離婚相手が財産分与・慰謝料・養育費を払わないとどうなる? 履行されない場合の対処法
離婚時に特有財産以外の財産(共有財産)を分け合うことを財産分与と言いますが、財産分与や慰謝料、養育費についてせっかく取り決めをしていても離婚相手が支払わない場合があります。
支払いを履行してもらうにはどのように対処すればいいのでしょうか?
本コラムでは、財産分与や養育費などの取り決めが履行されない場合の対処法を解説します。
1. 財産分与の取り決めが履行されない場合にとるべき方法
財産分与には、共有財産を分与する最も基本的な「清算的財産分与」の他にも、慰謝料の意味合いを含めて本来慰謝料を受け取る側に多めに財産分与を行う「慰謝料的財産分与」、離婚後に経済的に困窮する元配偶者への扶養を目的にした「扶養的財産分与」があります。
いずれにしても、財産分与を受け取れないと受取人の生活が困窮してしまうおそれがあります。
離婚時に取り決めた財産分与が履行されない場合、いきなり「強制執行」を行うことも可能です。しかし、裁判手続きの時間や手間を考慮し、まず「内容証明郵便を送る」という方法や「履行勧告を行う」という方法で履行を促すこともできます。
以下、「内容証明郵便」と「履行勧告」について解説します。
(1)内容証明郵便
「内容証明郵便」は発送日や発送場所、文書の内容などを郵便局が証明してくれる制度のことです。内容証明郵便を送る意義は主に2つあります。
1つ目の意義は「履行を催告したという証拠になる」ということです。
債権には時効があり、時効が完成すると取り決めをしていた金銭の支払いを債務者から受けられなくなってしまいます。しかし、内容証明郵便を送れば、履行を催告した証拠になり、時効の完成を6か月猶予させることができるのです。
2つ目の意義は、相手に「財産分与、慰謝料、養育費を支払わないと裁判になるかもしれない」というプレッシャーを与えられることにあります。プレッシャーを与えることで、債務者が自発的に支払い義務を履行することが期待できるのです。
内容証明郵便には以下の事項を記載します。
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表題
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通知内容
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日付
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受取人の住所氏名
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差出人の住所氏名
これらの必要事項を記載した文書とそのコピー2部、差出人と受取人の住所氏名を記載した封筒を用意して内容証明を扱う郵便局に提出し、内容証明の加算料金を含む郵便料金を支払うことで、内容証明郵便を送ることができます。
なお、内容証明郵便を送る前提として、離婚時に財産分与の取り決めについて「公正証書」を作成しておくことが重要です。「公正証書」は公証役場で公証人が作成する公文書であることから証拠価値が高く、相手から「そんな約束をしていない」と反論された場合の重要な証拠になります。
また、後述する「強制執行認諾文言」を付与した公正証書を作成していれば、「この内容証明を無視したら強制執行で財産を差し押さえられてしまう」というプレッシャーを相手に与えることができ、債務を履行してもらえる可能性が高まるでしょう。
そのため、取り決めは「公正証書」にしておくことが重要なのです。
ただし、内容証明郵便自体はあくまでも履行の催促にとどまるため、これを無視されても支払いを強制することはできないことを留意しておきましょう。
(2)履行勧告
「履行勧告」とは、裁判所から債務者に対して「義務を履行しなさい」と促してもらう制度です。
履行勧告を無視された場合は「履行命令」を行うことができます。「履行命令」は、裁判所から「期限内に取り決めどおりに支払いなさい」と支払い義務者に義務の履行を命令してもらう制度です。
履行命令に従わない場合、10万円以下の罰金(過料)を課される可能性があるため履行勧告よりも債務を履行してもらえる可能性はあります。
これらの制度は、裁判所に作成してもらった債務名義がある場合に利用できる制度です。裁判所からの支払い催促のため、内容証明よりも相手にプレッシャーを与え、支払いに応じてもらえることが期待できるでしょう。
ただし、「履行勧告」も「履行命令」も、内容証明郵便と同様に強制力はありません。そのため、これらの制度を利用しても、必ずしも財産分与などの不履行の問題が解決するとは限らないのです。
2. どうしても支払ってもらえない場合は強制執行
内容証明郵便や履行勧告、履行命令を行っても支払ってもらえない場合は「強制執行」を行いますが、そのためには「債務名義」が必要です。
強制執行の申し立てに必要な「債務名義」の主なものは、以下のとおりです(民事執行法22条参照)。
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確定判決
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仮執行宣言付き判決
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強制執行認諾文言付き公正証書
