相手の認知症を理由に離婚できる? 必要な手続きについて解説

相手の認知症を理由に離婚できる? 必要な手続きについて解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

認知症はさまざまな原因によって認知機能が低下し、社会生活に支障をきたしている状態です。配偶者が認知症になり、介護のつらさや今後の生活への不安から離婚を考える方がいても無理はありません。

本コラムでは、配偶者の認知症を理由に離婚することの可否と、必要な手続きについて解説します。

1. 認知症の夫・妻と離婚することはできるのか

結論から言うと、配偶者の認知症を理由に離婚することは可能です。ただし、認知症の進行程度によって、離婚の進め方が異なります。

認知症の詳しい内容と、程度に応じた離婚の進め方をみていきましょう。

(1)認知症とは

厚生労働省によると、「認知症」とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んだため、あるいは働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、およそ6か月以上継続して生活に支障が出ている状態のことです。

認知症の進行は、その症状によって以下の4段階に分けられます。

  1. 前兆(軽度認知障害)

    物忘れなどの症状はあるが日常生活にほとんど影響がない状態

  2. 初期(軽度)

    物忘れ、気分の落ち込み、混乱、時間感覚や集中力の低下などにより日常生活に支障が出始める状態

  3. 中期(中度)

    食事をしたことや自分のいる場所もわからなくなりさらに日常生活に支障が出て、周囲のサポートが必要になる状態

  4. 末期(重度)

    さらに症状が深刻化し、自立できず、コミュニケーションをとること自体も困難になり手厚い介護が必要な状態

(2)認知症の程度に応じた離婚の進め方

離婚する方法は、主に「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つの方法があります。詳しくは以下のとおりです。

  • 協議離婚

    夫婦で話し合って離婚に合意し、市町村役場に離婚届を提出する

  • 調停離婚

    家庭裁判所に離婚調停を申し立てて調停委員や裁判官を交えて話し合い、調停が成立したら市町村役場に調停調書謄本と離婚届を提出する

  • 裁判離婚

    調停不成立の場合に離婚訴訟を起こして、裁判官によって離婚を認めてもらったら判決謄本と確定証明書、離婚届を市町村役場に提出する

症状の進行程度によってとれる離婚の方法が異なるため、「軽度で判断能力がある場合」と「重度の場合」の2つに分けてみていきましょう。

①軽度で判断能力がある場合

症状が軽度で会話や離婚について理解できている状態、いわゆる判断能力があると認められるような場合は、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」をすることが可能です。

②重度な場合

症状が重度の場合は会話をするのも難しいため、「協議離婚」や「調停離婚」はできません。そのため、「裁判離婚」を目指すことになります。

ただし、重度の認知症の配偶者の場合、意思能力がないと考えられますので法的な手続きを自分で行うことができません。したがって、裁判離婚を進めるためには、まず配偶者の「成年後見人」を選任する必要があります。

2. 認知症は「法定離婚事由」にあたるのか

「裁判離婚」を成立させるためには「法定離婚事由」に該当する離婚原因が必要です。

「法定離婚事由」とは何か、そして認知症がどの法定離婚事由に該当するのか解説していきます。

(1)法定離婚事由とは

「法定離婚事由」は、法的に認められる離婚原因のことです。民法770条には以下の5つが法定離婚事由として規定されています。

  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 配偶者の生死が3年以上不明
  • 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない
  • その他婚姻を継続しがたい重大な事由

上記のどれかに当てはまる事由がある場合、裁判で離婚が認められる可能性があるのです。

(2)認知症はどの法定離婚事由に該当するのか

認知症は、一見すると「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない」という法定離婚事由に該当しそうに思えます。しかし、裁判では認知症は該当しないと判断される可能性が高いです。ではどれに該当するのでしょうか?

該当する可能性があるのは「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」です。しかし、単に「認知症を患っている」という理由だけではこれに該当せず、離婚請求が認められません。

「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当し、離婚請求が認められる可能性があるのは、以下の条件を満たした場合です。

  • 認知症により夫婦関係が破綻している
  • 献身的に介護してきた実績がある
  • 認知症の配偶者の、今後の見通しが立っている

つまり、夫婦関係が破綻していない場合や介護に全く貢献していない場合、離婚後に認知症の配偶者の面倒を見てくれる人が他にいない場合には、離婚請求が認められない可能性が高いのです。

認知症の配偶者を相手に裁判離婚を成立させるためには、これらの条件について留意しておきましょう。

3. 認知症を理由に離婚したいときは弁護士に相談を

前述のとおり、相手の認知症の進行程度によって、とれる離婚方法・とるべき手続きが変わるため弁護士への相談がおすすめです。

認知症の進行程度によって異なる離婚方法・必要手続きを改めて確認した上で、弁護士に相談するメリットをご紹介します。

(1)認知症の進行程度に応じた離婚方法・必要な手続き

①軽度の認知症の場合

軽度の認知症の場合にとれる離婚方法は「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」ですが、「協議離婚」や「調停離婚」を成立させるためには相手の同意が必要です。

また調停や審判、裁判での離婚を目指す場合は法定離婚事由に該当する必要がありますが、軽度の認知症の場合は認知症以外の法定離婚事由がないと離婚が認められない可能性が高くなります。

②重度の認知症の場合

重度の認知症の場合にとれる離婚方法は「裁判離婚」だけです。

ただし、裁判の手続きを進めるためには、重度の認知症である、配偶者のための成年後見人を選任する手続きが必要になります。

(2)弁護士に相談するメリット

認知症の配偶者との離婚を弁護士に相談すると、その進行程度に応じたアドバイスを受けることが可能です。

また、軽度の場合はなるべく話し合いで離婚が成立するように相手との交渉を任せることや、調停や裁判に進んだ場合の手続きや対応を一任することもできます。

さらに、弁護士に依頼すれば離婚手続きだけでなく、重度の場合に必要な成年後見人の申立手続きも任せることができるため、ご自分で全て行うよりも手続きがスムーズに進むでしょう。

ただでさえ介護で疲弊している中、相手との交渉や調停・訴訟手続きなどをご自身だけで行うことは大きな負担になります。認知症の配偶者との離婚を円滑に進めるためにも、まずは弁護士に相談しましょう。

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