独親権と基本的に同じ
父母が離婚した後も、子どもに対しては、父母それぞれが親子関係に基づく扶養義務を負います(民法877条1項)。
子どもと一緒に暮らす親は日常生活の中で養育費を負担する一方で、子どもと一緒に暮らさない親は、もう一方の親に対して養育費を支払うことによって扶養義務を果たします。
上記の考え方は、共同親権でも単独親権でも同じです。したがって、共同親権の場合も従来と同様に、非同居親が同居親に対して養育費を支払う義務を負います。
(2)離婚時に協議で養育費の分担を定めることが望ましい
養育費の分担(金額・支払方法・期間など)は、離婚時に協議で決めておくことが望ましいです。
共同親権を選択する場合は、父母の双方が子どもの養育に対して責任を負うことが明確になります。その結果、子どもとの面会交流などとともに、養育費に関する協議も促されることが期待されます。
協議によって養育費を取り決める場合は、その内容を公正証書にまとめて締結しましょう。万が一養育費が不払いになっても、公正証書を用いて直ちに強制執行を申し立てることができます。
養育費については、1回の強制執行によって将来にわたる給与債権を差し押さえることも可能です(民事執行法151条の2-1項3号、2項)。
(3)法定養育費制度が新設|協議がまとまらない場合に活用を
離婚時に養育費を取り決めていない場合、これまでは改めて協議を行うか、または家庭裁判所の養育費請求調停・審判を通じて養育費を請求するほかありませんでした。
離婚後の共同親権が導入される改正民法により、併せて「法定養育費制度」が新設されます。
法定養育費制度を利用すると、元配偶者との間で養育費の取り決めがなされていなくても、毎月末に一定額の養育費を請求できます(改正民法766条の3)。
さらに改正民法により、養育費に関する債権に「一般の先取特権」が付与されます(改正民法306条-3号、308条の2-3号)。一般の先取特権とは、債務者の総財産から優先的に弁済を受けられる権利です。
一般の先取特権が付与されることにより、養育費の支払義務を確定させる債務名義(=強制執行に用いる公文書。確定判決、調停調書、審判書など)がなくても、養育費を回収するために元配偶者の財産を差し押さえることができるようになります。
法定養育費制度と一般の先取特権に基づく差押えを併せて活用すれば、元配偶者との間で合意に至っていなくても、養育費をスムーズに回収することができるでしょう。
3. 共同親権と養育費に関する悩みは弁護士に相談を
離婚後の共同親権については、希望する方もそうでない方もいらっしゃるでしょう。個々の事情を踏まえて、離婚後の親権者を適切に定めるためには、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
また弁護士には、養育費の請求についても相談できます。新たに導入される制度を含めて幅広い方法を活用し、適正額の養育費を獲得するために尽力してもらえるでしょう。
共同親権や養育費など、離婚に伴う問題についてお悩みの方は、自分だけで抱え込むことなくお早めに弁護士へご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年11月29日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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