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和解調書
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調停調書
など
この中から特に「公正証書」「和解調書」「調停調書」の3つについて説明します。
(1)公正証書
前述のとおり、公正証書は公証人の作成する公文書です。公正証書には夫婦で協議し、取り決めた離婚条件を記載しますが、ここで重要なポイントがあります。それは「強制執行認諾文言」を付けておくということです(民事執行法22条5号)。
「強制執行認諾文言」とは、「債務者が金銭の支払い義務を怠った場合は、直ちに強制執行を受けることに同意した」などの文章のことです。これがあれば調停や裁判を起こさずに強制執行の申し立てをすることができます。
公正証書の作成の大まかな流れは以下のとおりです。
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公証役場に連絡する
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必要資料を用意する
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公証人と面談する
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公証人が公正証書の原案を作成する
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公正証書の原案を確認後、記名押印して手数料を支払う
(2)和解調書
「和解調書」は、裁判の途中の話し合いによって和解に至ったような場合に裁判所書記官によって作成される文書で、確定判決と同じ効力があります。
そのため当事者は和解調書に記載された義務を履行する義務があり、その義務が履行されない場合は強制執行を申し立てることが可能です。
(3)調停調書
裁判官や調停委員の仲介のもと当事者で話し合って紛争を解決する制度を「調停」といいます。「調停調書」は調停が成立した場合、その取り決め内容を裁判所に記載してもらう文書のことです。
調停には、離婚前に財産分与などの離婚条件でもめた場合に起こす「離婚調停」、離婚後に起こす「養育費請求調停」「財産分与請求調停」「慰謝料請求調停」などさまざまな種類がありますが、調停で合意に至れば「調停調書」を作成してもらうことができます。
「調停調書」も、その内容が守られない場合に「債務名義」として強制執行を申し立てることができるのです。
3. 強制執行の方法
強制執行の中でもよく用いられるのが、給料や預貯金を差し押さえる「債権執行」の方法です。以下、解説します。
(1)債権者が地方裁判所に申し立てる
まず、債権者が地方裁判所に強制執行の申し立てを行います。申し立てる先の裁判所は、原則として「債務者の住所地を管轄する地方裁判所」です(民事執行法144条1項、民事訴訟法4条)。
(2)差押命令が出される
裁判所に申し立てが認められると、債権差押命令が発令されて債務者と第三債務者には債権差押命令、債権者には送達通知書が送達されます。
「第三債務者」は、債務者に対してさらに債務を負っている相手のことです。債務者の給料を差し押さえる場合は「雇用主」、債務者の預貯金を差し押さえる場合は「金融機関(銀行など)」が第三債務者にあたり、債権執行に協力する義務があります。
(3)差押え
いよいよ差押えです。債務者への債権差押命令が送達された日から一定期間経過すると、債権者は第三債務者に対して取り立てを行えるようになります。
債権の種類によって期間は異なりますが、金銭債権の場合、取り立て可能になるまでの期間は、原則として送達日から「1週間」です(民事執行法155条1項)。
そのため、財産分与や養育費については「1週間」経てば債権者が直接滞納分を取り立てることが可能になります。給料を差し押さえたい場合は、債権者自ら債務者の勤務先に連絡して給料を回収することができるようになるのです。
また、養育費については特別な制度が設けられています。
強制執行は原則として未払い分についてのみ行うことができますが、養育費については未払い分に加えて「将来分」を差し押さえることが可能です。そのため、1回の強制執行手続きで毎月の給料を差し押さえることができます(民事執行法151条の2)。
将来分を差し押さえるためには、差し押さえる対象が「給料」や「家賃収入」など債務者が継続的に支払いを受ける金銭債権でなければなりません(民事執行法151条の2-2項)。
4. 弁護士に相談する必要性とメリット
財産分与や養育費、慰謝料の未払いを回収するためには、さまざまな方法や手続きがあります。どう対処すればいいのか迷っている間に時効が成立して支払いを受けられなくなってしまう場合や、複雑な手続きに精神的負担がかかる場合もあるでしょう。
弁護士に相談すると、ケースに応じた的確なアドバイスを受けられることで、自分だけで進めるよりも円滑な未払い分の回収が期待できます。また、複雑な手続きや相手との交渉を任せることで精神的な負担も軽減できるでしょう。
円滑な問題解決のためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年10月02日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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